ラナ・プラザの惨事から1年、そして、これから
アパレル産業はバングラデシュの経済に重要な役割を果たしている。過去20年間で220億ドルビジネスに成長し、バングラデシュの輸出利益の80%近くを担っているのだ。
縫製業は400万人の雇用を創出し、若い世代で活気づき、その大半は女性だ。縫製業の雇用はバングラデシュの貧困解消と女性の経済力増強に大きく役立ってきた。しかし、同時に、ほぼ規制が整備されない状態で成長したため、劣悪で搾取的な労働環境を導くことにもなった。
先週で史上最悪の産業災害から1年経ったことになる。バングラデシュのラナ・プラザ工場の崩壊は1,100人の死者と2,500人の負傷者を出した。この惨事で、私たちの衣服がどう生産されているのか、その恐ろしい実態が明らかになった。
賠償は問題の一部に過ぎない
バングラデシュの工場で発生する悲劇は珍しくなく、企業社会や政府のリーダーからはほぼ無視されてきたが、不幸にもラナ・プラザの事故が業界を揺るがすことになった。この1年で縫製業に関するいくつかの方策がとられ、衛生や安全基準を満たしてないとして閉鎖に追い込まれた工場もいくつかある。新法が可決され、労働者の組合結成が可能になり、月額の最低賃金は38ドルから68ドルにほぼ倍増し、工場の安全性改善に向けた合意も進んだ。こうした確実な進歩もみられ、補償額の頭金として平均額150ドルが事故の被害者や死者の家族に支払われたが、いまだに被害者やその家族は苦闘を続けている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、1年経った今も事故の被害者やその家族は生活に窮しているという。その多くは手足を失ったり、精神的トラウマを追い、収入源も失い、極貧に陥りかけている。
崩壊した建物にあった縫製工場を利用していた国際企業は国際労働機関が支援する被害者向けの信託基金にも、いまだに充分な貢献をしていない。これまでのところ、誓約された4千万米ドル中、集まったのは1,500万ドルのみだ。その1,500万ドルのうち800万ドルはプリマーク社による献金で、事故現場の残骸から自社商品が発見されたにもかかわらず、中には1セントも払っていない企業もある。そうしたブランド企業には世界の団体から、事故の被害者を救援するよう、また、今後、類似の事故が起きたときに、再び被害者や犠牲者の家族が負債や高額の医療費に苦しまなくてすむように、補償制度を検討するようにといった請願書が送られている。
しかし賠償は問題の一部に過ぎない。今年の初めに、バングラデシュ衣料製造輸出業者協会(BGMEA)は工場の40%以上がいまだに最低賃金規制を満たしておらず、殆どの工場は労働組合の結成を許可していない、と報告している。工場が安全性改善合意に調印したとしても、一時的な安全性改善しか、検査されていない。多くの工場所有者には改善の資金がなく、財政損失を防ぐために必要な投資を行おうとしない。また検査リストに載っていない他の工場に下請けに出し始めた工場も多い。つまり、サプライ・チェーンの底辺では危険なやり方がまかり通りやすいということだ。
こうしたことから、透明性と説明責任制度を改善し、人権擁護に向けた責任を理解し果たすことへの企業責任も重大になっている。国連のビジネスと人権に関する指導原則によれば、企業には「その事業に直接的につながる人権侵害を予防または軽減」し、人権侵害が起きた場合には是正措置をとる責任がある。国連グローバル・コンパクトは企業に対し、国際人権擁護基準に従い、持続可能で社会責任のある事業を行うよう奨励している。
サプライチェーンの管理を産業の持続可能性へつなげる
企業にとってこうしたことはどういう意味を持つのか。企業はすべてのサプライ・チェーンの業務が国際行動規範と国際人権擁護基準を満たすよう監視するための、より厳しい管理制度を確立しなければならない、ということだ。そうした制度は信頼に足るもので、透明で、定期的に第三者認証機関の認証を受けなければならない。企業には、これまでのやり方を改めるという確約が求められている。企業はまた企業力を梃として、必要とあればプレッシャーをかけ、政府や国際団体やその他のステークホルダーとも協力して、現行のような不正な状況を変えるために努力しなければならない。
縫製業はバングラデシュにとって主要産業で、経済成長やとくに女性の雇用に大きく寄与してきた。事故から1年、まだ課題は多いが、安価で使い捨てのファッションのつけは大きいという痛ましい注意喚起になった。また、アパレル産業にとっては、サプライ・チェーンの追跡調査、透明性の改善、危険の軽減に責任をもち、今後こうした悲劇を繰り返さないようにすることが重要だ、という気づきをもたらす警告となった。ラナ・プラザの悲劇で明らかになったのは、すべての主要なステークホルダーが集まり、縫製業の改革に向けて対話を持つことの必要性だ。それは労働環境の改善と経済成長だけでなく、同産業の長期的な持続可能性改善にも役立つことになるだろう。
by Aparna Venkatachalam
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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