グットプラクティス

第15回 村田製作所

子供たちにものづくりの不思議と楽しさを伝えたい

京都橘中学校で行われた村田製作所の出前授業の様子

京都橘中学校で行われた村田製作所の出前授業の様子

BtoB企業でありながら、ユニークな広報スタイルで知られている村田製作所。同社の技術・製品はあらゆる電気・電子機器に使われているにもかかわらず、エンドユーザーの目に触れることがないだけに、一般の人たちとのコミュニケーションをいかに強化するかが課題となっていた。そんな中、自転車型ロボット「ムラタセイサク君®」の開発を機に、CSR活動の一環として2006年から出前授業を実施。子供の理科離れが社会問題として叫ばれる中、教育現場から高く評価されている。同社が取り組むCSRコミュニケーション活動について村田製作所広報部の関口晴巳氏と吉川浩一氏にお話をお聞きした。

一般に馴染みのない企業色を逆手に取ったテレビCMが話題に

会社の名前は知っていても、何をしている会社かわからない。今回紹介する村田製作所も、多くの人からはそんなイメージで捉えられているのではないだろうか。セラミックスをベースとした電子デバイスの研究開発・製造・販売を行い、エレクトロニクス業界では確固たる地位を築いてきた同社。携帯電話をはじめさまざまな電気・電子製品に使われながらも、ユーザーの目に触れることがないため“知る人ぞ知る”会社だった。
「しかし、だんだん会社の規模が大きくなってきたのに伴い、一般社会に対して会社情報を正しくお伝えする責務が増してきました。その中で、できるだけ情報を開示し、正しく伝えることによって“村田ファン”を増やしたい。また、優秀な人材を獲得するため学生に当社を知ってもらうとともに、より理解を深めてほしい。そんな思いでこれまでさまざまな取り組みをしてきました」(関口)

広報部 企業広報課 関口晴巳氏

広報部 企業広報課
関口晴巳氏

そうして同社は、1991年より本格的なテレビCMをシリーズ化した。部品メーカーという一般に馴染みのない企業色を逆手に取り、「村田製作所はなにをセイサクしているんだろう」というコピーで始まるテレビCMは話題を呼び、知名度は一気に上がった。さらに、同社の技術力の高さを示すとともにブランド力を押し上げたのが、独自に開発した自転車型ロボット「ムラタセイサク君®」だった。これがきっかけとなり、同社のコミュニケーション活動がさらに充実していくことになる。

技術陣のフロンティア魂で誕生した「ムラタセイサク君®」

村田製作所が開発した自転車型ロボット「ムラタセイサク君®」は、身長(高さ)約50cm。小柄なボディながら最先端技術を搭載し、自らバランスをとりながら走るという、人間顔負けのスーパーロボットだ。開発の発端となったのは、大企業病を払しょくし、エンジニア魂を奮い立たせるため、2004年に立ち上げた「フロンティアテーマ」という社内制度だった。
「当時は社内の風通しも悪く、失敗を恐れてチャレンジしない風土が蔓延しつつありました。そうした状況を打破し技術陣のやる気を醸成するため、本業に直接関係ないテーマでも自由に研究開発に取り組める制度として立ち上げたのが『フロンティアテーマ』でした。販促部門からは自社の技術をPRしたい、また生産技術部門からは何かチャレンジングな取り組みをしたいといった声が上がり、それらの思いが合致したのがロボット開発プロジェクトです」(吉川)

広報部 企業広報課 ムラタセイサク君 開発スタッフ 吉川浩一氏

広報部 企業広報課
ムラタセイサク君 開発スタッフ
吉川浩一氏

もっとも、同社にとって自転車型ロボットの製作は今回が初めてではなかった。じつは1991年にも自転車に乗るロボットが製作されたが、技術的には改良の余地を残していた。今回のプロジェクトは、いわば2代目ロボットの開発で、一番の特徴は止まった状態でも倒れない“不倒停止”ができること。プロジェクトに携わる開発陣にとっては技術的な課題克服もさることながら、半年後の展示会での発表を控えていたため時間との闘いでもあった。
試行錯誤の末にようやく完成した2代目自転車型ロボットは「ムラタセイサク君®」と命名された。展示会での反響は予想以上に大きかったのはもちろん、国内外のメディアに大きく取り上げられたため、同社には各方面から引き合いが殺到し、全国の学校からも「ぜひうちの学校にも来て子供たちに見せてほしい」という要望が寄せられた。

子供たちの理科離れを防ぐために出前授業をスタート

村田製作所では、20年以上にわたって小学生を対象にしたバトミントン全国大会「若葉カップ」を支援しているほか、地域イベントに参加するなど積極的にCSR活動を行っている。そうした中、2006年から新たなコミュニケーション活動としてスタートさせたのが、ものづくりの不思議と楽しさを子供たちに伝える出前授業だ。その背景には「ムラタセイサク君®」の開発があったことも確かだが、直接のきっかけとなったのは深刻な社会問題となっている子供たちの理科離れ。同社の村田泰隆社長(当時)がそうした状況を憂慮し、日本のものづくり文化を未来につなげるためにも理科好きの子供たちを育てる活動をしなければならないと社内に大号令をかけたことから、「ムラタセイサク君®」を活用した子供たちへの出前授業がスタートした。
出前授業は広報部が主導する形で運営し、グループ会社の協力なども得ながら全国の小・中学校や高校で実施。昨年度に訪れた学校の数は100校以上に上る。小学校では総合学習の中で、また中学校では理科の授業や進路指導時の技術者の仕事紹介として活用されている。授業では「『ムラタセイサク君®』の開発にまつわる苦心談や裏話を交え、ロボットがどのようにできているのかを解説するとともに、大人もこれだけ失敗するんだから、子供たちも失敗を恐れず何事にもチャレンジしてほしいというメッセージを伝えるようにしています」(吉川)。そう話す吉川氏自身も「ムラタセイサク君®」の開発に携わっていただけに、語られるエピソードにも説得力がある。学校の先生からは、今学んでいる理科の授業内容が将来ものづくりの世界でどのように活かされるのかという筋道がよくわかる、と感謝の言葉が寄せられるという。

京都橘中学校での出前授業

村田製作所は7月7日、京都橘中学校で出前授業を行い、自転車型ロボット製作にまつわるエピソードや「ムラタセイサク君®」の実演を披露。生徒たちからは感嘆の声が上がった。「普通に走行するだけでも凄いのに、幅2cmの平均台の上を自分でバランスをとりながら進んだり、パソコンから無線で指示ができることに驚きました」と話すのは1年生の吉本君。理科と社会が得意で、いつかは国内外で人に役立つ仕事をしたいというのが吉本君の夢。それだけに出前授業は貴重な体験となったようで、「今日の授業を見て、僕も将来、技術者になって人を助けるロボットを作ってみたい」と目を輝かせていた。

谷 健太郎先生(理科)の話

村田製作所の出前授業を受けた京都橘中学校の理科教師 谷健太郎氏

村田製作所の出前授業を受けた京都橘中学校の理科教師
谷健太郎氏

近年、子供たちの理科離れが叫ばれていますが、その理由の一つには、与えられることに慣れてしまい、「ナゼなんだろう」と自ら思考する経験が少なくなっていることがあると思います。その意味で、今回の出前授業で本物の”科学技術”を見ることができたのは大変意義のある機会でした。大人の私でも感心するくらい純粋に凄い技術で、生徒たちも今後、授業で体験した“凄い”が「どう凄いのか」を思考するようになるでしょう。それを私たちは教師としてサポートできればいいなと思います。また、こうした機会は今後も授業の中で取り入れていきたいので、優れた技術を持った企業側から学校などに向けて発信していただければ、こちらからも積極的にアプローチしたいと考えています。

子供には知的好奇心、社員には誇りが芽生える

ものづくりの醍醐味を伝えることで理科教育の一助になれば、との思いから始まった出前授業だが、子供たちから寄せられる声が新たな開発につながることもある。「ムラタセイサク君®」に続いて2008年に製作された「ムラタセイコちゃん®」がそれだ。子供たちから「僕たちは一輪車に乗れるけど、セイサク君は乗れないの?」「セイサク君は男の子だけど、女の子のロボットはないの?」といった質問を投げかけられたことが開発のきっかけになった。「ムラタセイサク君®」は自転車に乗っているのに対し、「ムラタセイコちゃん®」は一輪車を巧みに操るロボットで、セイサク君ファミリーの中では第三世代のロボットに位置付けられている。
また、出前授業は社員のモチベーションにも大きな効果をもたらしている。普段は工場でオペレーター業務にあたり外部との接触がない社員が、出前授業で子供たちの輝く目を見ることにより、自分の仕事や会社に対する誇りが芽生えるという。
一方、出前授業とは別に、子供たちが自ら体験し、科学に対する知的好奇心をくすぐる取り組みとして行っているのが「電子工作教室」。これは、自分で電子部品を組み立て、作り上げる喜びを実感してもらうことを目的に、2007年から同社の会議室を開放して行ったり、科学館などでの科学イベントとして取り組んでいる。さらに、出前授業や「電子工作教室」に参加できない子供たちのために、2005年から同社Webサイトで子供向けの情報コンテンツ「エレきっず学園」を“開校”。気軽に科学の知識が学べるツールとして活用されている。
「出前授業で子供たちと触れ合い、好奇心でキラキラ輝く子供たちの目を見ると、反対に私たちのほうが元気をもらっている気がします。出前授業がきっかけとなり、大人になったらロボットを作りたい、社会に役立つ技術者を目指したいという子が出てくれば…。それが私たちの夢です」(吉川)

BtoB企業であるがゆえに一般の人たちの認知を得る機会が少ない村田製作所にとって、出前授業や「電子工作教室」などの取り組みは、村田製作所を知ってもらい、“村田ファン”を増やす貴重な場の一つとなっている。また、これらの取り組みは、社員のモチベーションを上げることにもつながっている。とりわけ今日、日本では子供の理科離れが社会問題としてクローズアップされているだけに、同社がCSR活動の一環として行う、理科教育活動がもつ意義は極めて大きいと言えるだろう。

「エレきっず学園」

村田製作所Webサイトで開設している「エレきっず学園」。自転車型ロボット「ムラタセイサク君®」「ムラタセイコちゃん®」のヒミツをわかりやすく紹介したり、電子部品の働きや「おもしろ実験」を親しみやすいイラストや動画で解説。さらに「おしごと見学」では同社の社員も登場し、子供たちの目線に合わせたタッチで技術者の仕事を紹介している。

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