サプライチェーンにおける森林破壊ゼロ ――新たなアプローチ
ここ数年、森林破壊に終止符を打つ機運が非常に高まっている。子どものバービー人形は「森林破壊ゼロ」のパッケージを使用し、皆さんお気に入りのクリスピー・クリーム・ドーナツとダンキン・ドーナツは森林破壊ゼロの取り組み強化を打ち出している。浴室では、トラやオランウータンの生息地破壊に気をもむことなく、オールド・スパイス・デオドラントやダヴのボディウォッシュを気兼ねなく使うことができる。これまで懐疑的だったNGOが、企業の取り組みを評価するようになっている。2015年6月、ツイッターのトレンドにハッシュタグ付きで掲載された#Nutellagateに関して、グリーンピースはパーム油製品の不買運動を呼びかけたフランス閣僚に対して公式に訂正し (Greenpeace publicly corrected a French Minister)、ソーシャルメディアで人気商品のヘーゼルナッツスプレッドを擁護した。パーム油業界が一次産品生産者の中で主導権を握り、大手の生産・取引企業であるカーギル社やウィルマー社 Cargill and Wilmarが先導し、多数の小規模生産者が追随する形となっている。直近では過去に物議を醸したファースト・リソーシズが7月に森林破壊ゼロ方針を打ち出し(became the latest palm oil producer to commit to a zero deforestation policy)、他社も森林破壊および泥炭地開発禁止の方針策定の最終段階にあると報じられている。パーム油業界以外では、製紙パルプ業が対策に乗り出している。2012年にアジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP社)は画期的なコミットメントを発表し、さらに2015年6月にはエイプリル社も続いた(APRIL joined the fray)。
企業に対して明確な方針を策定するよう根気強く働きかけてきた活動家にとり明るいニュースである。しかし企業にとっては方針の真価が問われる正念場であり、違法で無責任な製品が自社の複雑なサプライチェーンに紛れ込むことがないよう確実にする必要がある。
注目を集める手法の一つに高炭素蓄積(HCS)アプローチHigh Carbon Stock (HCS) Approachが挙げられる。これは森林破壊ゼロに向けた取り組みを実務的かつコスト効率よく推進させる必要性に応えるべく、2011-201年に策定された。本アプローチは、生態学的に生育可能な自然林保全のため、温室効果ガス排出の防止と生物多様性保全を組み合わせた画期的な取り組みである。土地利用計画ツールであり、荒廃地を特定した上で、法的要件を満たし、コミュニティから自由意志による、事前の、十分な情報に基づいた合意を取り付けた場合に限り、パーム油、紙・パルプやゴムのプランテーションを広げることを可能としている。科学的根拠に基づく手法で植生を階層に分類(層化)するHCSアプローチは、「森林」についての大まかな定義や保全地区を特定する際の不備といった問題点に対処している。
企業は、HCS手法を実践するための技術的ガイダンスを提供するHCSアプローチ・ツールキットを活用することができる。専門家はキットを活用してHCS評価を独自に行うことが可能となり、さらに「HCV(保護価値の高い)評価」や「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく合意原則」という他のツールと統合させ、森林地域でのプランテーション利用を可能とする一体化した土地利用計画を立てることができる。簡単なツールを活用することで、専門家はまず衛星画像と実地調査によりHCS森林を特定し、植生を分類した上で最終的な保全および土地利用マップを作成する。
2015年3月に導入されたHCSアプローチ・ツールキットは、インドネシアおよびパプアニューギニア、リベリアにおけるパーム油と紙・パルプの試験農園でテストされてきた。マース、ネスレ、コルゲート・パーモリーヴ、ユニリーバといった様々な消費財メーカは、各社の責任ある調達方針の中でHCS手法に言及している。その手法およびツールキットを堅実に実践すべく、一連の品質保証要件が策定されつつある。この中には報告書・マップの透明性確保、独立した専門家による審査や第三者評価が盛り込まれることになる。
森林を特定・分類するツールと同じく重要なのは、コミットメントの遵守と進捗状況を監視し、不備がある場合に警告を発することである。グローバル・フォレスト・ウォッチ(GFW) Global Forest Watch (GFW)は、こうした情報を提供する双方向のオンライン森林監視・警告システムである。GFWは最新の技術と科学を駆使し、世界各地の森林の状況に関するタイムリーかつ正確な情報を提供し、ほぼリアルタイムの警告が森林伐採の起きた危険性のある地点を示している。GFWは無料で簡単に利用でき、だれでも適宜カスタマイズができ、森林動向の分析、警告システムへの登録、地元エリアもしくは世界全体のデータのダウンロードが可能である。さらに利用者は、GFWのクラウドソーシング・ツール、ブログ、ディスカッショングループを通し、現場のデータや状況をインプットすることもできる。特別な「アプリケーション」により、サプライチェーンにおける森林破壊リスクの削減を目指す企業や、東南アジア全域の森林火災を監視したいユーザー等は詳細な情報を活用することができる。
GFWはデータ・技術・資金と専門知識を提供する組織により構成される、発展途上のパートナーシップであり、世界資源研究所(WRI)により召集されている。
10月7-8日にクアラルンプールで開催されるCSRアジア・サミット2015のセッション「サプライチェーンにおける森林破壊を止めることはできるか?」の中で、HCSアプローチおよびグローバル・フォレスト・ウォッチについて発表・討議される予定である。
by Rikke Netterstrom
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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