水リスク対応を進める欧州企業――下田屋毅の欧州CSR最前線(36)
の下田屋毅氏
「企業の水リスク2014」が1月にロンドンで開催された。筆者は昨年の会議にも参加したが、今回の会議では、引き続き企業の関心は高く、そしてNGOからのプレッシャーも強くなってきており、企業のより具体的な水リスクに関する取り組みがなされていることを感じるものだった。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)
議長兼進行役で、ウォーター・スチュワードシップ同盟、北米地域イニシアティブコーディネーターのリサ・W・ダウンズ氏は次の点をポイントとして挙げた。
1)水の環境影響に対するリスクと機会に基づいて、意味のある、実践的な目標を設定すること
2)サステナビリティは、慈善事業のようなものではなく、企業の事業運営に組み込まれるべきものだ
3)水使用の効率化は、とても重要なベースラインだが、ウォーター・スチュワードシップのアプローチは、より包括的に水のリスクについて軽減するものである
4)社内外のステークホルダーとの協働が鍵となる。
■水の情報開示の重要性の高まり
英国NGOカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)は、2010年から水の情報開示を企業に求め、「水資源」「水リスク」「水使用」に関する調査を実施してきた。CDPは、2013年には世界1,036社(内日本企業21社)を対象に水の情報開示を求め、593社が回答、前年比59%増となっている。
CDP水部門トップのケイト・ラム氏は、「企業と投資家は一緒になって、水がもたらす世界的な課題に、効率的に、そして迅速に取り組む必要がある」と話す。
また、「2014年は水の情報開示の質問状を改訂予定で、日本とインドについて対象企業を拡大、2015年は、中国、ラテンアメリカ、ヨーロッパにおいて強化していく」とのこと。
CDPの水プログラムへの投資家の署名数は530で、この3年間で4倍となり、投資家からの水リスクへの関心が高まってきていることを表している。署名をした投資家資産は57兆米ドル(5700兆円)にも上る。
世界自然保護基金UK(WWF-UK)の水部門トップのクレア・ブレムリー氏は、水リスクに関して、「水リスクは、企業、政府、そしてNGOとで共有されるもので、協調した行動が必要。水の消費の効率を改善するだけでは水リスクを軽減するのに十分ではない。また、集水域内の他のステークホルダーとのエンゲージメントが必要であり、これらを達成するのに多くのツールやガイドラインが役立つ」としている。
また、投資家からの水の情報開示の要求も今後さらに高まるとしている。
■企業の水リスクへの取り組み
英国とオーストラリアに本拠をおく多国籍の鉱業・資源グループである「リオ・ティント」は、40カ国において鉱山や工場などを操業している。リオ・ティントは、自社の事業所がある世界の各地域の水のリスクについて特定、「水マネジメント」は採掘・加工や事業所運営に不可欠として積極的に投資をしている。
水リスクは地域で異なるため、「水の制約」「水の余剰」「生態系への影響」の設定をそれぞれ実施、またリオ・ティントの水へのアプローチは、次の3つで構成されている。
1)水に関するパフォーマンスの改善
2)水資源価値の会計数値化
3)水に関するステークホルダーのエンゲージメント
リオ・ティントの環境・エネルギー・気候変動に関するグローバル・プラクティス・リーダーであるマシュー・ベイトソン氏は、「水に関するターゲットを2008年~2013年の間、製品のトン当たり淡水使用量6%削減を目標に掲げたが、3.6%削減にとどまった。この教訓を踏まえ、地域の特性をより考えた、リスクベース、定量測定、監査可能なパフォーマンスを含んだ新たな水の目標を立てていく」と話す。
ユニリーバUK行動科学部長のリチャード・L・ライト博士は、同社のCSR行動計画であるサステナブル・リビングプランを推進する上での研究の一環として、水使用に関する人間の行動について研究を発表した。
シャワーの水の使用に関する消費者の行動を測定、消費者に持続可能性と成長についての意識を生みだし、行動測定の為の洞察、評価、提案を消費者に対して実施していくとし、消費者を巻き込んで水に対するリスクに対応する目標を達成しようとしている。
英国TUIトラベル社は、2015年までの3年間の「サステナブル・ホリデー・プラン」を発表している。
これは、「目的地」「カーボン」「同僚」「顧客」の4つに分類、それぞれにサステナビリティを織り込んだコミットメントをしている。この中で、提携ホテルに対するサステナビリティ教育を実施し、環境ISOなどの認証取得を促進、宿泊客の1泊当たりのエネルギー使用(24キロワット)と水の消費(400リットル)の目標を立てて推進を促している。
水資源の確保は世界の地域によっては今後より難しくなる。事業所・工場、サプライチェーン上での水リスクの管理戦略が必要となってきており、欧米の企業は、水資源に関わる活動を事業戦略上不可欠のこととしてNGOそして競合他社であっても協調行動を始めている。世界は水リスクに対応するために動き始めているのだ。
下田屋毅(しもたや・たけし):
在ロンドンCSRコンサルタント。大手重工業会社に勤務、工場管理部で人事・総務・教育・安全衛生などに携わる。新規環境ビジネス事業の立上げを経験後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本のCSRの懸け橋となるべくCSRコンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。
「志」のソーシャル・ビジネス・マガジン「オルタナ」

「環境とCSRと志のビジネス情報誌」。CSR、LOHAS的なもの、環境保護やエコロジーなど、サステナビリティ(持続可能性)を希求する社会全般の動きを中心に、キャリア・ファッション・カルチャー・インテリアなど、幅広い分野にわたり情報発信を行う。
雑誌の他、CSR担当者とCSR経営者のためのニュースレーター「CSRmonthly」も発行。CSRの研究者や実務担当者など、約20名による最新情報を届けている。
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