持続可能性の基準を満たしていないタイの不動産開発
タイでは、首都バンコクのみならず国全体が不動産開発ブームで、高層ビル、住宅の分譲、リゾート開発等が次々と進められている。不動産業はタイ経済にとって重要で、SET100指数の25%(2014年の1月から6月)は不動産開発と建設が占めている。あるリサーチによれば、広域経済は国内政治の混乱の悪影響を受けているが、2015年のASEAN経済圏の開始によって不動産業はかなりの恩恵を受けるとみられている。人が居住し、働く場所を建設するこの業界は、直接・間接的に数千万人を雇用しており、タイ社会の形成に大きな役割を果たしている。しかし不動産業界のリーダー達はその責任を認識し、環境に配慮し社会的にインクルーシブな国を創造する努力をしているのだろうか?
我々は、SET100指数に上場している25社の不動産会社から持続可能性に関する公開情報を分析し、どのような取組みを行っているかを調査しようとしたが、サステナビリティ・レポートを公表しているのはその内2社のみだった。他の企業はタイ証券取引所の上場条件を満たし、年次報告で持続可能性に関する企業方針に関して最低限の情報開示しかしていない。タイの不動産・建設会社の主要な持続可能性に関する課題への取組み状況は次の通りだ。
コーポレート・ガバナンス
証券取引所で以前から義務づけられていたため、タイの上場企業は概してガバナンス関連情報は開示しており、SET 100の大手不動産会社25社についても同様だ。しかし、ほとんどの報告は企業方針や手続きだけを公開するのみで、実際にコーポレート・ガバナンスの好事例などは提示していない。
環境パフォーマンス
環境へのフットプリントが大きい業界であるにもかかわらず、不動産会社の大半は環境実績の基本的なデータも開示していない。カーボン排出、エネルギーと水の消費、廃棄物に関して詳細に報告している企業は2社のみだ。その他の企業は環境問題を単に認識しているだけで、その実績や取組みに関しては最低限な情報しか公開していない。
グリーン建築
タイではグリーン建築運動は始まったばかりだ。2013年12月時点では、タイではLEED(エネルギーと環境デザイン・米国グリーン建築基準)とTREES(エネルギー・環境持続可能性に関するタイの評価基準)認定のグリーンな建物は22軒のみだ。大手不動産会社25社中のほんの数社しかグリーン建築の評価基準達成を目指していないことを考慮すると、この傾向はすぐに変わりそうもない。
労働慣行
タイの建設プロジェクトは第三者の契約会社が組織している外国人労働者に大きく依存しており、労働者の法的立場、労働条件、公正賃金、適切な居住環境、その他の人権侵害といった困難な問題が生じている。25社中、外国人労働者に関する報告を行っている企業は1社もなく、業界全体として、労働慣行の水準引き揚げに果たす役割を認識していないようだ。外国人労働者の待遇についての契約会社への条件を報告しているのは1社のみだ。ほとんどの企業は自社のオフィス勤務の社員についての報告しかしておらず、サプライ・チェーンにおける労働という、不動産業で最もマテリアルな問題のひとつについて対応しようとしていない。職場の健康や安全については、驚いたことに、最低限の言及か、未報告に留まっているのが現状だ。
地域社会に関する実績
タイの不動産開発会社は、地域コミュニティでのフィランソロピー活動について詳細に報告している。多くの企業は建設が終わった後に子供向けプログラム、教育、植樹、芸術や文化に関するフィランソロピー活動を通じて地域コミュニティへの支援をしている。しかし、こうした活動のほとんどは短期的な単発の活動で、社会的なインパクトは全く測定されていない。地域社会は不動産開発や計画の初期から全く関与しておらず、通常、不動産会社は持続可能性の課題については地域社会と関わりを持たない。さらに、タイの不動産開発会社は年齢や能力にかかわらずインクルーシブな環境創出に重きを置いておらず、ユニバーサル・デザインへの取組みを示す企業は皆無だ。
タイ企業と競合企業との比較
シンガポールや香港といった先進市場の競合企業と比較すると、タイの不動産会社は持続可能性関連リスクの認識、測定と管理の面で遅れをとっている。義務づけられた企業方針の宣言とPR目的のCSR活動以外は、基本的な持続可能性関連データの開示さえしていない。一方、シンガポールや香港の先進不動産開発会社は持続可能性の実績を詳細に開示している。
シンガポールや香港の競合も同様にフィランソロピー活動を行っているが、自社の持続可能性へのインパクトに関する実績では明らかにタイ企業より優れている。シンガポールでは現在、2000件のグリーン・マーク(地元の基準)建築プロジェクトがある。多くの企業は様々な障害をもつ人々にもアクセス可能な建物の建築(ユニバーサル・デザイン)に焦点を置いている。シンガポールでは外国人労働者に対する自社の責任を認識し始める企業も増えてきた。同様に、香港の企業も環境実績を公表し、その多くはグリーン建築を目指している。
単発のCSR活動が中心のタイの不動産開発会社は、持続可能性への取組みが自社のコアビジネスにとってリスク削減やチャンスの獲得という点でいかに重要かということには気づいていない。調査の結果によれば、グリーン建築は、テナントがすばやく確保でき、賃貸料を上げられ、テナントの転出率を減らせ、操業コストと管理費を減らせる、という意味で資産価値改善に役立つ。また、健康と安全の基準を引き上げ、労働者をより公正に扱うことで、将来のリスクと不必要なコストを削減することができるのだ。
投資家は、持続可能性に関する取組みの推進役として重要性が増している。タイで不動産開発向け資本市場が発達し、世界に門戸を開くにあたり、投資家は最大限のリターンを戦略的に求める持続可能な投資をターゲットとするようになるだろう。不動産会社は、これらの投資家の期待に応えられるようにしておかなければならない。
by Sirinut Thanatrakolsri
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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