アフリカでソーシャル・ビジネスに身を投じたCSR部員
を展開する味の素株式会社
研究開発企画部
専任課長の北村聡氏
日本にCSR部員が何千人もいる中で、自らソーシャル・ビジネスを立ち上げるため途上国に赴任したのは、おそらく、この人しかいないでしょう。
味の素でマヨネーズなどのマーケティングを担当した後、2005年に同社CSR部に配属された北村聡さんです。
味の素は2009年、西アフリカ・ガーナの子どもたちの栄養改善をしようと「ガーナ栄養改善プロジェクト」を立ち上げました。
発酵コーンでつくるガーナの伝統的な離乳食「koko(ココ)」は、タンパク質や微量栄養素が不足しています。そこで、アミノ酸入りの栄養サプリメント「KOKO Plus(ココプラス)」を開発しました。
そして北村さんは2011年9月、「KOKO Plus」の販売を立ち上げるため、ガーナに赴任しました。野口英世が黄熱病で命を落としたガーナ。全く知らない灼熱の地に家族を引き連れ、たった一人でソーシャル・ビジネスを始めたのです。
(以下は、オルタナ33号掲載「ガーナの栄養不足を改善――味の素が手掛けるソーシャル・ビジネス」から転載)
味の素は2009年、西アフリカ・ガーナの子どもたちの栄養改善をしようと「ガーナ栄養改善プロジェクト」を立ち上げた。6月に開催された第5回アフリカ開発会議では、安倍晋三首相から賛辞が送られるなど、ソーシャル・ビジネスとしての期待が高まっている。CSR担当者で、現在はガーナ駐在員として事業を展開する北村聡氏に話を聞いた。聞き手=森 摂(編集長)
――CSR部員が実際に海外でソーシャル・ビジネスを始められたことは、画期的ですね。自ら手を挙げてガーナに行かれたのですか。
北村:そうです。 もともとはマヨネーズなどのマーケティングを担当していました。ずっと「会社の人格」を作るような仕事をやりたかったので、CSR部創設時に応募したのです。CSR部に入って5年目、2009年に味の素が創業100周年を迎え、この「ガーナ栄養改善プロジェクト」が立ち上がりました。ガーナ駐在は2011年9月に始まりました。
■最初の1千日で決まる
――現地の子どもたちの栄養状態はいかがでしょう。死亡率も高いのですか。
北村:栄養が偏っていたり、不足していたりするので、痩せていて小さい子が多いです。保健所で身体測定を行うと、標準身長・体重の下限値を行ったり来たりしています。今は色々なワクチンがありますから、生き延びること自体はそこまで厳しくありません。
なぜ味の素が「離乳期」にこだわるのかというと、妊娠から子どもが2歳の誕生日を迎えるまでの3年間、つまり「人生最初の1千日間」が非常に重要だからです。この最初の1千日間の栄養不足による成長不良は、その後、取り戻すことが難しい。
2歳では30-40%の子どもが低身長になっています。低身長児は、免疫系や知能の発達が十分ではないことが多いようです。
ですから、味の素は、生後6カ月から24カ月の離乳期の栄養不足の改善に取り組んでいるのです。
発酵コーンでつくるガーナの伝統的な離乳食「koko(ココ)」は、タンパク質や微量栄養素が不足しています。そこで、アミノ酸入りの栄養サプリメント「KOKO Plus(ココプラス)」を開発しました。ガーナの食品企業イエデント社に製造委託し、ガーナ産大豆を主原料にしてアミノ酸を添加しています。2012年4月に販売を開始しました。
商・工業が発展し比較的裕福な南部では、キヨスクのような小さな店舗500店で販売しています。貧困層の多い北部では、地元のお母さんたちのグループが他の商品と一緒に手売りしています(記事文末のコラム参照)。
――最初の反応はいかがでしたか。
北村:最初は本当に大変で、1軒1軒訪ね歩いたのですが、全く売れませんでした。気温40度の炎天下のなか、300メートル間隔で離れた家々を歩いて回るのですから、1時間も持たずに干上がってしまいます。
なかなか売れないので徒労感が漂っていました。それでも、やっているうちにいくつか売れ始めました。
幸運だったのは、製品に含まれている大豆やアミノ酸などによって子どもに良い影響が表れ、効果を実感してくれたことです。2週間ほどで、ほとんどのお母さんから「下痢が減った」などの良い報告がありました。それが口コミで広がっていったのです。
――いま初めて試食しましたが、少し甘くてきな粉のような風味ですね。ココプラスは1日でどのくらい消費するのですか。
北村:ココは酸味が強く、ガーナ人は甘い味が好きなのでこの味に決めました。必要な栄養素を摂ってもらうために、1日で1袋消費してもらうようにしていますが、1食で1袋食べる人が多いです。
栄養面だけでなく、「美味しい」というのもポイントです。現在はガーナ全体で1日1千袋売れています。
――価格はいくらくらいですか。
北村:現地通貨で1袋20ペセワスです。日本円換算で約11円(2013年5月現在)。ガーナの人は、その日その日を生きていますから、月収という概念がなく、家庭単位の日収が100~200円です。
ですから、ココプラスは決して安くありません。一家庭に子どもが5、6人いますから、毎日買って食べてもらうのは、容易なことではないのです。
■パートナーとの交渉が鍵
――北村さんがガーナに行く前と行かれた後で、最大のギャップは何でしょうか。
北村:当たり前のことですが、紙に書いたことと現場は全く違いますね。とにかく物事を進めるのが大変です。
プロジェクトのパートナーは、ガーナ大学や国際協力NGO、政府機関など11団体います。「栄養改善」という大きな目標を立てると、誰もが「素晴らしい」といって反対しません。しかし、そこに向かう目的はそれぞれ違ってくるのです。
例えば、ガーナ大学は学術的な成果を期待し、国際協力NGOはコミュニティー開発を目指しています。私たちは製品を売りながら、栄養改善に寄与することが目標です。
それぞれ大きなベクトルは一緒でも、突き詰めていくと、やりたいことが違うので、いくら私たちが「製品を売ってほしい」と呼びかけても誰も動きません。ですから、彼らの目標を考えながら、大きなミッションを達成しないといけない。
■5年以内に軌道に
――ビジネスとしてのメドは立っていますか。
北村:できれば5年以内に採算が取れるようになればと考えています。ただ、そう簡単ではありません。食品ブランドを育てるというミッションが根幹にありますが、どんなブランドも5年10年で花開いたという例は、短い部類に入ります。
現在はフェイズ1の製品開発や市場調査を終え、フェイズ2の栄養効果試験やテスト販売を実施している段階です。
これを総括し、2014年春に工場の生産体制を整え、フェイズ3の本格販売に移行していきます。
とにかく、この5年で道筋を描いていきたい。それが見えてくれば、「勝利の方程式」が自分の中でできています。夢は大きく、アフリカ全土にココプラスを広め、栄養不足を改善していきたいのです。
■関連コラム――「ココプラス大使」が活躍
「栄養を売る」のは簡単ではない。特に、物流もなく貧困層の多い北部では、対面販売できる仕組みが重要だ。
そこで、味の素は、現地で活動している国際協力NGOケアインターナショナルと協働。「VSLA」(ヴィレッジ・セービング・ローン・アンド・アソシエーションズ)という村民参画型の貯蓄、融資の仕組みを利用し、販売スキームの確立を目指している。販売員は、VSLAから融資を受け、塩や大豆などの販売や農産品加工などの小ビジネスを行っており、ココプラスも販売アイテムの一つとなっている。
南の都市部では、テレビやラジオよりも「口コミ」が有効に働く。特に身近で尊敬できる、おばあちゃんやクイーン・マザーと呼ばれる首長の妻、宗教のリーダーなどの影響力が強い。彼らに製品をプレゼンし、「ココプラス大使」になってもらい、ココプラスを広める協力を得ている。同時に、栄養教育プログラムなども展開し、栄養管理の重要性を訴えている。
「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」

「環境とCSRと志のビジネス情報誌」。CSR、LOHAS的なもの、環境保護やエコロジーなど、サステナビリティ(持続可能性)を希求する社会全般の動きを中心に、キャリア・ファッション・カルチャー・インテリアなど、幅広い分野にわたり情報発信を行う。
雑誌の他、CSR担当者とCSR経営者のためのニュースレーター「CSRmonthly」も発行。CSRの研究者や実務担当者など、約20名による最新情報を届けている。
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