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米サステナブル・ブランド会議でも「協働」「ストーリーテリング」「CSV」に脚光

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企業・ブランドは問題の根源なのか
それとも問題を解決できる
パワーを秘めているのか。
若者を壇上にあげての楽しい
ディスカッションのひととき

サステナブル(持続可能性が高い)なブランドを追求する企業の国際会議「サステナブル・ブランズ」(SB)が今年も6月3~6日の日程で開かれ、米国内外から1,500人が集まる盛況になった。今年の3つの特徴を紹介しよう。(米カリフォルニア在住=藤美保代)

この会議はサステナブル・ライフ・メディア社(本社サンフランシスコ)が主催。サステナビリティ、ビジネス戦略、ブランディング、イノベーションなどの学びとコミュニケーションの場になっている。

SBは、「ビジネスに直結するサステナブルなブランドづくり」に重きを置いている。コンプライアンスやデューディリジェンスだけでなく、サステナビリティやCSRを、企業の価値創造の一部として追求し、利益につなげるための実践的なケーススタディや戦略を豊富に提供していた。

今年のメインテーマは「革命からルネッサンスへ」。「ルネッサンス」という言葉通り、新しい方法論やアイデアを共有するだけでなく、それらが最も効率的に価値を発揮できるような全体的なシステムの再定義や再構築に主眼が置かれた。

1)サステナビリティの再定義とは

「サステナビリティ」の考え方における企業ごとの取り組み、CO2の低減、紛争鉱物への対応など、個々の局面では大きな飛躍や改善が見られた。その一方で「競合他社や取引先もやっていないのに、自社だけサステナビリティに投資した場合のリスクはどうなるのか」という問題は常につきまとう。

誰もがリスクを怖れることなく投資できるようにするためには、それがシステム全体の「当たり前」にならなければならない。

では、サステナビリティをシステム全体の「当たり前」にするにはどうしたらいいのか。そのために、個々の企業は、あるいはパートナーシップという形で何ができるのか。全体と構成各パーツの「あり方」の再定義が、議論の一つの核になった。

企業の目的とは何か。資源を取り込んで最終的に廃棄物になるモノをつくることなのか。それとも、「文化」の一端を担う有機的な集合体なのか。だとすれば、その役割と可能性は。「バリューチェーン」とは――。

会場では、こうした大きなテーマにきちんと取り組むことが、サステナビリティを企業やブランドの価値として効果的に取り入れていくためには不可欠だ、という認識で一致した。

また、「Co(協働)」というキーワードが会場で繰り返し聞かれた。大きなテーマに対して共感する企業・組織・個人が、協力して同じ目標に取り組むことが、バリューチェーン、サプライチェーン、経済全体を根底からボトムアップできるような、新しいシステムをつくりだす原動力になりうるとの認識が広がっていた。

2)「方法論」から「ストーリーテリング」へ

カーボン、汚染物質や化学物質、紛争鉱物、水資源のトラッキングとレポーティング。LCAなど環境や社会問題を網羅するサステナビリティ関連の計測、公表などの「方法論」は、どんどん成熟して精度を増し、細分化・複雑化している。

それらのコストも増加する中、ここにきて、「なぜ自分の企業・ブランドはこれらをやっているのか」「どこまでやるべきなのか」「ビジネスの本分に鑑みて、今後何を達成していきたいのか」という哲学的な問いかけに立ち返った、新しいメッセージの発信の仕方が、大きな潮流となっている。

「○○年に○○を○%削減」などの方法論だけでは、本当に伝えたい相手に、伝えたいことが届きにくい。

その奥にある企業・ブランドの信念や情熱、ステークホルダーと共有する価値、あるいは創造している文化を、血の通った「ストーリー」として発信し、「個人よりももっと大きな意義の一部でありたい」と願う消費者の共感と支持を得るには、「ストーリーテリング」の力が大切なのだ。

21世紀はソーシャルネットワークの時代であり、世界中の人が瞬時に情報を共有できる仕組みがあることから、ストーリーテリングにおいて重要となるのは、きちんとした方法論に裏付けられた「本物」の取り組みや透明性(嘘は見破られる)だ。

そして受け取り手が、それぞれの生活の中でそのメッセージを自分のこととして身近に感じられ、感情移入できるようなストーリーであること。さらには、彼らが自発的にブランドの「伝道者」となって、多対多のソーシャルメディアのネットワークの中で、ブランドの情報を共有できるようなフォーマットであることが大事だ。

企業やブランドが真剣に取り組んだ「ストーリー」を、聴く者一人ひとりが、その心を大きく開いて受け止め、共振できるようなパッケージにして送る(テリング)ことが、サステナビリティ・コミュニケーションでは一層重要になってくる。

3)CSV(クリエイティング・シェアード・バリュー)

マイケル・ポーター教授が提唱するCSVというコンセプトは米国と欧州のビジネス界でも浸透しつつあり、各プロジェクトは実行段階に入ってきた。

プーマ、ユニリーバ、ジョンソン・アンド・ジョンソン、パタゴニアをはじめとして、先進的な企業が、アフリカや南米などの発展途上国や新興国で行っているプロジェクトの報告は、企業が貧しい地域に一方的に善を施す、または資金・人的援助をする、というスタイルから脱却し、新たな次元に到達していることを感じさせた。

どの企業も、現地に根付き、現地の問題を解決することで共に利益を得よう、という方向性を重視しており、プロジェクトを軌道に乗せて、サポートに頼らなくても現地でビジネスを回していけるような、自助能力のある組織を育て上げることを目指している。

ジョンソン・アンド・ジョンソンは、取り組みが遅れているブラジルのゴミ処理問題を支援すべく立ち上げたProject Phoenixを紹介した。このプロジェクトは、ブラジルの生協を援助して、自発的にゴミの回収、再資源化の仕組みを構築するもの。

回収ゴミの品質もきちんと管理できるレベルにまでビジネスの質を引き上げ、再資源化されたものを、自分たちの製品のパッケージに使用しているのが特徴だ。

プーマがアフリカでプロジェクトを展開するのは、アフリカがサッカーの巨大マーケットであるからであり、現地の問題解決が即ちプーマの将来のビジネス拡大につながる、という考え方だ。

ここでも、一方通行の「援助」ではなく、初期の援助が現地で新しい価値を生み、その価値が新たな価値を生むという、双方向・多方向型の価値創造のシステムへのシフトが見て取れた。

「Sustainable Brands 2013」のホームページにはプレゼンテーションやセッションのビデオがアーカイブされており、無料で視聴できる。

「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」

「環境とCSRと志のビジネス情報誌」。CSR、LOHAS的なもの、環境保護やエコロジーなど、サステナビリティ(持続可能性)を希求する社会全般の動きを中心に、キャリア・ファッション・カルチャー・インテリアなど、幅広い分野にわたり情報発信を行う。
雑誌の他、CSR担当者とCSR経営者のためのニュースレーター「CSRmonthly」も発行。CSRの研究者や実務担当者など、約20名による最新情報を届けている。

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