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バングラデシュ、ビル倒壊の教訓――下田屋毅の欧州CSR最前線(31)

バングラデシュの首都ダッカ近郊のサバールで、2013年4月24日に発生した8階建てビル「ラナ・プラザ」倒壊事故。この事故では1,129人が死亡し、バングラデシュでの過去最悪の産業事故になった。ラナ・プラザには、当時5つの縫製工場が入り、従業員は3千人以上いたという。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

ラナ・プラザは、もともと5階建て商業用ビルとして建築されたが、複数の縫製工場の入居に対応するために、既存の5階の上に3階を違法に建て増ししていた。崩壊前日、建物に亀裂が発見され、警察から避難勧告が出されていたが、ビルのオーナーはそれを無視した。従業員は強制的にビル内で働かされ、ビル崩壊に遭遇してしまった。

バングラデシュの産業事故はこのラナ・プラザビル崩壊が初めてではない。2005年4月に同じくサバールで建物崩壊が発生し、労働者64人が死亡。2006年から2009年の間に少なくとも213の工場火災で、400人以上の労働者が死亡している。

記憶に新しい災害では、2012年11月ダッカにあるタズリーンファッション社の衣料品工場の火災で117人の労働者が死亡し、また対策の不備による度重なる火災によって、労働者はそのたびに犠牲になってきた。この2012年11月の火災を受けて、バングラデシュの工場の火災・安全対策への懸念は一気に高まり、対策について検討されていたが、実行が遅れこの災害の発生につながった。

バングラデシュの繊維工場での考え得る問題点をここで整理する。


■政府に関わる問題

  • 行政の監理不行き届き
  • 違法建築を見過ごしてきた過失責任あり
  • 縫製工場は、5千工場中たった232工場しか建築に関する検査を受けてない状態で、そのうちの25%は基準を満たしていない


■工場所有者に関わる問題

  • 工場所有者、管理者の監督不行き届き、法令軽視
  • 工場の建物の多くが違法建築で、建築構造上の欠陥がある
  • 工場の火災対策、安全衛生対策の不備がある(安全衛生を確保する文化なし)
  • 欧米企業との取引の確保の為、安い発注価格を受け入れなければならない状況があり、人件費・生産コストを低く抑えなければならない事情がある
  • 納期の確保についての、工場経営者に対する欧米アパレル企業の無言の圧力があり、工場の生産体制を常に確保しなければならない状況に陥っている(倒壊当日、工場管理者が操業続行を労働者に強要)
  • 苦情に無関心


■工場労働者に関わる問題

  • 労働条件が過酷(1日10時間以上の労働、週6日勤務、月収平均約38ドル)
  • 労働者福祉の軽視、劣悪な労働環境、強制労働
  • 工場管理者が一方的に強く、労働者が労働環境の不備などに対して声を上げられない
  • 安定した雇用が確保されていない
  • 組合結成の自由と団体交渉権がない


■欧米企業に関わる問題

  • ファストファッション、マーケットでの低価格競争と消費者の意識
  • バングラデシュ工場からの搾取の構造あり。欧米企業のみ恩恵を被り、労働者の犠牲によって成立(便益を享受する加担・沈黙を続ける加担)

今回の事故から、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」にいう、国家による人権保護の義務、人権を尊重する企業の責任、人権侵害を受けた者への救済へのアクセスについて、バングラデシュでの人権配慮が著しくかけている状況が露呈したのである。

この状況を踏まえて、バングラデシュ政府、欧州連合、国際労働機関(ILO)、米国政府、欧州アパレル企業、北米アパレル企業が行動を起こしている。


■バングラデシュ政府の対応
バングラデシュ政府は、このビル崩壊事故を受けて、ダッカにある16の衣料品工場、チッタゴンにある2つの衣料品工場を安全面で問題があるとして閉鎖を指示。また政府はバングラデシュ国内全工場(約5千工場)の検査を命じた。

2013年7月15日にバングラデシュ政府は、従業員の権利と職場の安全性の向上を強化する目的で「バングラデシュ労働法2006」の改正を可決。この法律は、労働者は工場所有者の許可を得ることなく労組を作ることが認められることを含むものであるとしている。

しかし、この改正について、「西側政府をなだめるためになされ、そのために早く可決されたので、重要な部分についての変更がなされていないものだ」との批判もある。


■欧州連合とILOの動き
欧州連合、国際労働機関(ILO)、とバングラデシュ政府は2013年7月8日、「共同声明:バングラデシュの既製服とニット産業における労働者の権利と、工場出荷時の安全性の継続的な改善のためのサステナビリティ・コンパクト」を発表した。

この「サステナビリティ・コンパクト」は、バングラデシュでの、労働者のための労働、安全衛生の条件を改善するだけでなく、既製服産業で企業が責任ある行動を促すことを目指していて、バングラデシュ労働法の改革を実施するなどILOの監視の下2014年6月までに実施項目について早急に改善を促し、定期的な会議の開催によって効果を確認していくという。

■米国政府の動向
オバマ大統領は2013年6月27日、工場崩壊をきっかけに、バングラデシュに対し米国の一般特恵関税制度を凍結したと発表。そしてさらに米国政府は2013年7月20日、バングラデシュのための行動計画を発表。

この行動計画は、バングラデシュの労働者の安全性の向上を目指し、検査官の研修を改善し、安全基準違反者に罰則を課す一方、労働、火災、建物に関する検査官の数を増やすことを求めている。米国政府は声明で、労働、火災、建物に関する安全基準に違反している縫製工場の輸出ライセンスをはく奪するなど、厳しい罰則を課すこともバングラデシュ政府に促している。


■主要アパレル企業の対応

  • 欧州のアパレル企業
  • 欧州の主要アパレル企業は5月、スイスを拠点にする「インダストリオール国際労働組合」と「UNI国際労働組合」のイニシアチブによって開始された「バングラデシュの火災と建築安全に関する協定」に署名した。この協定は5年を期限とし、参加企業は、プライマーク、H&M、マンゴー、ZARA、マークス&スペンサー、ベネトン・グループなど計80社におよぶ。

    金銭的サポートとして、協定の参加企業は、各企業1社当たり5年間で最大250万ドル(年間50万ドル)を支払い、この資金援助は、運営委員会、保安検査官と研修コーディネーターの活動に供給される。各社の支払額はバングラデシュでの生産量に基づいて算出される。

    プライマークの倫理取引ディレクターであるキャサリン・カーク氏は、「協定にサインすることによって、少なくとも5年間バングラデシュでのビジネスを維持することを我々はコミットしている。その期間の後は、我々は我々の立場を再評価する必要がある。我々は危険な工場にいたくはない」と述べている。

    プライマークは、ラナ・プラザ内で衣料品を生産していた約40のブランドの1つであった。

    プライマークのローカルチームは、被害者を特定、サポートする為にヘルプデスクを設置、NGOとの協働により食糧援助、3カ月分の給料にあたる短期金融支援を約束。また、プライマークの衣服の生産工場で働いていた労働者とその家族のために適切な長期的補償やサポートサービスを提供していく予定とのこと。

  • 北米のアパレル企業
  • 一方、北米では2013年7月10日、前米上院議員2人の指導の下に「バングラデシュ労働者の安全イニシアチブ」が立ち上げられた。そして、5年間のこのイニシアチブを支持するためにウォルマート、ギャップ、シアーズなどを含む北米の17社が、「バングラデシュ労働者の安全のための同盟」を結成し、視察、研修および労働者の地位向上に向けた積極的なスケジュールと説明責任を定めた。

    この同盟の一環として、これら北米企業は、これまで合計4千2百万ドルの資金調達をし、工場が安全性を改善するためにさらに1億ドルを追加融資する。

    北米企業がこの同盟を別に立ち上げた背景として、「欧州企業の世界協定は、企業に無限に責任を負わせるものとしていて、協定に反対している」とし、「世界協定は、資金使途について明確な説明をせず、民間企業からの大規模な資金調達を求めている」と言う。

    ウォルマート、SVP&グローバル・チーフ・コンプライアンス・オフィサーであるジェイ・ヨルゲンセン氏は、「すべての労働者は、彼らがどこにいるかに関係なく、安全な環境への権利を持っている。パートナーシップと協働は、それを築くために重要である」と声明を発表している。


    欧州企業と北米企業の思惑の違いから、バングラデシュ労働者に対する安全対策の動きが分かれてしまっているのは残念だが、双方の姿勢として評価されるべきは、双方ともその事態から逃げるのではなく、企業責任として積極的に関与しようとしているということである。

    これはグローバリゼーションの中で享受するだけでなく、それぞれの企業が、カントリーリスクの高いバングラデシュを今後も生産拠点として位置付けるとともに、企業責任としてバングラデシュの事故に対応しようとするものである。

    今回の件で明確になっているのは、1社で企業責任を果たすのには限界があるということ、そして、サステナビリティの観点から企業間での協調行動が求められてきていて、欧米の企業は連携を行っている。

    今回の件は、縫製産業での災害であるが、新興国・発展途上国では、今後発生する可能性のある事故である。グローバリゼーションの中で、先進国が、新興国・発展途上国から享受(搾取)する構造から、サプライチェーン全体を考えた企業責任を自社としてどのように考え、対応していくかは非常に重要な問題である。

    対応に関して他の日本企業との横並びを考えるのではなく、世界の中で自社としてどのように企業責任として対応するのか。そしてどのようにイニシアチブを取っていくのか。日本企業それぞれが今後試されることになる。

    今回の事故は改めてサプライチェーンでのCSRの重要性を考えるきっかけになったと思う。是非対岸の火事とせず自社のケースに置き換えて取り組みをしていただきたい。

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