CSR Topics

CSR Topics記事

バックナンバー一覧

「欧州企業と人権(3)人権デュー・ディリジェンス」――下田屋毅の欧州CSR最前線(27)

前回、欧州企業の人権への取り組みでは、人権方針、人権研修について伝えた。今回は欧州企業の「人権デュー・ディリジェンス」の取り組みについて伝える。

人権デュー・ディリジェンスとは、「人権への影響を特定、防止、軽減する。また、どのように対処するか責任を持つプロセス」のことである。「国連ビジネスと人権に関する指導原則」によると、具体的に人権デュー・ディリジェンス・プロセスは、以下を含むべきとされている。

1)人権影響評価:実際/潜在的な人権への影響を評価すること
2)適切な対処のための行動:その人権影響評価の結論を社内のプロセスに取り入れ実行すること
3)継続的追跡評価:それに対する社内外からのフィードバックを、適切な質・量的指標に基づき追跡検証する
4)情報提供:人権への影響のリスクがある場合、どのように対処するか外部に情報提供する

ザ・コカコーラ・カンパニー(本社アトランタ)、世界職場の権利ディレクターのエド・ポッター氏は、「企業が人権にどのように取り組むかを説明するための人権デュー・ディリジェンス・プロセスを作り上げるのは、とてもチャレンジングだ」と話す。

インターナショナル・ビジネス・リーダーズ・フォーラムのシニア・アドバイザー、グラハム・バクスター氏は、「企業が効果的な人権デュー・ディリジェンスのプロセスを実施する方法は、企業、業界ごとに変わる。全ての企業に適用できる万能なものはないし、そのプロセスは、地域の環境に合わせる必要がある」と話す。

このように人権デュー・ディリジェンスでは、各国・各拠点で様々な文化があり、人権に関して違う理解があるので、地域での人権の特性を理解しながら、各地域における人権の理解を踏まえて実施していくことが重要となる。

■ 「人権影響評価」は、ステークホルダーの特定が重要

人権影響評価の目的は、負の人権への影響を最小化し、企業のプロジェクトや行動について肯定的な効果を高めることである。

この人権影響評価で重要なのは、ステークホルダーを慎重に特定すること、そしてそれらステークホルダーとの対話と透明性の確保である。ステークホルダーとのコミュニケーション/エンゲージメントは、ステークホルダーとの間に信頼性を構築する重要な機会でもある。

欧州人権コンサルティング会社トエンティフィフティ・ディレクターのルーク・ワイルド氏は、「人権影響評価をしている時に、ステークホルダーとの一般的な会話が助けになる時もある。多くの関係者に様々な観点から話を聞き、その中で見えてくるものもある」と話す。

グローバル・コンパクト・ネットワーク・オランダが発行している「ビジネスと人権の尊重の方法(企業のためのガイダンスツール)」によると、人権影響評価のポイントは以下のとおり。

1)人権への影響を理解する
2)影響評価の様々なプロセスを区別する
3)人権リスクマッピングの実施
4)既存のリスク管理機能に関与させる
5)人権へのリスクを特定する
6)リスクを軽減する行動の優先順位付けをする
7)評価結果を事業運営に反映させる

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」で求められている人権に関する考え方を確認した上で、歴史的、文化的、宗教的、人種的な背景などその地域独特のものがあることを考慮し、日本で考える人権と他国で考える人権との違いを認識し、理解を深める必要がある。

日本以外での人権影響評価を実施するにあたっては、その国で働く現地スタッフに人権に関するインタビューを試みるなど、人権に対する考え方を認識することから始めることもできる。

世界40カ国以上でサービスを展開するヨーロッパ有数のレジャー旅行会社のクオニ・グループ(本社スイス)では、自社のケニアでのサービスをパイロットプロジェクトとして、人権影響評価を実施し評価書を発行している。

この評価書の中身としては、1.クオニの企業責任のコミットメントについての背景、2.実験プロジェクトの目的、3.プロジェクトのリーダーシップ、パートナー、監督、4.影響評価プロセス、5.発見と可能性のある行動の概要(労働問題、児童労働、経済のベネフィット、コミュニティへの影響)、6.教訓、7.今後の方針、8.外部のステークホルダーからの声明――などを取り上げている。

また、世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロールミッタル社(本社:ルクセンブルク)では、人権への影響が高いとされる地域、ブラジル、リベリア、カザフスタンで、人権影響評価を実施している。

アルセロールミッタル社では、この「人権影響評価」について「人権がどのように経営実務に統合されているかを確認するもので、さらなる改善をしていくために使用する」としている。

■ 人権影響評価の結論をどう社内のプロセスに取り入れるか

英国の「人権とビジネスに関する研究所(IHRB)」の調査によると、「ビジネスと人権に関する指導原則」の取り組みを開始している多くの企業は、この人権影響評価の結論を社内のプロセスに取り入れ実行すること、つまり企業活動に統合する部分が人権デュー・ディリジェンスのプロセスの最も難しい部分だと感じている。

ジョン・ラギー教授は、「企業は、人権の尊重を根付かせるために、企業トップからのリーダーシップを確保すべきである」と述べている。人権デュー・ディリジェンスはある意味でチェンジ・マネジメントのプロセスであり、経営陣のサポートなしでは成し得ることが難しいからである。

ジョン・ラギー教授は、「多くの企業で問題とされるのは、部門間で同時性を持たせていないことである。これは、人権方針と彼らの適用に一貫性を無くしている」という。同氏は、「CSRプログラムで、サプライヤーの従業員の権利を擁護している時に、購買部が、同じサプライヤーに対して、コスト削減と非現実的な期限を押し付けるなど強い圧力をかけるというようなことである」と例を挙げている。

IHRBによると、統合を達成するための管理手法の例としては、以下があるという。

1)雇用、採用、活動評価のような人的資源プロセスにおける人権コミットメントに関係する基準を含む
2)指導原則と行動基準に関する従業員研修を実施する。それらは、人権に関するジレンマを共有すること、そして、ビジネスの意思決定の影響を理解することを含む
3)非財務評価とボーナスを含む長期的なインセンティブの開発
4)人権方針から外れた行動に対する強い阻害要因(懲戒処分を課すなど)の導入。
5)人権ジレンマへの対処とパフォーマンスの改善についての許容量の整備
6)支援方針、手順、モニタリング、その他監視メカニズムを含む、人権監視システムの作成
)ビジネスパートナーとの契約に人権原則を含み、それらを訓練、監視する。

企業が人権研修を実施し、人権に関する意識を高めることは重要であるが、研修を実施するだけでは完全な統合を実現することできない。IHRBの調査では、この統合プロセスでは、長期的なインセンティブと人権侵害を防ぐ阻害要因が必要不可欠とされている。上記を参考に人権デュー・ディリジェンスにおける効果的な「人権影響評価」、「適切な対処のための行動」について検討されたい。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」

「環境とCSRと志のビジネス情報誌」。CSR、LOHAS的なもの、環境保護やエコロジーなど、サステナビリティ(持続可能性)を希求する社会全般の動きを中心に、キャリア・ファッション・カルチャー・インテリアなど、幅広い分野にわたり情報発信を行う。
雑誌の他、CSR担当者とCSR経営者のためのニュースレーター「CSRmonthly」も発行。CSRの研究者や実務担当者など、約20名による最新情報を届けている。

オルタナについて詳細はこちら

CSRmonthlyについて詳細はこちら

定期購読のお申し込みはこちら

関連するページ

このページの先頭へ