Global CSR Topics

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アジアの人身売買の根絶に向けた10の具体策

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人身取引から生み出される不正利益は地球上の犯罪ワースト3に上っている。米国務省が発行する2017年度版「人身取引報告書」(TIPレポート)によると、アジア太平洋地域では1,540万人が強制労働を強いられ、世界全体の三分の一と最大規模を占めている。しかし2016年の起訴件数は2,137件、有罪判決は1,953件、被害者として特定できたのは9,989人に留まった。

先週バンコクで開催された「アジア反人身取引会議(ARAT ‘Asia Region Anti-Trafficking Conference’)」では、同地域で人身取引と奴隷制を解決するには、マルチセクターによる協働態勢が不可欠だという議題を中心に協議が行われた。人身取引撲滅を目的とする「ストップ・ザ・トラフィック(STOP THE TRAFFIK)」と「チャブ・ダイ連盟」が共催した同会議では、民間セクターとNGOからの参加者が集い、協働態勢を図る上での主要業界を特定し、状況を把握するため、先進事例からの知見を共有した。

「さまざまなコミュニティからの参加者が一堂に会した先日のARAT会議では、協働して人身取引の予防と撲滅に取り組むことで、責任を共有し、役割を明確にし、個別の行動を取るよりずっと大きな力を発揮できることを確認し、大きな成功を収めました」と、ストップ・ザ・トラフィック・オーストラリアの共同理事ファズ・キット氏は振り返る。

人身取引に対処するため、同会議では以下の通り10の具体的措置と企業が果たしうる役割を明確にした。当記事では主に水産業界の実例を引用しているが、人身取引を巡る課題に直面している他の業界にも有効な提言である。

1.企業による人権方針の遵守に向けたプロセス検証・確立・実践

監査を行うことが一般的であるが、すべての人身取引を発見することは不可能である(特にサプライチェーンの深部で起きている場合)。海洋上で起きている不正行為を監視・監督することは難しい。
マース・ペットケアとタイ・ユニオングループPCLは、米国際開発庁の海洋・漁業パートナーシップ(USAID Oceans)を含む政府機関および他業界と協働し、デジタル追跡のパイロット・プログラムを展開している(digital traceability pilot programme.)。タイでは漁船にインマルサット「フリートワン」を搭載し、携帯アプリと衛星を活用する漁獲データ・追跡(eCDT)電子システムのプラットフォームの試験運用により、徹底したトレーサビリティとサプライチェーン管理を図っている。

タイ・ユニオンは漁船から工場に至るまでの監査も行い、サプライヤーを含めて事業全体で労働者が安全かつ合法的に雇用されているかを確認している。この一年半で、強制労働や人身取引の不正行為により17サプライヤーとの取引を打ち切った。さらに労働環境と環境法令の遵守を徹底させるよう、タイでの漁船数を2,000隻から400隻に減らし、管理の強化を図っている。

2.ビジネス活動やサプライヤーとの関係が及ぼすインパクトの検証・確認による人権侵害予防

タイの移住労働者の基本的権利の確保を推し進めるNGOである労働者権利促進ネットワーク(LPN)は、2016年にタイ・ユニオンと協働し、労働者に対して教育権に関するトレーニングプログラム(training programme)を策定した。
子ども達が教育を受ける権利について啓発し、タイでの就学プロセスへの理解を深めることを目指した。このプログラムにより移住労働者とその家族の生活の質が全般的に改善し、児童労働の根絶に向けプラスの変化をもたらした。さらに子どもを持つ移住労働者が、基本的人権と教育やヘルスケアの権利について意識を高めることができた。

3.従業員、サプライヤー、ベンダー、委託業者、監査人へのトレーニング

企業方針の周知徹底を図るために、従業員やサプライヤー、ベンダー、委託業者、監査人にトレーニングを行い、確実に実行に移すことでリスクを低減する。漁業省や外務省、ネスレ、タイ・ユニオングループは「実演ボート(‘demonstration boat’)」を作り、漁船の船主や船長、乗組員のための能力強化を図っている。
労働省を含む全プロジェクトパートナーと共にトレーニングコースをデザインすることで、船主と乗組員は全ての法的要件を満たす漁船をじかに見ることができる。最も重要な点は、現在所有している漁船をディーセントな(働きがいのある人間らしい)労働環境と生活環境が整っている船に変えていく具体的な手順を学ぶことができることだ。

4.サプライチェーン全体に効果的な苦情処理のメカニズム構築

サプライチェーン全体に効果的な苦情処理のメカニズムを構築し、人身取引の対象となった本人や見聞きした人が、報復を恐れることなく報告できる仕組みを整える。労働者が話を聞いてもらえるチャンネルを確保することで、企業は投資を余すところなく労働者の目に見える改善につなげ、アカウンタビリティ(説明責任)を図るメカニズムを構築することができる。
イサラ研究所(Issara Institute)や労働リンク(LaborLink)などの機関は、労働者からの意見を把握して実態を掴み、効率よく是正措置を講じ、サプライチェーンのリスクを管理し、人権侵害が報じられた場合には被害者の支援を行うNGOパートナーへの橋渡しを行っている。

5.労働者に対する人身取引の被害者との関わり方についてのトレーニング

人身取引のリスクが高い業界でサプライチェーンに従事する労働者に対して、人身取引の被害者との関わり方についてトレーニングする。人身売買された人は特に脆弱な立場にあるため、関わりを持つ可能性のある従業員向けに特別なトレーニングを行う必要がある。
内容は身振り手振りやアイコンタクトなどの非言語的コミュニケーション、文化や伝統などが含まれる。人身取引の被害者へのヘルスケアを支援するグローバルな取組みを進めるレントレス(Rentless)は、医師や看護師、公衆衛生の専門家、社会福祉士など、ヘルスケア「システム」に従事する人々に対し、それぞれの専門性を活かし、いかに被害者を支援していくかトレーニングを行っている。
内容は被害者の特定から人身売買の健康上の影響、トラウマに対するケアと多岐にわたっている。

6.地域コミュニティとの協働を通した移住労働者の啓発

移住労働者が国内法の規定する権利を理解し、人身取引のリスクや自衛手段について啓発を進めるよう、地域コミュニティとの協働を図る。LPNはタイ・ユニオンPCLと協働し、サムットサーコーンの移住労働者の啓発向けに労働権ハンドブック(labour rights booklet)を制作した。内容は労働権や児童労働、子どもの権利と教育、人身取引、緊急連絡先を網羅している。

7.被害者の社会復帰に向けたプログラム構築

人身取引された後の支援を行い、被害者がコミュニティや職場に復帰するプログラムを構築する。多くのNGOが認めるように、この分野の支援は未整備である。被害者に対して職業訓練プログラムを提供する団体は多いが、被害者を労働力として活用するリソースを持ち合わせる民間セクターとの協働を図ることで、より手厚い支援が可能となる。しかし企業側は就労ビザが足かせとなったり、被害者を一人前の人材に育て上げたりする必要がある。
ノミネットワーク(Nomi Network)などの団体はビジネスセクターと協働し、被害者を経済的にも社会的にも復帰させる支援を行っている。インドとカンボジアで人身取引が横行している地域での職業訓練を行い、リスクを抱える被害者と女性のエンパワメントを図っている。

8.NGOと地域コミュニティとの協働によるパートナーシップへの意識向上

NGOと地域コミュニティと協働し、人身取引に関連するリスクを特定し、官民パートナーシップへの意識を高める。人身取引の解決に向け、特に地域レベルでNGOが果たしうる役割は絶大である。NGO同士だけでなく民間セクターとの円滑なコミュニケーションと調整が成功を左右する。人身取引に関して外部に発信するメッセージは一貫性を保つ必要がある。多くのNGOは民間セクターとの協働がもたらしうる利点を掴みきれていない。
権利の擁護に主眼をおき、強固なパートナーシップを築くには力不足なNGOが少なくない。NGOがパートナーシップへの意識を高め、関係強化を図れるよう民間セクターは働きかける必要がある。

9.業界主導によるマルチステークホルダー・イニシアチブへの参画

業界主導のマルチステークホルダー・イニシアチブに参画し、サプライチェーン全般に蔓延する人身取引など人権侵害の解決に寄与する。加害者を起訴するには、より包括的なデータ収集に向けた人材とシステムの整備に投資する必要がある。リバティーアジア(Liberty Asia)は東南アジアで、司法による権利擁護とテクノロジーの活用、さらにNGOや企業、金融機関との戦略的協働態勢により人身取引の予防を目指す団体である。
他のNGOとパートナーシップを組み、リバティーアジアは地域レベルでの奴隷制の事例やメディア情報を収集し、トムソンロイターのワールドチェックなどデューディリジェンスや情報のスペシャリストに提供し、世界最大手の金融機関の顧客デューディリジェンス(CDD)や顧客の身元確認(KYC)に活用されている。
リバティーアジアは人身取引や強制労働に関する否定的情報からキーワード・リストを作成して金融機関やアドバイザー、コンサルタントに提供し、顧客や取引における潜在的リスクの検知につながっている。

10.人身取引のプログラムや取組みについての報告

反人身取引のプログラムや取組みについて真摯に報告し、進捗状況や達成度の測定も盛り込む。ますます多くの消費者は食品トレーサビリティに注目し、企業がサステナビリティ基準を満たしていることを求めている。
特に漁業・水産業は差し迫った課題とチャンスを抱えている。タイ・ユニオンはサステナビリティ戦略を掲載する専用ウェブサイト「Sea Change」を開設し、目標の共有やパートナーの開示、進捗状況の記録について先進的な取組みを進めている。

企業はさまざまな方法で人身取引の撲滅に向け貢献を果たしうるのだ。解決策は我々が考えるほど単純なものではないかも知れない。

執筆:クレイリア・ダニエル
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版

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