レポート事例集

企業は何をするべきか。気候変動による財務情報開示(TCFD)。

イメージ

2019年2月12~13日の2日間にわたり金融庁・経済産業省が連携してTCFDに関するシンポジウムが行われました。
12日は金融庁・JPX共催シンポジウム「TCFDを巡る企業と投資家の対話:今後の展望」、翌13日には経済産業省・TCFD共催シンポジウム「企業と投資家の対話-TCFD・シナリオ分析-」が開催されました。

イメージ

2日間にわたって開催されたシンポジウムは、2017年6月に公表されたTCFD提言をうけ、企業と投資家が中長期的な企業価値の向上のために対話を進めていく際、金融機関と産業界双方の視点から、TCFDやシナリオ分析について議論を深めるものです。

今回は「企業は何をすべきか」を中心に、官公庁等の最新動向を含めてシンポジウムの内容を報告します。

TCFDについてはこちら: 「TCFDとは何ですか?」

官公庁等公的セクターの動向

金融庁

  • 2017年12月に賛同表明
  • 2018年コーポレートガバナンス・コードを改訂し、ESG要素について追記
  • 「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正で、「記述情報の充実」としてリスクの事業へ与える影響の内容、リスクへの対応策の開示を求める(2020年3月期から適用。気候変動もリスクに含まれる)
  • 将来的には有価証券報告書に「気候変動に関する記載」といった項目の追加を想定

【外部リンク】「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(金融庁)


経済産業省

  • 2018年12月に賛同表明。
  • 枠組みであるTCFD提言に対応するための「TCFDガイダンス」を2018年12月に公表。
  • 特に気候変動の影響が大きいとされる自動車、鉄鋼、化学、電気・電子、エネルギーの5つの業種別のガイダンスも含まれており、2019年2月には事例集も公表。

環境省

  • 2018年7月に賛同表明。
  • シナリオ分析を中心とした「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ」を2019年3月に公表。
    ※シナリオ分析の実践事例や、エネルギー、運輸(海運、陸運、自動車)、建築/林業については、リスク重要度についての参考資料集も含まれる。
  • 2019年度にはESG対話プラットフォームで、TCFDに沿った情報を掲載していく予定。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)

  • 2018年12月に賛同表明
  • 運用資産全体の長期的なリターンを向上させるため、金融市場自体がサステナブルであることがGPIF自体のパフォーマンスの向上につながると認識し、気候変動にとどまらないESG投資を推進

企業は何をすべきか

上記のような公的セクターの急速な動きに伴って企業にも対応が求められていますが、すぐに対応するのは難しいケースが多いのではないでしょうか。すでに賛同を表明した企業の担当者からは、社内の壁になりやすい下記の4点について取り組みが紹介されました。

情報を公開、開示する

イメージ

TCFDの目的は「年次財務報告」を通じて投資家に適切な企業情報を伝えることなので、有価証券報告書、アニュアルレポート、統合報告書、サステナビリティレポート、ウェブサイトなどへの掲載が必要です。投資家が必ず目を通す有報への掲載が望ましいといえますが、財務や経理担当には不慣れな情報で掲載しにくい、紙面の制約があって掲載できないなどのケースが多くあります。そのため現段階では統合報告書等に掲載するのが現実的なアプローチと言えます。


社内の理解を得る

イメージ

適切な情報開示のためにも、社内の協力は不可欠です。 特に事業部門などからは業績とのバランスを懸念する意見が出ますが、世界中が2℃目標に向かうという外部環境下で、気候変動対応は単なる環境保護とは異なります。顧客、取引先、競合も2℃目標達成を意識し対応するという状況で、自社がどう行動すべきか検証するのは、事業部門にとっても経営者にとっても重要であると説得した企業もあったそうです。
投資家の要求や同業他社の取り組みを社内に共有したり、公的機関の動向を共有できるイベントに経営企画、IRなどの担当者が参加するのも、社内浸透のきっかけになりえます。


シナリオ分析を実施する

イメージ

シナリオ分析は投資家の強い要求でTCFD提言に含まれました。「不確実性」はシナリオ分析の前提と理解されているので、正確に将来を予測することよりも、「自社の今の戦略が、どのような社会変化に、どの程度耐えられるか」を明らかにすることが重要です。
素材産業などバリューチェーンの上流にある企業は、自社だけなく業界で協力してシナリオ分析を実施し、各社でアレンジを加え、修正すればよいということになるので、最終的な目標をとりあえず決めたというケースもあり、思い切りが重要といえそうです。
またシナリオ分析を通じて経営と統合した長期ビジョンを示すことも期待されています。

今後の方向性

投資家等が何を期待しているのかが2017年6月にTCFD提言として示されました。これからは企業が情報を開示し投資家等はそれを正しい投資判断に結びつけていくフェーズとなります。

企業の情報開示に課題はありますが、投資家サイドにも環境問題への取り組みと、企業価値との関連性を証明できない、環境問題の知識を十分に持っているわけではないという課題があります。

経済産業省は業種別ガイダンス、環境省は実践ガイドを作成、金融庁は有価証券報告書への記載を目指した制度改正に取り組むなど、省庁は企業の情報開示が進めば投資家の適切な判断を助けると期待しています。経済産業省だけでなくGPIFも、日本企業が金融市場で正しく評価されるようにグローバルに働きかけています。

TCFDをきっかけとして企業と投資家が積極的に対話し、「情報がどう活用されるかわからないので、特に不確定な未来の情報を開示するのは難しい」と考える企業と、「情報を開示しないと正しく評価できない」投資家の溝が解消されていくことが期待されています。

このページの先頭へ