Global CSR Topics

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表彰されるCSR報告書の10要件

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先日のアジア・サステナビリティ賞において、香港の不動産会社の恒隆地産(Hang Lung Properties)のサステナビリティ報告書2015がアジアのベスト・サステナビリティ報告書として表彰された。さらにサステナビリティ報告書のエキスパートとして名高いエレン・コーヘンが手がける年次報告書でもトップ10入りを果たした。バランスの取れた正確な報告、さらにグッドガバナンスと誠実さに重きを置いた内容が広く評価された。漫画をベースにしたデザイン性も目を引き、面白い挿絵に惹きつけられて読者が読み進める魅力的な構成となっている。

同報告書はこの3年で進化を遂げ、CSRアジアもその作成に積極的に関わってきた。経営陣が参画し、企業トップがサステナビリティへのコミットメントを表明したことで弾みがついた。同報告書はGRI G4ガイドラインに基づき、厳格なマテリアリティ(重要性)評価を中核に据えている。報告内容の範囲が広がるとともに深まり、明確かつ具体的な目標を掲げている。と同時に読者が思わず笑顔になる「楽しい」デザインの報告書と評された。若い世代の新たな読者層へのアピールが高いデザインとなっている。

ではサステナビリティ報告書が成功するための10要件とは何か。恒隆地産社と報告書作成に取組んだ経験から、以下の要因を挙げることができる。

1.ステークホルダーとマテリアリティに対応している

よい報告書とは、多種多様なステークホルダーを取り込む形での綿密なマテリアリティ評価に基づいている。ステークホルダーの意向に応じて、必ずしも従来のトリプルボトムライン(環境・社会・経済)に基づく評価の形を取る必要はない。例えば多くの不動産開発業者にとっては、建物の環境フットプリントが最優先課題となる。恒隆地産社の報告書では、ステークホルダーが重要視する課題の優先順位を一覧表にまとめている。当然ながら、健康・安全・環境問題がマテリアリティ評価の大半を占めている。

2.継続性と変化

最重要課題に関連する内容などは年を追って継続的に報告する必要がある。一方で報告書に面白みと勢いを持たせる新たな題材を加えることも必要である。恒隆地産社はグッドガバナンスに注力し続けるとともに、2015年にはエネルギー革新に関する新たな取組みに重きを置いている。

3.透明性とアカウンタビリティー

恒隆地産社の報告書では、発覚した汚職事件について対応策も含めて率直に報じている。こうした事件の公表について多くの企業は及び腰になるが、誠実に報じた場合にはステークホルダーから敬愛されることになる。アジアでは汚職を巡る課題が存在しないふりをしても無駄であり、汚職への対処法を示す方が得策である。

4.目標に対する具体的成果

企業は大胆かつ達成可能な目標を掲げ、さらに未達成の場合でも目標に照らして報告すべきである。目標は漠然とした約束事ではなく、できる限り測定可能な基準をベースにする必要がある。恒隆地産社の2015年の報告書では、建物のエネルギー強度の削減を、目標としていた10%を超えて14%削減できたと報じた。

5.興味深いケーススタディ

実例を加えることで報告書に活力を与え、内容が実態とマッチしていることで説得力を持たせることできる。革新的で実際に取り組むことができる実例が望ましい。他の場面での再現可能性を示すデータを含む具体例が最善である。例えば恒隆地産社の報告書には、中国の建物に適用された環境の革新的取組みの興味深い例が盛り込まれている。

6.組織内の実態

企業について抽象的な報告書を作成しても、読者には社風や価値観について何も印象を残せない。報告書で現場の社員と業務内容を紹介することで、この「距離感」を埋めることができる。恒隆地産社の報告書には社員が登場し、業務を通していかにサステナビリティの取組みに貢献しているかを示している。

7.企業の垣根を超える

サステナビリティの実情を描き出すには、企業の法的枠組みに準じて報告するだけでは十分でない。サプライヤーから顧客に至るまでのバリューチェーン全般にわたる関連性が以前にも増して重要となっている。さらにどの企業も操業している地域コミュニティの一員であると認識することが重要である。恒隆地産社は、サプライヤーと顧客、さらにコミュニティを重要なステークホルダーとして運営・参画させていく取組みを示している。

8.数で示す

3年におよぶ恒隆地産社の取組みでは、ステークホルダーと共有するデータに重きを置き、同時にデータの正確さを確保するよう努めた。提供するデータは報告書の中で最重要だと特定された課題と関連していなければならない。不動産開発業者として、環境に多くのページを割いたのは当然である。

9.読みやすいデザイン

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退屈そうな報告書は読まれない。報告書の隅々まで順を追って読破するステークホルダーはほとんどいないだろう。多くの人々は興味のあるセクションまで読み飛ばすか、革新的で面白そうな内容を拾い読みしている。それゆえにデザインの役割とは報告書の主要メッセージを分かりやすく示し、企業側が強調したい項目に目を向けさせることである。魅力的な絵や写真を駆使して情報を図示することがカギとなる。CSRのエキスパートとして名高いエレン・コーヘンは、恒隆地産社の報告書は「漫画風のスタイルにつられて、楽しく読ませる内容となっている」と評した(同報告書を自身の2015年トップ10にランクした)。

10.たゆまぬ改善

受賞を果たしたものの、恒隆地産社の報告書を「完璧」だと言い切る者はいないだろう。実際にこれまで完璧な報告書など存在せず、報告書でカバーしきれない内容やステークホルダーへのデータがあるものだ。報告書を発行することが最終目的ではなく、次の報告に向けたプロセスの始まりにすぎない。ステークホルダーからのフィードバックを基に、その関心事や期待を加味し、常に改善を図る必要がある。たゆまぬプロセスなのである。

執筆:リチャード・ウェルフォード
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版

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