組織内から広がるサステナビリティの取組み
シンガポールではサステナビリティが新たなビジネス基準として徐々に浸透しているが、さらに持続可能なシンガポールを目指して企業が貢献できる余地がある。この記事では、CSRアジアの会員(ストラテジック・パートナー)である、不動産開発大手のCity Developments Limited(CDL)が進めている取組みを紹介する。
非財務業績を改善する社内での取組み
企業がサステナビリティに本腰を入れて取組み、責任ある環境配慮型ビジネスを展開するよう消費者・投資家・NGOから期待される中、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因を事業戦略に組み込み、非財務情報を開示する必要に迫られている。シンガポールに上場する不動産開発大手のCDLは、20年以上前からサステナビリティの取組みに乗り出し、リーダー的な存在となっている。
CDLは早くから低炭素型ビジネスを目指し、不動産開発業者として他に先駆け、2011年に「2030年までに温室効果ガス排出量を2007年比で25%削減する」とする目標へのコミットメントを表明した。同社保有の不動産が最大の排出源であり、2016年のサステナビリティ統合報告書(2016 Integrated Sustainability Report)によると、シンガポールでの同社カーボンフットプリントの約75%はCDLが管理する商・工業施設での電力使用によるものであった。このためCDLは、温室効果ガス排出量の削減目標を掲げるのみならず、エネルギーについても同様に「2030年までに2007年比で25%削減する」と表明し、保有不動産の省エネ化を通してカーボンフットプリントの削減と気候変動への対応策を進めている。2014年には不動産業者としてシンガポールで初めてISO50001のエネルギーマネジメントシステム認定を受け、2016年3月には温室効果ガス排出マネジメントシステムでISO 14064-1の認定を取得し、国際規格との足並みを揃えている。さらにシンガポール政府が2030年までに排出量を36%削減するとの目標を打ち出したことを受け、同社の削減目標の見直しを行っていることを表明した。
サステナブルな事業は業務効率化とコスト削減につながり、財務的にも理に適っていることが証明されている。CDLは2008年から2015年の間に、シンガポール建築建設局(BCA)のグリーンマーク認定を受けた57のビルでの節電により、3,100万シンガポール・ドルに匹敵するコスト削減を達成した。
多様なステークホルダーのキャパシティ・ビルディングを図る社外での取組み
大多数の企業は手始めに自社の非財務業績の改善を図るが、他企業や広いコミュニティに働きかけていく旗振り役を担う企業はほとんどいない。長年にわたるサステナビリティの取組みから、CDLは志を同じくするパートナーとの協働を図ることで目標に近づくことができると確信している。同社のサステナビリティ戦略は「適切で効率的なリソース管理」、「環境配慮型ビルへのイノベーション」と共に「積極的な参画」という三本柱で構成されている。
CDLはビル利用者の環境配慮型ビジネスを支援し、持続可能な取組みに関する見識を深めるよう多様なステークホルダー・グループとの連携を図ることで、長年にわたり旗振り役を務めてきた。こうした働きが功を奏し、業界およびコミュニティを越えてサステナビリティを推進する「シンガポール・サステナビリティ・アカデミー(SSA)」をゼロから立ち上げることに初めて成功した、と先日発表された。SSAは民間の不動産開発業者であるCDLと非営利団体のシンガポール持続可能エネルギー協会(SEAS)が協働し、サステナビリティに関するトレーニングとネットワーキングを図っていく初の施設ともなる。CDLは業界やサステナビリティ担当者、さらに広いコミュニティの中で、アドボカシー、ネットワーキング、トレーニングさらにキャパシティ・ビルディングを持続的に推し進めるプラットフォームの構築を目指し、SSAの構想につながった。考案されたのは2年前であったが、SEASという専門組織との協働態勢を取ることで初めて実現にこぎつけた。
CDLが手掛ける初のエコ・モールであるシティー・スクエア・モールの屋上庭園に、ゼロエネルギー施設となるSSAが開設される。企業や、政策立案者、教育機関、さらに若者を中心とするコミュニティに対し、低炭素経済とリソースの効率化、持続可能なビジネスの展開を働きかけていく。
SSAが焦点を当てる分野は以下の通りである。
- ソートリーダーシップとアドボカシー
- 教育・トレーニング・メンター制によるキャパシティ・ビルディング
- ネットワーキングと協働体制
- 情報・リソース・解決策
- ユーザーとステークホルダーの参画
SSAは2017年3月に始動し、SEASが運営を行う予定である。業界の専門家に対し、エネルギー効率や再生可能エネルギー技術、資金調達、ベストプラクティスについてのトレーニングを行い、企業のエネルギー消費管理を支援していく。SEASは引き続きアジア開発銀行およびシンガポール国際企業庁と協働し、エネルギー効率・再生可能エネルギー・エネルギーアクセス分野での政策・技術・プロジェクト融資について、アジア地域の政策立案者へ洞察を与え、知見の共有を図っていく。SSAは多角的なトレーニング・参画プログラムを通し、ソートリーダおよび業界リーダーの知見と専門性を結集し、企業とサプライチェーン、実務者、若者、学界さらに産業界のキャパシティ・ビルディングと連携を推し進めていく。
SSAの展示ギャラリーは、一般およびモールへの来客者に公開される。シンガポールのサステナビリティに向けた歩みや最新の環境配慮型ビル技術についてのスタディーグループにも対応可能である。SSAの施設自体が、持続可能な原材料としてトレーサビリティを保証するネイチャーのBarcode System™による直行集成板などを使用している。
効果的パートナーシップの確立
SSAはCDLとSEASが主導し、志を同じくする11の業界パートナーが専門性を結集してデザインと建設を手がけ、政府機関が支援を行うマルチステークホルダ・イニシアチブである。全アクターはよりクリーンで環境に配慮し、持続可能な将来像を共有し、SSAはこれを目に見える形で推進していく。CDLが率先してリーダーシップを取り、調整を図ったことがプロジェクト実現の鍵である。シンガポール建築建設局、環境水資源省、国家環境庁、都市再開発庁、陸運局などの政府機関は、用地利用の承認や政策ガイダンスの後押し、さらに施設の非営利運営の許可での支援を行った。
SSAのビジネス価値とは
コミュニティ投資の取組みは、有形・無形のビジネス価値を社会と環境全般に生み出していく、共通価値の創出につながらなければならない。CDL最高経営責任者のグラント・ケリー氏は「CDLにとり、SSAはアウトリーチとアドボカシー活動を展開し、環境配慮型ビルへのイノベーションとユーザー参画におけるベストプラクティスを共有できる素晴らしいプラットフォームである」としている。さらに「SSAを通し、CDLはソートリーダーシップを発揮し、サステナビリティへの息の長い取組みを示すことができる。サステナビリティをめぐる状況はかつてない進歩を遂げている。洞察やベストプラクティスを共有することで、取組みを高め、新技術の導入を刺激することができる」と続けた。
サステナビリティに向けた取組みにこれから乗り出す、もしくは開始して間もない企業でも、さらに持続可能なシンガポールを目指して貢献を果たすことができる。どの企業も、環境管理や環境配慮型技術の開発・導入、アドボカシーなどでの役割が期待される。先を行く企業は、持続可能な開発目標を国内外で提唱し、人々・地球・収益にもたらす価値をアピールすることができる。しかし新参者でも、ネットワークに乗り、一足飛びにサステナビリティ活動を加速させることができる。専門家ネットワークであるCSRアジアのストラテジック・パートナー・プログラム(CSR Asia Strategic Partner Programme))に参加することで、企業がどのようにサステナビリティ活動を管理し、SSA等のプラットフォームを通してトレーニングやリソースを有効活用し、持続可能性を高めているのか知見を共有できる。20年前にCDLなどの企業がサステナビリティの取組みに漕ぎ出した時代には、参考となる情報が非常に限られていた。現在では活用できるプラットフォームやその他のツール、ガイダンス、基準、専門家、ネットワークや団体が数多く揃っているので、よりスムーズに取組みを開始し、進めていくことができるはずだ。
写真提供:City Developments Limited
執筆:ジャスティン・テオ
CSRアジア
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