企業による教育課題へのコミュニティ投資
CSRアジアは10年以上にわたり、企業が地域社会に関する課題について理解し、戦略をたて、投資効果を高められるよう支援してきた。企業や企業財団は「教育」という社会課題に関心を寄せ続け、従来からさまざまなプログラムを行っている。
しかし、「教育」という広い分野のなかで、企業は地域社会が抱えるニーズをどう評価しているのだろうか。ニーズを把握するために対話すべき相手は誰なのか?教育プログラムが成功しているかを測る要素は何か?教育が企業の支援を必要とする社会的ニーズであることは明らかだが、そのイニシアティブや活動に投じられた巨額の資金が、成果や効果としてきちんと報告されているかを検討する必要があるだろう。
教育への投資:その実態
CSRアジアが2013年に行った「香港、インドネアシア、マレーシアとシンガポールにおける企業のコミュニティ投資に関する調査」によれば、企業が社会貢献やコミュニティ投資へ支出する場合の最優先課題としているのは健康関連教育であった。香港、インドネアシア、マレーシア、シンガポールの各証券取引所に上場する計80社がこの調査の対象である。企業のコミュニティ投資のベストプラクティスを話し合う場となっているCSRアジアのコミュニティ投資に関する円卓会議(CIRT)においても教育分野を重視している。
ユネスコとの提携でヴァーキー財団が行った調査によれば、2013年度のフォーチュン・グローバル500の中に入るインド、日本、中国、韓国の企業は、そのCSR予算の平均20%を教育に投資しているという。その額は2011年から2013年の間で2億8900万ドルに及ぶ。企業のコミュニティ投資の効果測定の世界基準であるLBGによれば、2014年にはその会員企業の企業コミュニティ投資の8つの重点分野の中で教育は2番目に人気が高かった。

アジアでは企業財団系による社会貢献支出のうち、教育分野はもっとも主眼がおかれている。教育は人々と地域社会を貧困から救う最も持続可能な戦略であり、生活の質全般を向上することにつながるという信条が、企業が教育へ社会貢献を投じる主な動機となっている。
教育への投資:最近の動向
企業は技能格差の解消に向けた職業訓練や雇用に通じる技能開発へのコミュニティ投資に力を入れ始めている。たとえばICT企業は、業界で雇用可能な人材開発に向けたカリキュラム改善や技術トレーニングの提供に投資している。開発途上国で事業を行う多くの企業にとっては、地元の人材のスキルを向上させることで労働力が増加するため、明らかに有益となるコミュニティ投資である。先進国の企業は若い世代の失業問題に取り組む傾向が見られ、技術面とソフト面でのスキル習得が雇用につながるようなコミュニティ投資を行っている。教育機関では提供されにくい「雇用に適したスキル」の習得につながる職業訓練も、人材拡大となるので企業にとって有益だ。
雇用可能な人材開発への投資は企業にとっても地域社会にとっても意義があり、多くの企業は研修の受講者数といったプログラムの成果を数量的に出すことができる一方で、受講者が実際に雇用されたのか、または企業にとって採用コストの節約になったのかといった情報まで測定している企業は少ない。また、社員がこうした人材開発研修に関わる場合もあるが、社員に「技術的なスキル」があるからといって、受講者に本当に役立つような「指導のためのスキル」を兼ね備えているかといった点に関しては疑問が残る。こうした点いついても4月にシンガポールで開催するコミュニティ投資フォーラムで議論する予定だ。
教育に対する企業投資に関するフォーラム
シンガポール国立ボランティア&フィランソロピー・センター(NVPC)の協力により、CSRアジアはコミュニティを支援する企業間の連携作りを目指す「コミュニティ投資フォーラム(CIフォーラム)」を毎年開催している。教育分野への関心が高く巨額の資金も投資されていることから、2015年度の「CIフォーラム:教育への投資」では、「すべての企業は教育に投資すべきか、だとすれば企業が専門知識とヒト・カネ・モノの経営資源のうち、最も効果的に投資できるのは教育のどの側面か」といった疑問について議論する。たとえば、企業が提携すべきパートナーとはどういう組織か?教育活動の支援を決定する前に企業が必要とする予備知識は何か?企業による教育へのコミュニティ投資は、教育に良い影響を与え、成功してきたのか?などの疑問について議論する予定だ。
教育への支援の幅は広く、奨学金を通して教育課題に取り組む企業もある一方、教育の中でも別のニーズに着目し、違う方法で対処する企業もある。公教育の支援のために連携する企業もあれば、公教育以外に関わる企業もある。このCIフォーラムでは教育の特定の側面にはフォカースせず、企業にとって教育関連のコミュニティ投資に取り組む意義を明確化し、投資効果を測定し報告できるようにするためのツール、過程とアプローチを参加者に提示する。
CIフォーラムでは、そもそも企業は教育にコミュニティ投資すべか、という議論からスタートする。質の高い教育を提供できる専門知識をそもそも企業は有しているのか?企業による自主的な取り組みの結果、政府が公教育を提供しないでいいという言い逃れを招くのではというリスクを指摘する声がある。しかし一方で、アジアの多くの国々の政府は、教育という基本的権利ですら提供できないことがあるのも現実であるため、企業の支援が必要である、という見方もある。フォーラムの目的は、教育分野で、大きな効果を生むような資源を効果的に投入したい多様な組織同士での議論を刺激することだ。
これまでCIフォーラムでは「パートナーシップ」(2014年)と「効果の測定」(2013年)をテーマにしてきたが、今年のCIフォーラムでは効果測定に基づく良質な教育プログラムと、教育における官民連携について議論する予定だ。教育プログラムの効果の測定のセッションでは社会的投資収益率(SROI)を測る事例も紹介する。教育における現状打破には公共セクターとの連携が必要であることから、最終セッションでは教育の機会創出から質の改善までを支援する協働アプローチについて検討する。
コミュニティ投資フォーラム(CIフォーラム):毎年シンガポールで開催されるコミュニティ投資に関するフォーラムで、今年のテーマは「教育へのコミュニティ投資」。2015年4月27日に開催予定。その後、SROI認定ネッワーク・トレーナーによる2日間のSROIトレーニングが開催される。
詳細は http://www.csr-asia.com/ciforum2015/index.php
by Zheng Ying Chong
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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