グットプラクティス

第18回 積水ハウスの進化するサステナブル・レポーティング

硬派な情報開示を貫きながら
統合思考やCSVを取り入れる

GRIサステナビリティレポーティングガイドライン第4版(G4)では、CSRを推進するための要として、重要な課題に焦点を絞った報告を促すため、マテリアリティの特定を強調している。各社ともこれまでは自社の得意分野や、あるいは長年継続して取り組んできた社会貢献活動といった、ある意味「開示しやすい」取り組みを中心に報告してきたところも案外多いのではないだろうか。マテリアリティの特定をどういったところから始めたらいいか、またそれをどう表現するべきか、模索中の企業も多いことだろう。
今回、悩みながらもこの難題に取り組んだ積水ハウスの広瀬雄樹氏にお話をうかがってきた。

従業員がまず理解し、自社に誇りを持てるように

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コーポレートコミュニケーション部 CSR室長
広瀬 雄樹 氏

「自社の想定するステークホルダーとして、多様なセクターの方がおられるわけですが、どこを読者ターゲットとするかについては毎年、編集会議で時間を掛けて議論するところです。今回の2014年度版は、G4に向けての準備段階ということで、あえて専門家も意識した、一般の方からは少し堅苦しいと思われるだろうなということを承知で作りました」
最新版の「積水ハウス サステナビリティレポート2014」のコンセプトを聞くと、開口一番、広瀬氏からは意外とも思える答えが返ってきた。ハウスメーカーの発行するレポートであれば、やはり顧客に向けて発信し、ブランド価値を高めたいと考えるのが当然だろう。
しかし、積水ハウスではこのフルレポートを教科書代わりに、全従業員にeラーニングを実施しており、レポートを読み解かなければ回答することは難しく、また最後の問題まで正解しないと終われない仕組みになっているという。
こうして、まずは従業員自身が理解し、自社の活動や取り組みに価値や誇りを持ってもらい、第三者に語れるようにということで、たくさんの内容を盛り込んだものとなっている。このため、最近では冊子をダイジェスト版としてページ数を削減する会社も多い中、同社のレポートは88ページというヘビーなものとなっている。従業員や、CSR専門家、またリクルート学生など、本気で積水ハウスの思想や活動を知りたい人に読んでもらいたいという硬派な姿勢を貫いている。
顧客や一般の方に向けたものとしては別に、取り組みを24ページにぎゅっと絞り込み、イラストをふんだんに使った親しみやすい別冊版を準備しているということだ。

サステナブル経営が中長期的には成長の鍵に

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IIRCのオクトパスモデルを基に整理した

今回の一番の見どころは、レポートP15-16の「積水ハウスグループのCSV戦略」であろう。どこからCSV戦略が出てきたのか、その背景を聞いてみた。
「企業というのは、単に利益を追求するものでなく、ましてや社会や自然環境を蹴散らかしてまで拡大するようなことはあってはなりません。当社は1999年に環境未来計画を発表しており、当時こそ周囲の関心は薄かったものの、今では広くお客様から支持や共感を集めています」
経営トップ自らが一貫してこういった考えを内外に向けて発信しており、今年になって“CSV”という言葉を用いるようになったということだ。 「今回、当社のビジネスモデルとそれを取り巻く社会課題、さらに提供できる価値を明らかにした上で、5つのCSV戦略を策定しました。前半のCSV戦略は、当社の今後の話――軸足をどこに置いて、どういう姿を目指し、リスクに対してどう手を打とうとしているのか、を報告しています。これに対し、後半の実践報告は、あくまで年次報告という位置づけで、主に2013年度に実施した活動を掲載しています」 これらの新しいレポーティングのスタイルは、統合報告を意識している。それは、持続可能性ということを常に意識して事業活動を行っていることが、投資家や株主にうまく伝わっていないもどかしさが背景にはあると言う。
「当社の強みは、実のところサステナブルな経営にこそあるのだということをわかってもらいたい。そこにコストを掛けているだけでなく、世の中にも広く受け入れられ、かつ収益にも結び付いているのだと。中長期的に見れば、サステナブル経営が会社を成長させているということをレポートできちんと見せていきたいのです」

住宅は社会課題を解決に導くファクター

「日常的に使う消費財や、家電製品・車といった耐久財よりも、住宅というのは非常に商品寿命が長く、家族の変化や高齢化などライフスタイルにも関わってくるものであり、またまち並みやコミュニティにも影響を与えます。そういったことから、住宅は社会課題と密接につながっており、だからこそ社会課題の解決に貢献できることは多くあると考えています」
広瀬氏のこの言葉を端的に裏付ける事例が、東日本大震災の復興支援の取り組みだろう。東日本大震災後、積水ハウスではまさに総力を挙げて、被災地の復旧・復興に取り組んでいる。グループ会社の総合力を生かし、これまでに延べ31万人にも上る人員を派遣しており、全新入社員が復興支援に携わった。入社間もない若者たちは、清掃活動や仮設住宅での聞き取り調査など、現場に足を踏み入れなければわからないことを、身をもって体験することで、社会に対して自社の果たせる役割を真剣に考えられるようになる。 また、被災地に新たに築いた団地では、先進技術の省エネ・高耐震というハード面だけでなく、自治体や消防、JAなども巻き込んだコミュニティ形成のために積水ハウスが積極的に支援を行っている。
さらには、「5本の樹」でおなじみの在来種・自生種の樹木や植物を各家に植えることで、鳥や昆虫の種が戻ってきていることが調査でわかっており、住宅が小さな里山をつなぐ役割を果たしている。住宅を造って売ってそれで終わりではなく、家族の、まちの成長をずっと見守り伴走するパートナーといった存在か。子どもたちはもちろん大人にとってもかけがえのない、わが家と思い出の詰まった故郷を育くんでくれるだろう。

都会の真ん中にある里山

本社ビルの北側にある「新・里山」
稲が大きく成長していた(9月8日撮影)。毎年、近隣の小学校の児童らに田植えと稲刈り体験の場を提供している。

大阪の観光スポットとして人気の高い「空中庭園」のある梅田スカイビルに積水ハウスの本社はあるが、高層ビルのすぐ裏手にはなんと畑と田んぼがある。8,000m2に及ぶ広大な敷地には、野鳥、昆虫、植物が密接につながって共生しており、日本人の原風景といえる里山が都会の真ん中にあることで、近隣で働く人や住民にとってはオアシスのような存在になっている。また、ビルの東側には建築家・安藤忠雄氏の発案による緑化モニュメント「希望の壁」が2013年10月にできており、これも新たな名所となっている。

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