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有識者ヒアリング情報vol.4「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き②」

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2015年は、日本でESG投資を促進する上で大きなターニングポイントとなる年でした。そこで5回にかけて、2012~2013年にESGコミュニケーションについて取材した有識者の方々のインタビュー記事を改めて紹介しています。今回はそのvol.4になります。

vol.1でご説明していますが、2015年のトピックスは大きく2つ…「1.日本の公的年金運用機関がPRIに署名」「2.コーポレートガバナンス・コード」がありました。こちらの詳細については、是非vol.1をご覧ください

有識者ヒアリング情報vol.1「SRIとESG投資の違いとは?」

さて、連載vol.4では、三井住友信託銀行 経営企画部 チーフ・サステナビリティ・オフィサーの金井司(かない つかさ)氏に2013年11月に伺った「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き」について振り返ります。


有識者ヒアリング情報vol.3「ESG投資バリューチェーンにおける注目すべき動き②」


ESG投資バリューチェーンと最新動向

筆者は2013年5月、GRI(Global Reporting Initiative)第4版の発表も兼ねてアムステルダムで開催された国際会議*1に参加したが、ESG問題の広がりを実感する貴重な経験になった。ESGに関わる非財務情報が企業から最終的な受け手である投資家に伝わるまでの流れは一種のバリューチェーン(価値の連鎖)を形成していると考えられる。5月の会議はステークホルダーが集まってその流れをいかにスムーズにするか、さながら作戦会議という様相を呈していた。以下、各ステークホルダーを取り巻く環境変化や最新の動向を簡記する。


ESG投資バリューチェーン(概念図)

企業の非財務情報開示(報告書ガイドライン)

報告書ガイドラインは、上述のGRI第4版(G4)や統合報告など最近最もホットな話題であるが、本稿のテーマではないので詳しくは取り上げない。ただ企業側が出す情報と投資家が望む情報は、まだ完全には一致していないことを指摘しておく必要があるだろう。PRIが“ES業界”から“G業界”へのアプローチであったことは先に述べたが、資産運用業界という別の巨大なインダストリーを取り込めた訳ではない。ファンドマネージャー(資産運用業界)が欲しいのは株価に影響を与える財務情報で、財務情報に翻訳できない情報に興味はない。本来、そういった翻訳作業はファンドマネージャーの仕事だが(何故なら翻訳能力こそが最大の差別化要因だから)、多くのESG情報は翻訳作業に着手できるレベルまでブレークダウンされていない。その意味で統合報告などは、運用業界をその気にさせる道具の一つだと考えると分り易い。


企業のIR担当者

企業の成長のストーリーを投資家に語り、長期的に株式を保有してもらうことがIRの仕事である。一方でESG問題が企業のオペレーションやレピュテーションに影響を与えるようになってきており、ESGリスクへの対応策を説明し投資家の懸念を払拭することもIRの重要な仕事になりつつある。

最近、当社の証券代行部門の顧客企業にも、海外の公的年金から人権問題等に関する問い合わせが増えている。これらの質問に対する回答や個別の要請に応えなければ株式を売却すると通告してくる年金基金もある。このことは投資家がGにES問題を取り込んでいる証左であり、IR担当者がその意図や背景を知っておかなければならない時代が来たということを意味する。

しかし一方でIR担当者からESGについて海外の運用会社のアナリストから質問されたことがないという話もよく聞く。資産運用は分業体制になっており、ESGのスクリーニングや上記のような株主行動は投資家/アセットオーナー自身が独自の調査や判断に基づいて行なっている場合もある。そこに関与していない運用会社のアナリストからESGについて聞かれなくても不思議はなく、ESGという言葉さえ知らないこともあり得る。従ってIR部門が経営者に対し投資家はESGに興味が無いと伝えていたら、それは明らかにミスリードである。


非財務情報開示に関する規制当局の動き

「情報開示をしたら行動に活かさなければならない」という欧米の基本的な考え方に基づき、国家戦略を推進する上で主導権を握るための手段としてESGのコンセプトが利用され、抵抗する企業に対し、情報開示を義務化する方向で規制当局が動いている。

特に進んでいるのは欧州で、現在欧州委員会が欧州議会に提出している会計指令の改定案が承認されると、2017年から上場企業、2018年からは非上場企業も環境問題、社会や従業員に関する問題、人権尊重、腐敗防止や賄賂、取締役会の多様性に関する企業情報開示が義務づけられることになる。

米国では単発的な動きが多い。例えばSEC(米国証券取引委員会)が2010年に気候変動に関わる情報開示の解釈ガイダンス*2を発表したことや、金融規制改革法(ドッド・フランク法)の制定により企業には紛争鉱物に関する情報の開示*3が要請されるようになってきた。しかしながらSECとも関連が深い非営利団体のSASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、89の産業ごとに関連の強い持続可能性問題を抽出し、ESG課題に対し合理的な開示基準を策定する作業を進めている*4。


証券取引所のイニシアティブ

前掲の概念図で証券取引所は、証券市場を挟んで右と左(企業側と投資家側)を結ぶ結節点に位置しており、情報の出し手と受け手の間をつなぐ役割を果たすポジションにある。このような認識に立って2009年、ESG問題に関する企業の情報開示の透明性を高め、長期的なESG投資を促進することを目的としてサステナブル証券取引所イニシアティブ(SSE Initiative)*5が開始された。

中でも最も積極的な取引所は南アフリカで、上場企業に統合報告の作成を義務化するという思い切った施策を打ち出した。ブラジルの証券取引所も積極的で、上場企業にサステナビリティ報告書作成の有無を報告させ、作成していない場合はその理由の開示を求めた結果、作成企業数が飛躍的に上昇したと報告されている。

本イニシアティブには他に米国ナスダックやインド、エジプト、トルコの証券取引所が参加しているが、2013年7月にはニューヨーク証券取引所を運営するNYSEユーロネクストが新たに参加し大きな注目を集めた。イニシアティブには参加していないが、東京証券取引所を運営する日本取引所も海外との関係を深めている。東証は2012年7月に財務情報だけでなくESGの視点も取り入れて選定した15社(「ESGで企業を視る」*6 )を公表しているが、その後もESGに関するセミナーを開催するなど積極的である。


急拡大するPRI(国連責任投資原則)の影響力と高い戦略性

PRIがESGのコンセプトの確立にいかに大きな役割を果たしたかは先に述べた通りだが、設立後も署名機関数の急増(約1200)、運用資産総額の急拡大(約35兆ドル)を背景に多大な影響力を発揮していることに注目しなければならない。


PRI署名機関数と資産総額の推移
出典:PRI fact sheet “Growth of the PRI Initiative”より

PRIの戦略性の高さの一つは、署名機関を投資家(Asset Owner)、運用会社(Asset Manager)、サービス機関(Service Provider)に分け、それぞれの役割を最大限に引き出そうとしているところにある。例えば最近の顕著な動きとして、署名投資家に対し委託する運用会社の選定基準にESGを取り込む働き掛けを行なっていることが挙げられる。具体的には2013年2月に投資家向けにガイダンス*7を発表し、具体的な実例を交えながら「ESG開示項目の決定」「運用会社の選択」「運用会社への指名」「運用会社のモニタリング」という全委託プロセスにわたって実務的な指南をしたものである。このガイダンスにより、形だけ署名している運用会社に本気を出させる効果があり、動かない運用業界を動かす意図を感じる(そもそも署名していない運用会社は委託条件を満たさない)。更に全署名機関に対しESGに関する取り組みについての情報開示(運用会社版サステナビリティレポート)を促進しているが、そこには投資家も含めてESGに向けた動きを加速させる目的があると思われる。

PRIは自主的なイニシアティブであり規制ではない。しかしながら国連組織であるというステータスをフルに活かしながら重層的にディファクト・スタンダード作りを進めている。本来金融用語であったESGがその枠を超えて人口に膾炙するようになったのは、やはりPRIの戦略性に帰すところが大きいと言えるだろう。

*1 GLOBAL CONFERENCE ON SUSTAINABILITY AND REPORTING Amsterdam 22-24 May 2013

*2 KPMGあずさサステナビリティ「米国証券取引委員会(SEC)、気候変動情報開示に関する解釈指針を公表」2010年2月

*3 経済産業省「米国における紛争鉱物に関する開示規制の概要」

*4 SASB “ Determining Materiality”

*5 SSE Inivitative

*6 日本取引所ニュースリリース“東京証券取引所グループ テーマ銘柄「ESGで企業を視る」”

*7 PRI “Aligning Expectations Guidance for asset owners on incorporating ESG factors into manager selection, appointment and monitoring” February 2013

略歴:金井 司 (かない つかさ)氏

1983年大阪大学法学部卒業、同年住友信託銀行に入社しロンドン支店、年金運用部を経て、2005年より企画部・社会活動統括室CSR担当部長。2012年4月より三井住友信託銀行経営企画部・CSR推進室・CSR担当部長。同社グループのESG投資を含むCSR業務全般を統括する。「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」運営委員長、「社会的責任に関する円卓会議」運営委員。著書に『戦略的年金経営のすべて』『CSR経営とSRI』『金融CSR総覧』『SRIと新しい企業・金融』等(いずれも共著)。

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