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WICIシンポジウム報告:統合思考実現のヒントを探る

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WICIジャパンは2022年12月1日、WICIシンポジウム2022を開催し、「サステナビリティ関連標準と統合思考経営」をテーマにした複数のセッションが行われました。統合報告書を対話ツールとして活用することや、統合思考経営を目指すにあたって報告書の作成が有効であることが紹介されました。

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WICIジャパン統合レポート・アウォード

誰のための何のための情報開示か

シンポジウム内では、「WICIジャパン統合リポート・アウォード2022」の表彰式も行われました。審査員からの講評としては、今年の審査を通して、対話ツールとしての価値が上がっていることや、統合報告書をきっかけに投資家を中心とした幅広いステークホルダーとの対話につなげてほしいとの声がありました。

一方で、審査の過程ではトップメッセージが中期経営計画や統合報告書の要約にとどまる例も見受けられ、改善の余地もあるようです。「本来は将来のビジョンやストーリーを語ってほしい」と青山学院大学副学長の小西範幸氏は述べました。また、ファルコン・コンサルティング取締役執行役員の高井康男氏は、「コンテンツはとてもよい。構成をもっと意識してほしい」とレポート構成の重要性に言及。コンテンツが点として存在している状態ではなく線でつなげられるように、はじめはフレームワークを活用しながらレポート全体で工夫すべきと説きました。

松島憲之審査員長は「統合報告書は法的開示ではない。有価証券報告書より深い自由演技としてほしい」とコメントしました。今後注目が予想される人的資本の情報など、時流に合わせた訴求がしやすいことも統合報告書のメリットと考えられそうです。

また、細かい部分では、ROICツリーの開示に比べて資本コストの開示がまだ少ないことや、知財戦略の開示が社内向けの内容になっている例などが指摘され、ステークホルダーに合わせた情報発信をより意識する必要がありそうです。

開示を通して統合思考を推進

長期投資家を呼び込むためには、10年以上先の視点で長期ビジョンを考える必要があります。長期ビジョンを作ってからバックキャスティングで中期経営計画に落とし込み、価値創造ストーリーにすることが望ましいとされています。長期ビジョンを考えるヒントとして、「中期経営計画の背後には、将来的に会社が実現したいことがあるはず」と千葉大学の内山哲彦教授は指摘します。夢や願望も含んだ、将来的な会社のありたい姿を表現していくことが突破口になりそうです。

また、統合思考が確立していないことを理由に統合報告書発行を躊躇する企業に対しては、「書くから考える。それが統合思考につながる」と内山氏。制作する過程で内容を考えること自体が統合思考につながること、まずは、開示をスタートすることが大切と強調しました。

ガイドライン収束への動き

ESGに関するガイドラインやフレームワークが数多く存在することで、比較可能性や一貫性の観点で混乱が生じている状況があります。ISSBはそれを打破すべく設立された団体で、「IFRSサステナビリティ開示基準」の策定が進んでいます。GRIやCDPとも連携した投資家向けのガイドラインとして期待されています。過去に公開されたドラフト案へのフィードバックを受け、2023年の発行に向けて現在ISSBでの再審議が行われています。
また、「企業価値」という言葉において、時間軸の基準が人によって異なることが課題として指摘されており、こうしたガイドラインの登場によって、読み手と発信者の認識を合わせていくことも期待されます。

今後注目が集まる「人的資本経営」

プログラム後半のセッションでは、「人的資本からの価値創造」についても議論されました。中外製薬株式会社 上席執行役員の矢野嘉行氏が登壇し、自社の事例を紹介しました。中外製薬では、成長戦略「TOP I 2030」(2021年~2030年)における人財マネジメント戦略を策定し、人的資本の的確な投下・拡充に向けた戦略を設計しています。

IFRS財団の高橋範江氏からは、人的資本のレポーティングプロセスを通じてステークホルダーを巻き込み、いかに価値創造への好循環を創出・維持していくかが重要であるとの意見がありました。また、一般的な議論にとどまることなく、自社固有の現実的な組織マネジメント課題にまで掘り下げられるかどうかが課題となります。そのためには、経営者のコミットメントが不可欠との指摘もありました。

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