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寄稿:CPO(最高購買責任者)がいない日本企業

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阪急阪神ホテルズ

阪急阪神ホテルズの食品偽表示問題は、他に多くのホテルやレストランなどに波及した。今後もその余波は続くだろう。なぜこの種の不祥事は後を絶たないのだろうか。特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会の上原修理事長に寄稿頂いた。

歴史ある有名ホテルで思わぬ不祥事が続発している。私はかねてから「サプライチェーン」の重要性を唱えてきたが、これは企業倫理に関わる重大な問題でもある。

あるホテルの従業員は、上司から『原価を落とせ。コスト削減が第一』が至上命令だったと証言した。

他の従業員は「客から見えないところで、こそこそ隠蔽しようとする姿勢が腹立たしい。自分はこんなところで仕事をしていたのかと思った」と話した。


■食品表示偽装を食い止めるための3点

社員のモラルハザードは著しいとしか思えない。この事件から企業経営者、または社内倫理責任者、リスク管理者は何を教訓として得ることができるだろうか。筆者は次の3点を提示したい。
1)経営者はサプライチェーンを洗い直し、自分で把握すること
2)BCP(ビジネス・コンティニュイティ・プランニング)と同様に、供給源をしっかり把握すること
3)従業員教育に投資すること

これら3点は、今まで行われてこなかった歴史の裏返しだ。事業継続、顧客満足、社会的責任が経営の神髄、経営者の義務であるとするならば、社長がサプライチェーンを軽視すると企業がつぶれ、従業員が路頭に迷うことを再考してほしい。

仕入れ調達の基本はQCD(Quality-Cost-Delivery)だ。食材などの原材料を仕入れる時は品質が第一で、納期も第一、そしてコストは第二である。全てが第一であるべきだが順序を付けるとすれば品質を強調したい。

それは最終的に顧客に大きく影響するからだ。同ホテルは前述したように全社員が最終顧客に向いていないことが判明した。どうせ分からないだろう、という意識は脅威であり、また驚異でもある。


■CPOがいない日本企業

同じホテルチェーンでも、外資のヒルトン、マリオットなどには、れっきとしたCPO(最高購買責任者)が存在する。

数年前、世界最高峰の購買調達の学会であるInstitute for Supply Management (ISM)の会長は、ヒルトン・ワールドワイド専務執行役員兼CPOのA S. ニーブス氏だった。

彼は世界中のヒルトンホテルの食材と飲料の仕入れを監視するため世界中を飛び回っており、文字通りグローバルソーシングを実践している。

ヒルトンは現在、90カ国以上で4千軒以上のホテルを運営しているコングロマリットであるが、ブランド維持には毎年相当な額の投資をしている。

そして、その筆頭の位置にあるのが同氏でありサプライチェーン部門である。即ち同社ではサプライチェーン経営が適切に実践されておりヒルトンという世界に冠たるブランドが維持されている。この点は日系企業も見習うべきであろう。


■ブランドを大切にする仕入れ担当

このCPOという職位は、日本企業に多くあるところの「購買調達管掌役員」と大きく異なる。

つまり、CPOは購買サプライチェーンのプロであり、且つ経営者であることだ。顧客満足に配慮できる仕入れ責任者であるため入ってくる原料の品質に最大の責任を持つ。原価意識を越えて企業イメージやブランドを大切にする仕入れ担当でもある。

欧米ではCPOとCFOが社内で競争することが多い。競争という表現は当てはまらないかも知れないが、原材料・資材はCPOの責任で原価・収益管理はCFOの責任と明確に区分している。

もちろん両者は互いに協力し、牽制しあう。従って、経営者という立場上、最終顧客への配慮や対応は厳しいものがあり、実にしっかりしている。


■サプライチェーン全体の最適化を

CPOは現場の担当者への教育を欠かさない。現場が勝手にやった、または現場の認識が甘かった、現場の商品知識がなかった、ということはCPOが全責任を負うべきもので、それによって企業イメージが崩壊し倒産や破産に追い込まれれば経営者失格ということになる。

企業経営者いわゆるCEOたる者はどの製造業であろうとも仕入れ原料の源泉、仕入れ元、またチェーンの流れには最大の注意を払うことだ。日本のホテルも経営者の立場から仕入れを含むサプライチェーン全体の最適化を図ることが企業経営と顧客満足につながることを肝に銘ずるべきだろう。

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