CSVからCSRへ:ビジネスのネガティブな社会的影響を忘れるな(CSRmonthlyから転載)
このタイトルを見て、「CSRからCSVへ」の間違いでは、と思われた方もいるかもしれないが、誤植ではない。
改めて説明するまでもないが、ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授は、「CSRからCSVへ」というフレーズでCSVの概念の普及を図ろうとしている。
ビジネス戦略の中に、社会課題の解決を取り込んでいく概念は、ビジネスで上げた利益を慈善的な寄付行為に活用するよりも、持続的で、かつ大きな社会的インパクトをもたらすことが期待される。
企業にとっては、特に株主というステークホルダーに「なぜその特定の分野や組織に寄付をするのか」を的確に説明する事は容易ではないが、「社会課題の解決に資するビジネスで、利益も出る」CSVは遥かに説得力を持つのは疑問の余地のないところであろう。
しかしながら、少なくとも「CSRからCSV」という表現は誤解を招く恐れがあることには注意が必要である。ポーター教授は、論文の中でCSVの概念を際立たせるために、CSRを慈善的寄付中心の米国の古典的な概念で位置付けている。
これは、少なくとも現在の日本や欧州でCSRのベースとして理解されている、EUやISO26000の社会的責任の定義とは異なるものである。ISO26000では「慈善活動は社会にプラスの影響を与えることができる。しかし、組織はこれを社会的責任のその組織への統合に代わるものとして利用すべきでない」としていて、慈善的寄付は、そもそも社会的責任の外にあるものという定義をしている。
欧州委員会のCSRの定義は「企業の社会に与える影響(インパクト)に対する責任」とされ、1:企業の所有者/株主、ステークホルダーと社会の共有価値(シェアード・バリュー)の創造を最大化する。2:起こりうる不都合な影響を同定、回避、緩和する――という2側面が求められている。
ISO26000では、ネガティブな側面への対応が中心だが、やはり、両側面が言及されている。少なくとも2010年以降のCSRは、企業行動に伴う社会に対するネガティブな側面への対応とポジティブな価値の増大の2側面を含んでいると理解するのが正確である。すなわち、CSVはCSRの一部だという事である。
従って、「CSRからCSV」という言い方を用いると、「CSR=慈善寄付と思っている」と見られるだけでなく、「CSRの重要側面であるビジネスのネガティブな社会的影響への対応をしないという宣言」と解釈される可能性すらあるのだ。
もちろん、CSVを積極的に導入しようとする企業は、そのように解釈されるのを望んでいる訳ではないと思うので、多様なステークホルダーの視線を気にするならば、表現には注意が必要である。
企業不祥事の歴史は繰り返される
しかし、残念ながら、本当に企業のネガティブな影響の側面を忘れているかのような事例が相次いでいる。虚偽表示、反社会的勢力との関係、消費者や利用者の安全軽視など、連日のように企業の経営陣が謝罪を行っている。
2000年前後には同様の企業不祥事が多発し、その結果、2003年の日本のCSR元年に発展。約10年の時を経て、また同様な事が繰り返されているのはなぜだろうか。
現在は、内部告発も日常茶飯事、ステークホルダーの期待レベルが非常に高まっているのも事実である。しかし、10年前とは違い、今回謝罪しているような企業を含め、今や少なくともCSRの文字がウェブサイトにない大手企業はほとんどない状況下で、これは非常に残念なことである。
それぞれ、企業によって背景は違うだろう。だが、悪意がなかったとしても、「十分なコストをかけなかった」「組織的な理由によって、取り組みが進まなかった」「優先順位が低かった」「ルールがあるのに守られなかった」など、やはり「利益を優先するが故の無責任の結末」と言われても仕方がないだろう。
いずれも、第三者の目線を入れ、経営者が真剣になれば克服できないものはないのである。
CSVブームに浮かれる前に、10年前の原点に立ち戻り、CSRの基本であるネガティブ側面にきちんと取り組めているのかを問い直すタイミングが来ているのかもしれない。
(冨田 秀実/LRQAジャパン 経営企画・マーケティンググループ統括部長=この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」から転載しました)冨田秀実氏の連載は毎月発行のCSR担当者向けのニュースレター「CSRmonthly」でお読みいただけます。
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