食料安全保障と漁業
1996年世界食料サミットの定義によると、「食料安全保障は、すべての人が、いかなる時にも、彼らの活動的で健康的な生活のために必要な食生活上のニーズと嗜好に合致した、十分で、安全で、栄養のある食料を物理的にも経済的にも入手可能であるときに達成される。」
魚は世界の食料安全に重要な役割を果たしている。それは安価でタンパク質の良い栄養源であるからだけではなく、数千万単位の人々が漁業で生計を立てているからだ。漁業従事者の90%を占める貧困層にとっては、魚の輸出は、収穫が少ないときや、食料価格が高騰、また供給不足になったときの安全弁になる現金収入源となっている。
2050年には世界の人口は25億人になると予測されるなか、世界の食料保障にとってシーフードの役割はますます明白になってきた。今後10年で魚の需要は8%増加すると予想されており、世界の水産物の85%が乱獲または過剰漁獲されており、供給を持続させるには野生魚の管理が重要である。
乱獲が原因で起こった悲劇として大西洋産のタラのケースがあげられる。1992年にカナダの東部沿岸沖のノーザン・コッド・フィッシャリーでは30年近く大量捕漁獲を続けた後、突然、漁業が崩壊した。技術の先進で漁師がより深く網をはれ、より大量のタラを加工できるようになったので、棲息数が95%も激減したのだ。カナダ政府はタラ漁を禁止したが、棲息数は以前のレベルには戻っていない(上の写真参照)。タラ漁を何世紀も伝統としてきた沿岸地域のコミュニティは一夜にして職を失い、35,000人を超える漁師や加工工場の労働者が職を失った。
1つの地域で特定の魚種を管理することは簡単に思えるが、現実には一般的なシーフードのサプライチェーンは長く、また断片的だ。シーフード大手のパシフィック・アンデスは最近のサステナビリティ・レポートでサプライチェーン全域のトレーサビリティ達成に向けて導入したメカニズムを紹介している。それには毎日の水揚げと副産漁獲物を管理職と地元当局に報告すること、原材料がどの船や養殖場から来たものか追跡調査できるようにサプライヤーに書面記録を求めることなどが含まれる。これにより、違法や規制対象外、未報告で漁獲された魚が生産ラインに入らないようにでき、また魚の棲息数もより正確に監視できる。
持続可能に向けて管理されている野生魚でさえ、魚の需要拡大には追いつけない。2015年までには、食用魚では魚の養殖が漁獲を上回るようになると予測される。養殖にも課題はある。土地、労働力、化学物質、技術の導入と、商品を養殖場から食卓まで運ぶための信頼にたるインフラ・ネットワークも必要だ。資源の持続可能な管理、政策決定と国際協力においては政府の関与も重要だ。
アジア諸国の政府はすでにシーフード養殖産業で十億ドル単位を資本化しているが、生産者の実態と持続可能性における国際基準にはギャップがあり、それが課題になっている。とくに小規模養殖業者は海外のバイヤーが求めるような、厳しい基準を満たすために必要な知識も金銭的な余裕もない。そのため儲けの大きい海外市場進出に関しては、大手漁業者とは太刀打ち出来ないのだ。
エビ産業の環境・社会問題が大きく話題になったことが、持続可能な養殖に向けた対話の糸口となったともいえる。USAIDはアセアン諸国政府と共に、現地の実情や限界と照らし合わせながら、少なくとも地域のエビ養殖者が基本的な国際認定制度、アクアカルチャー・スチュワードシップ・カウンシル(ASC)の基準を満たすようにするためのツールを開発している。
このツールは現在、諮問期間にあり、良い方向に動けば、国際市場に進出したい漁師や、産物の安全性や品質を知りたい輸出業者、また持続可能なシーフードを求める傾向が強まっている消費者にとってもプラスになる。
では、それは一般消費者にとってどんな意味があるのか?それは私たちがどういう選択をするかという問題だ。私たちがある種の魚介類を好めば、海の生態系に多大なる悪影響を与えかねない。たとえば鯖は1970年代中盤までは英国では不人気で汚い雑魚だと思われていた。しかし、今ではその栄養価が評価され、大西洋北部では過剰漁獲の危機にある。残念ながら消費者の私たちはこうした課題からはかけ離れているため、自分たちの選択の結果起こりうることや火急の問題となっている現状に単に気づかずにいる。鯖やタラがスーパーの棚から消えるかもしれないことすら考えてもいない。
高級ホテル・チェーンのシャングリラは穏便に物の見方や好みを変えるアプローチとして、持続可能なシーフードの提供を促進している。特定のシーフード製品の使用を一斉に禁止するとその関係者のビジネスに大きく影響するので、フカヒレといった問題の大きい食材はメニューからはずしたものの、シェフに新鮮な地産素材を使った代わりの素晴らしいメニューを開発させた。VIPや常連、様々なスタッフのチームも関わり、同ホテル・チェーンの影響力をまず理解、評価し、客に受け入れられ、同グループの持続可能性への誓いも満たすような代案を考案した。
パシフック・アンデス、シャングリラ・グループとUSAIDのプロジェクトについては、今年のCSR アジア・サミットで紹介しますので、お見逃しなく!食料保障:シーフードのバリュー・チェーンのパネルディスカッションは9月17日水曜日、午後2時に開催予定です。
by Samantha Woods
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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