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有識者ヒアリング情報vol.2「ESG投資と非財務情報の重要性」

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2015年は、日本でESG投資を促進する上で大きなターニングポイントとなる年でした。そこで5回にかけて、2012~2013年にESGコミュニケーションについて取材した有識者の方々のインタビュー記事を改めて紹介しています。今回はそのvol.2になります。

前回挙げた通り、2015年のトピックスは大きく2つ…「1.日本の公的年金運用機関がPRIに署名」「2.コーポレートガバナンス・コード」がありました。こちらの詳細については、是非前回をご覧ください

有識者ヒアリング情報vol.1「SRIとESG投資の違いとは?」

さて、連載vol.2では、NPO法人 社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan)会長の荒井勝(アライ・マサル)氏に2013年9月に伺った「ESG投資と非財務情報の重要性」について振り返ります。


有識者ヒアリング情報vol.2「ESG投資と非財務情報の重要性」


Q1.企業にとってESG情報の開示や統合報告に取り組むのは大変な労力と時間がかかりますが、そうした取り組みにはどのような意義があるのでしょうか?

そうしたご質問を受けることがよくあります。その質問の裏には、企業側は大変な努力をしているのに投資家は本当に情報を使っているのだろうかという疑問があるようです。投資家向けのIRミーティングでESGについて質問を受けないという話しもよく聞きます。

日本株投資に積極的な海外のESG投資家の一部が日本企業を訪問しています。そうした運用会社のアナリストやファンドマネージャーとお話しする機会がありますが、その経験を踏まえますと、次のように考えられます。

ESG投資家の訪問を受けない企業、あるいはESG投資家から質問を受けない企業は、熱心なESG投資家にとってはあまり興味のない企業である可能性が高い。あるいはESG情報の開示が十分でないので訪問して質問するまでもない企業と考えられている可能性がある。


Q2.そのように考えられるのはなぜなのでしょうか?お会いになったアナリストやファンドマネージャーとの会話からそのように感じられているのですか?

話しをしてあらためて気づく点があります。例えばそうした投資家が日本を訪問しても滞在期間は1週間程度ですから、訪問できる企業は限られます。訪問した企業を聞いてみると意外な企業も多いという印象です。日本へ来る前に訪問先をかなり絞っています。限られた時間を有効に利用するためです。ですから関心のない企業へは訪問しません。

通常の投資でもそれほど変わりはありません。企業訪問やIRミーティングで質問するのは株主全体のほんの一部ではないでしょうか。

また一般的に企業を選択してアクティブに投資する場合は、まず財務データなどに基づいて投資先を絞り込みます。その上で投資する価値がありそうな企業をより詳細に調査します。ESG投資であれば財務情報の分析と平行してESG開示情報を調べます。ですから、開示情報が十分でなければスクリーニングの段階で投資候補から外れると考えるべきでしょう。開示が悪い企業に対して改善してくださいと投資家が企業にお願いすることもほとんどないでしょう。そうした要望が出るとすれば投資家が見込みのある企業と考えているからです。通常は投資対象外とするのではないでしょうか。


Q3.企業を訪問し、あるいはIRミーティングで質問する投資家は限られる。ESG投資でも同様だという事ですね。そのほかに重要と考えられることはありますか?

おそらく一般的に考えられているよりもESG投資家がはるかに多いことを再認識する必要があると思います。

世界各国のSIFが集めた数値をベースとしたレポート(2012Global Sustainable Investment Review)が年初に出ていますが、世界の責任投資の残高は2011年末で13.6兆ドル(1330兆円)になっています。欧州がその64.5%、また米国が27.6% を占めています。投資全般に占めるESG投資の資産割合は欧州が49% 、米国が11.2%、カナダが20.2%、オーストラリアとニュージーランドは合わせて18% となっています。この比率が通常の投資を含めた投資全体に占めるESG投資の割合であることに注意してください。非常に高い比率であることに驚かれると思います。日本ではESG投資が投資全体の0.2%と世界とは比較にならないため、なかなか実感できないと思います。この数値についてはもう一度真剣に考えてほしいと思います。自社へ投資している海外投資家の内でESG投資がどの程度あるか、この比率から想定することも重要ではないでしょうか。

また、経済のグローバル化や新興国の台頭などの影響もあり、多くの日本企業がこれまでの企業戦略を変えることを迫られています。

高度経済成長の時代に投資家が知りたかったのは、企業がどのように成長する戦略をもっているかという点でした。しかし現在のような環境下では、大きく変化する世界経済にどのような戦略で対応するのか、あるいは生き残る戦略をもっているかが知りたい点です。

つまり、企業が将来に向けてどのような戦略をとるかという非財務情報は、企業の将来価値や株価がどうなるかを考えるために不可欠な情報であり、いつの時代にも重要な情報と言えます。


Q4.欧州では投資のほぼ半分でESGを考慮しているというのは驚きですね。では最初の質問に戻りますが、企業にとってESG情報の開示をすることはどのような意義があるのでしょうか?

ESG情報やCSRなどの非財務情報を企業が開示する意義を考えるには、遠回りのようですが、「株式とは何か」ということから考えてみると理解しやすいように思います。

企業が資金を調達する方法はいくつかあります。短期の資金調達であれば自己資金や銀行借り入れ、あるいはCPの発効によって調達するでしょう。

では企業が株式で資金を調達するのはどのような場合でしょうか。設備投資などの長期的な目的に資金を必要とする場合と思われます。工場建設などでは10年あるいは20年という将来を視野に入れることもあります。このような長期的な資金調達・投資の目的は、企業の将来価値を高めることにあると思えます。

株式のこうした側面を考えると、株式に投資する投資家は長期的に企業の価値が高まること、その結果として株価が上昇することを期待していると考えられます。

そうであれば、ESG投資とは、これまでのSRIのように一部の企業だけを対象とするものではなく、全ての企業を投資対象とするものとなります。また、通常の運用でESG情報を考慮して投資する考え方につながります。それには、財務情報に加えてESG情報も評価して投資できるようにする必要があります。

投資家は大きく2つのグループに分けることができます。ひとつはトレーダーと呼ばれる短期投資を行う人達です。高速取引あるいは高頻度取引といわれる電子取引では注文処理がミリ秒(1/1000秒)単位となっており、日本でも欧米でもこうした取引が株式取引の40?60%程度にまで拡大しています。こうした投資家は株価の動きにのみ興味がある投資家と言えます。

一方で投資信託や年金基金の投資ではこのような手法はとりませんし、してはいけないことになっています。中長期の投資成果を目指すのが資金の性格だからです。このような投資家は企業の財務内容や企業価値、将来価値を考えて投資します。企業が受ける印象は投資家が半年先や1年先しか考えていないというものが多いようですが、必ずしもそうではないことは前回お話ししました。

このように考えますと、ESGを考慮する投資家は企業にとって安定株主であり、また企業の中長期的な戦略を理解して投資する、企業にとっては応援団のような望ましい投資家と考えられるのではないでしょうか。言いかえますと、安定株主、優良な株主基盤を作るにはESG情報の開示が重要と思われます。これこそが企業がESG情報の開示を重視すべき最大の意義ではないかと考えています。

略歴:荒井 勝 (あらい まさる)氏

1972年慶應義塾大学商学部卒。同年大和証券入社。1976年カイロ・アメリカン大学アラビア研究センター終了。The Saudi Arabian Investment Company(サウジアラビア)出向、大和ANZインターナショナル(オーストラリア)社長等を経て、1992年大和証券投資信託委託入社。2003年常務執行役員運用本部長(CIO)就任。2006年取締役兼専務執行役員就任。2011年顧問就任、2012年退任。2012年3月社会的責任投資フォーラム(SIF-Japan)会長就任。 2001年投資信託協会 業務部会委員、2003年同部会長。2007/09年GRIガイドライン第3次改訂・投資家諮問委員会メンバー(ニューヨーク、ロンドン)。2005年FTSE4Good政策委員会メンバー就任(ロンドン)。2008/09年環境省「環境金融普及促進調査検討会」委員。2009年CDP-Japan(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)アドバイザリー・グループ委員就任。2010年エコステージ第三者評価委員会委員就任。 2004年大和証券投資信託初の社会責任投資(SRI)ファンド設定、SRI調査・運用体制立ち上げ。投資信託専門誌などに長年寄稿。国内外の責任投資ならびにイスラム金融関連セミナーへスピーカー、パネリストとして多数参加。

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