Global CSR Topics

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「誰もが公平」だとされる豪州で起こる搾取の実態

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移住労働者の搾取というと、真っ先に発展途上国を思い浮かべる人が多いだろう。経済状況や法整備が遅れていることで非道徳的な行為の温床となっている。しかし現実には国や地域を問わずリスクは潜んでいるのだ。

オーストラリアは長きにわたり「誰もが公平(fair go)」の精神で知られている。理性的かつ公正であり、公平にチャンスを与える文化が根付いているとされているのだ。しかし移住労働者に関連する問題が脚光を浴びつつある。「人身取引と奴隷制撲滅に向けた国家行動計画2015-2019(National Action Plan to Combat Human Trafficking and Slavery 2015-2019)」が発効し、現代奴隷法(Modern Slavery Act)の制定が計画される中、移住労働者が抱える課題の解決について議論が活発化し、オーストラリア国内での取組みについても検討されている。この課題を解決するには、まず被害はどこで起き、誰が被害者で、その原因は何かを特定する必要がある。

被害はどこで起きているのか

最近、オーストラリアのさまざまなセクターでの被害が複数報じられている。

100カ国、4,000人以上を対象にした調査

2017年11月にMigrant Worker Justice Initiativeはニューサウスウェールズ大学、シドニー工科大学と共にレポート「オーストラリアにおける不当な賃金搾取:移住労働者の非正規労働の実態調査」を発行した(英文レポートはこちら)。
オーストラリアのすべての州・特別地域で様々な職業に就く非正規雇用の移住労働者を対象に、100ヵ国以上から4,000人を超える労働者を網羅する大掛かりな調査となった。

浮かび上がる強制労働の実態

主な調査結果として、移住労働者への違法低賃金が横行している実態が明らかとなり、特に果物や野菜の収穫作業を含む食品業が顕著であった(food services and especially in fruit and vegetable picking.)。バックパッカーや海外留学生も国を問わず深刻な低賃金の犠牲となり、アメリカ、イギリス、インド、ブラジル、中国からの5人に1人は最低賃金の半分という水準であった。さらに相当数の回答から、違法な強制労働につながる労働環境の実態が明らかとなった。

被害者は誰で、その原因は何か

オーストラリアでは移住労働者を含む全労働者が2009年に成立した連邦法であるフェアワーク法(NO.28、2009)の対象となり、正当な賃金および雇用条件を享受する権利を有するとされている。2013年には犯罪法1995が改正され、強制労働を個別にオーストラリアでの犯罪と規定した。一見すると全労働者を保護する法的枠組みが整備されているようだが、このセーフティーネットをすり抜けて搾取が起きているのだ。

搾取 [質量名詞]: 他人を使役して不当な利益を得る目的で、他人を不当に扱う行為や実態のこと。

搾取の「犠牲者」は?

「搾取」という言葉には、低賃金の支払いから労働条件の違反など、広範囲に及ぶ行為が含まれる。中でも人身取引や強制労働、奴隷労働など、深刻度に応じて犯罪行為まで該当する。

ではオーストラリアで搾取の犠牲となるリスクを抱えている人々は誰なのか。移民という立場にある移住労働者は搾取のリスクが高いが、中でも特定の人口コ―ホートのリスクがさらに高くなっている、この中にはオーストラリアで短期もしくは長期の就労を目指す者だけでなく、海外留学生やバックパッカー、ワーキングホリデーで入国した者が含まれる。ビザの改ざんなど、以下のような制度的問題が挙げられる。

  • 第三者を介して入国し、偽情報に騙されたり、奴隷として、または借金に縛られたりする状態にある。
  • 不法滞在やビザが規定する条件に違反する不法就労を行う者は、国外退去を恐れて搾取の被害をオーストラリア当局に訴え出ない。
  • 雇用主が資金を提供している場合、長期ビザへの変更を希望する者は労働条件が悪くても不満を言い出せず、さらに仕事を辞めてもオーストラリアに合法的にとどまる手立てがない。
  • オーストラリアでの労働慣行や関連法案の知識がない、また法的支援についても情報がない。もしくは同様のビザを持つものは皆が低賃金だと思い込んでいる。
  • 不当な低賃金でもオーストラリアでの稼ぎの方がましな場合や、現金での受け取りを優先させるため低賃金を甘んじて受け入れてしまう。

第三者機関にも搾取解決の責任が

搾取の「理由」を理解することは容易でない。意図せずに搾取に加担してしまう当事者は多く、その背景も複雑に絡み合っている。
小規模ビジネスの労働力不足や資金不足も一因となっている。オーストラリアの国外離散ユダヤ人(ディアスポラ)コミュニティの文化・社会・経済的状況も強要を招くリスク要因となる。企業が請負や調達、雇用に関する意思決定を行う際には搾取の問題解決を図るよう努めなければならない。人材採用や人材斡旋を行う第三者機関も組織的な搾取を解決する責任を負う。

解決に向けた取組み

以下のように多くのステークホルダーが搾取の問題解決に向け、取組みを進めている。

問題解決の鍵を握るのは省庁横断型組織

2016年に上院委員会は短期就労ビザ保有者の搾取を「国家的な不名誉」として、問題解決に向けて33の勧告案を策定した。この中でビザ制度自体に焦点を当て、情報収集から財政支援、ビザ手続きの改訂、法令改正まで様々な対応を打ち出している。
2016年10月に発足した省庁横断型の移住労働者タスクフォースは、問題解決の司令塔となっている。労働者の搾取を未然に防ぐため、人材派遣業者の規制と許認可に向けた動きも本格化している。

サプライチェーンや外部の人材派遣会社にも潜む問題

もっともリスクの高い移住労働者コ―ホートを対象に、オーストラリアに向けて出発する前に情報提供を徹底し、ビザの問題や移住労働者としての権利に関する啓発を検討している。さらに入国に際しての情報提供と、農村部に向かう移住労働者をつなげてコミュニティプログラムで支援する必要性についても協議が続いている。

現代奴隷法の草案開示が近づいているが、オーストラリア国内外でのサプライチェーンのデューディリジェンスを進める大きな後押しとなるだろう。また労働基準に関する様々な協議をつなげ、人材派遣業者の実態についての意識を高めることになる。

ビジネスの観点からは、サプライチェーンや外部の人材派遣会社に問題点が潜んでいる可能性がある。企業はサプライチェーンの中のリスク評価を積極的に行い、既存のプログラムや取組みにより新たに起こりうるリスクに確実に対応し、軽減できるか分析しなければならない。戦略とプログラムを周知徹底し、リスクおよび対応策のマネジメントに細心の注意を払うべきである。

重要なのはマルチステークホルダーの連携

搾取とは単純な問題ではなく、単独で解決することもできない。企業が力を合わせて人材採用や労働慣行のハードルを上げるだけでなく、インパクトのあるプログラムや取組みに向けてお互いに支援しあうマルチステークホルダー・エンゲージメントが有効である。

雇用する側もされる側も責任についての意識を高めるため、様々な取組みが必要とされる。ステークホルダーが協力し、具体的な解決方法を探り、啓発し、進めていくことで移住労働者がセーフィティーネットからこぼれ落ちることなく「誰もが公平」に扱われるようになるだろう。

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本記事の執筆にあたり、シドニー工科大学教授で反奴隷制オーストラリアのディレクターを務めるジェニファー・バーン氏からのインプットに感謝いたします。

オーストラリアでは2018年上旬に現代奴隷法の草案開示が予定されている。来週の記事では本法案の進展、反響、意味合いをより詳細に考察していく。エレベイト社はストップ・ザ・トラフィック・オーストラリアと共に、3月22日にシドニーでリーダーシップシリーズを開催し、企業と搾取について協議し、解決策を探っていく。参加ご規模の方はお早めにこちらから。

●背景資料および参考文献●

執筆:アンジェラ・フルシャム
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版

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