トップコミットメントを得るためには――下田屋毅の欧州CSR最前線(32)
の下田屋毅氏
CSRを企業が進める上で重要なのは、企業トップ・取締役会のCSRに対する正確な認識とコミットメントである。しかしながら、多くの企業のCSR担当部門の悩みは、どのように企業トップ・取締役に本来のCSR活動(戦略的CSR)を理解してもらい、コミットメントを得るか、ということになっている。この傾向は、日本だけに限らず欧州やそのほかの地域でも存在している。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)
■ 「CSR」に対するイメージがばらばら
CSR活動が停滞しているか、進んでいない企業は、企業トップ・取締役、CSR担当部門、そして、その他部門の従業員が、「CSR」について思い浮かべる内容が違っている。
特にこうした企業のトップや取締役は、CSRについての正確な理解が不足しており、CSRを「慈善事業」や「ボランティア活動」のようなものととらえることもあり、コストがかかる余計なものと認識している人が大半を占める。
CSRの推進には、トップダウン、ボトムアップの双方が求められ、企業トップ・取締役のコミットメントなしにはCSRの推進は難しい。こうしたなかで、どのように企業トップ・取締役からコミットメントをもらい、CSRを戦略的に実施していくようにしたらいいのだろうか。
欧州のCSR先進企業では、企業トップ・取締役は、「CSRは企業活動を進めていく上で必要不可欠なものであり、そして、企業がCSRに戦略的に取り組むことで企業に多くのメリットをもたらし、企業の持続可能性とともに、環境・社会の持続可能性にも貢献すること」を知っている。
CSRは、企業にとって重要なリスクと機会を表している。取締役がCSRを理解し、促進する必要があるのは、次の企業活動に重要な事項に関連しているからである。
CSRは、
1.企業戦略とビジョンに大きく影響を与え、さらなる強化ができる
2.取締役レベルの監視と説明責任を必要とする
3.リスク認識とリスクマネジメントに影響を及ぼす
4.取締役会の構成とそれぞれの専門性を必要とする
5.ステークホルダーへの適切な情報開示を実現する
CSR担当部門は、企業トップ・取締役に上記の重要性を理解してもらう勉強の機会を設け、そしてCSR推進のためのCSRガバナンスの構築の重要性を訴え、コミットメントを得る必要がある。
■ CSR への理解を得られる仕組みづくりが重要
取締役会が、CSRを理解し、取り組みを開始するにあたって、カナダ産業省は次のような「良いCSRガバナンスへ向けたロードマップ」を提唱している。
企業トップ・取締役会は、CSRガバナンスを委任するにあたり、現在のCSR関連のガバナンスを見直し、企業のCSRガバナンスの取り組みが、ベストプラクティスと比較してどのレベルにいるのかを理解することから始める必要がある。その上で、ロードマップを実践していく。
ロードマップの順番は、CSRガバナンスを見直した評価結果と取締役の優先順位に基づいて変化するが、その行動内容は一般的に次の2つに振り分けられる。
フェーズ1:取締役は、早い時期に自分たちのCSRガバナンスの委任を進める。
フェーズ2:取締役が、自分たちのガバナンスの役割にCSRをさらに統合することを承認する。
◆ フェーズ1(ファーストステップ)
□ 取締役自身が自社のミッションや企業価値、方針にCSRを組み込む。
□ CSRに関する責任をCSR委員会に委任する。
□ 取締役のCSRに関するコミットメントを企業内、そして、ステークホルダーに伝える。
□ CSRのリスクと機会について継続して取締役レベルに教育する。
□ CSR戦略とリスクマネジメントに関する監視を実施する。
□ 主要な意思決定にCSRを反映させる。
□ ステークホルダーに対するCSRパフォーマンスの情報開示を再検討する。
◆ フェーズ2(さらなるレベルアップ)
□ 効果的なCSRマネジメントシステムを確立する。
□ 取締役会がステークホルダーの生の声を聴くことができる公な仕組みを構築する。
□ 企業トップ・取締役の雇用にCSR要因を組み込む
□ CSRパフォーマンスについての取締役報酬を導入する。
□ 取締役としての活動がCSRに沿っているかを確認するイニシアチブを導入する。
□ CSRガバナンスを継続して改善していくために取締役の年次評価にCSRを組み込む。
アライアンスブーツ(本社スイス)は、欧州を中心に20カ国で10万人以上のスタッフと3千の薬局を展開している。
アライアンスブーツ、CSRグループヘッドのリチャード・エリス氏は、「私は、10 年前、取締役からの理解を得るために何かしたくても、取締役会の議事の最後に回され、他の議事に時間を取られ議論の時間はほとんどなかった」と言う。
「しかし、取締役の企業責任(CR)委員会が設立されてから、私は取締役会において、年4回、1回につき3時間の時間を得ることができている。私は、我々が直面するサステナビリティの課題について議論をするために、このCR委員会が機能し活用することができている。これは私が人々を説得し、理解を得るために非常に役立っている」
マークス&スペンサー(M&S)は、世界48カ国に700店以上を展開する巨大スーパーマーケットチェーン。同社のサステナビリティマネージャーであるローランド・ヒル氏は、「取締役に対しての教育は外部のCSR/サステナビリティの有識者を講師に迎え、取締役レベルの人にさらに理解を深めてもらっている」という。
また、M&Sのすべての取締役・幹部には、同社のCSRに関するコミットメント「プランA」のターゲットそれぞれに責任が振り分けられており、個人の業績評価と収入に結び付いている。「プランA」のコミットメントの進捗状況は、毎月確認され、取締役と監査委員会には半年ごとに報告されることになっている。
CSRの推進にあたって、企業トップ・取締役の役割は非常に需要であり、トップダウンなしには成し得ない。上記のロードマップや事例を参考に、是非社内での体制を整備して戦略的CSRの推進を実現して欲しい。
「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」

「環境とCSRと志のビジネス情報誌」。CSR、LOHAS的なもの、環境保護やエコロジーなど、サステナビリティ(持続可能性)を希求する社会全般の動きを中心に、キャリア・ファッション・カルチャー・インテリアなど、幅広い分野にわたり情報発信を行う。
雑誌の他、CSR担当者とCSR経営者のためのニュースレーター「CSRmonthly」も発行。CSRの研究者や実務担当者など、約20名による最新情報を届けている。
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