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有識者ヒアリング情報vol.3「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き ①」

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2015年は、日本でESG投資を促進する上で大きなターニングポイントとなる年でした。そこで5回にかけて、2012~2013年にESGコミュニケーションについて取材した有識者の方々のインタビュー記事を改めて紹介しています。今回はそのvol.3になります。

vol.1でご説明していますが、2015年のトピックスは大きく2つ…「1.日本の公的年金運用機関がPRIに署名」「2.コーポレートガバナンス・コード」がありました。こちらの詳細については、是非vol.1をご覧ください

有識者ヒアリング情報vol.1「SRIとESG投資の違いとは?」

さて、連載vol.3では、三井住友信託銀行 経営企画部 チーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井司(かない つかさ)氏に2013年10月に伺った「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き」について振り返ります。


有識者ヒアリング情報vol.3「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き ①~SRI(社会的責任投資)からRI(責任投資)そしてESG投資へ~」


SRIの源流

SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)の源流は、宗教的な価値観に基づきタバコ、ギャンブル、兵器製造等に関連する「非倫理的」な会社を投資対象から排除するEthical Investment(倫理投資)である。ゆえにMPT(Modern Portfolio Theory:現代投資理論 *1 )に基づく合理的な運用と高度な説明責任が求められる年金とは相性が悪く、特にMPTの最先端をゆく米国においては、当初エリサ法(ERISA:従業員退職所得保障法)が規定する「受託者責任のルール」に反すると見なされた。その後監督官庁のスタンスは緩和したものの、同法の直接的な対象となる企業年金は今でもSRI運用に消極的である。

SRIは1990年代からMPTを踏まえたアクティブ運用など様々な運用手法が現れ、倫理投資との混同を避けるためRI(Responsible Investment:責任投資)と呼ばれることが多くなったが、それでも受託者責任に反する手法であるという考えは根強い。しかも厄介なことにエリサ法の精神は米国の企業年金のみならず世界の企業年金・公的年金に及んでいる。

こういった背景において、責任投資が巨大な年金マーケットで拡大するためには、MPTの枠組みの中で投資パフォーマンスに貢献する合理性を証明する理論武装が不可欠である。

過去の運用実績からSRIのパフォーマンスの良さを証明しようとする試みもその一つだろう。しかし運用成果はファンドマネージャーの力量による部分が大きく、どこまでがSRIとしての成果なのかは分かり難いこともあって、これまでのところその優位性を証明できていないように思われる。一方、責任投資がESG投資に「発展」してきたプロセスもある意味で理論武装の歴史である。この点は現在欧州を中心に進行しているESG投資バリューチェーンに関わるダイナミックな動きを理解し、今後を予想する上で重要だと思われるので、少し詳しく説明しておきたい。


国際社会とESG

周知の通り、20世紀型の大量生産・大量消費・大量廃棄のビジネスモデルは、資源の枯渇や気候変動、生物多様性の崩壊等を招くと考えられている。ESGのE(Environmental:環境)はその意味ではEarth(地球)のEである。他方、S(Social:社会)のカバーする範囲は広いが、ESGの文脈では、米国においては人種差別やベトナム反戦運動、欧州においては域内の失業の問題などに原点があるといわれている。

近年グローバル経済の矛盾が噴出し児童労働などの人権問題が特にクローズアップされているが、Sは一貫してP(People:人間)が中核的なテーマである。

このようにEとSの出発点は異なるが、市民社会からの強力な働き掛けがこれらを企業の経営課題にまで押し上げたことについては共通している。また、市民社会の代弁者としてNGOが力を強め企業と組織的な対話を積み重ねてきたことで、企業側のES問題への対応も洗練されてきた。

1997年にはサステナビリティ社のジョン・エルキントン氏がトリプル・ボトムライン(環境・社会・経済)という画期的な考え方を打ち出し、EとSを統合した上でE(Economy:経済)に理論的に結合させ、企業にも受け入れられやすいフレームワークを構築した。ただこの時点では市場(資本市場)からのアプローチは弱かった。関係者はSRIに期待したが、MPTの枠外にあって早々と受託者責任違反の烙印を押されていたこともあり、その期待に応えられなかったのは上記の通りである

一方のG(Governance:企業統治)はどうか。

コーポレート・ガバナンス活動の端緒は1960年代の米国におけるベトナム反戦運動や公害問題などで、ES問題と起源は同じだが、その後企業倫理や経営の効率性など企業価値の向上のためのロジックに発展した経緯がある。さらに上述のエリサ法が企業年金基金の受託者責任として議決権の行使を規定したことで機関投資家はGを推進する役割を担うようになった。コーポレート・ガバナンス活動を通じた企業価値の向上への働き掛けは、株価の向上に直結し理屈の上でも受託者責任とのコンフリクトは生じ難い。これによりGは資本市場の主流(メインストリーム)を巻き込んでグローバルな推進組織を形成し強い発信力を持つようになっている。

このように考えると、2006年に国連組織が中心になって制定されたPRI(国連責任投資原則)がESとGを統合してESGというコンセプトを打ち出したのは、ES陣営によるGの推進者、すなわち投資家を引き込むための周到な戦略だったと思えてくる。

PRIの発表に先立つ2005年、その設立を主導していた国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)がフレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンガー法律事務所に委託した調査報告において、「ESGが受益者の利益に優越するわけではないが、社会の変化に伴い受益者の利益を図るためには、もはやESGを無視するべきではない」いう見解 *2 が出された。かつてSRIの導入を阻んでいた受託者責任を、一転して導入のための理屈に転換させたわけだから、ここに年金投資家を引き込む政治的な意図を感じない方が難しい。


ESGがコンセプトとして確立した経緯(単純図式)

一方のG陣営にとってもES問題が企業価値に影響を与えるのであれば、無関心ではいられない。

つまりESGへの展開は言わば必然であったと考えられるが、それにしてもGを主導しているメインストリームの機関投資家が何の戸惑いもなくESを受け入れたかどうか疑問がないわけではない。ただ最近、海外の大手の年金基金においてコーポレート・ガバナンスを所管するチームがESGチームに衣替えしている例が多い。近年、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)の年次総会がPRIの総会と相前後して開催されていることや、ICGNが独自のESG教育プログラムを世界各地で開催しているのも、G側からES側へのアプローチと考えられる。しかし、本格的な統合はまだその過程にあると考えたほうがよいだろう。

いずれにせよ、ESGという言葉が最初にあった。欧米を中心に新しい価値観がそこから生まれている。国際社会のダイナミズムには、全く驚きを禁じ得ない。

*1 現代投資理論

投資家は、リスクの少ない機会を選ぶという合理的投資行動をする前提のもと、分散投資(マーコウィッツなど)を行い、自身のポートフォリオを最適化し、自身のリスク資産をどう価格設定するかを決める(効率的フロンティア、CAPM、アルファ、ベータ、資本市場線、株式市場線などを利用)ことを理論化している。

*2 Freshfields Bruckhaus Deringer “ A legal framework for the integration of environmental, social and governance issues into institutional investment~Produced for the Asset Management Working Group of the UNEP Finance Initiative” 2005 UNEP Finance Initiative Innovative financing for sustainability

略歴:金井 司 (かない つかさ)氏

1983年大阪大学法学部卒業、同年住友信託銀行に入社しロンドン支店、年金運用部を経て、2005年より企画部・社会活動統括室CSR担当部長。2012年4月より三井住友信託銀行経営企画部・CSR推進室・CSR担当部長。同社グループのESG投資を含むCSR業務全般を統括する。「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」運営委員長、「社会的責任に関する円卓会議」運営委員。著書に『戦略的年金経営のすべて』『CSR経営とSRI』『金融CSR総覧』『SRIと新しい企業・金融』等(いずれも共著)。

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