GRIスタンダード:サステナビリティ報告で外せない必須情報
2016年10月19日、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)は完成が待たれた世界初のサステナビリティ報告書の新たなガイドライン「GRIスタンダード」を発表した。GRIの独立基準設定機関であるグローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)がGRIスタンダードの策定に取りかかったのは2015年11月で、完成には一年近くを要することになった。現行のG4ガイドラインに取って代わるGRIスタンダードへの切り替え期限は2018年7月1日である。
現在のところサステナビリティ報告において、G4ガイドラインが世界中で最も広く、数千にのぼる報告機関により活用されている。つまり2018年7月1日の期限に向け、今後2~3回の報告書発行を通して、すべての機関がGRIスタンダードへの切り替えを図るということである。多くの質問が出ることは避けられないだろう。
GRIスタンダードへの移行理由とは
G4ガイドラインからGRIスタンダードへの移行は、サステナビリティ報告が成熟したことを裏付けると共に、強制的な報告規制の導入という変化に対応する必要性から生じている。ガイドラインという形では助言や勧告と受け止められ、曖昧さを残す一方、規制当局の多くはスタンダードという形で参考資料として活用できる原則や基準の導入を求めている。
G4ガイドラインからGRIスタンダードへの移行により、モジュラー型アプローチに基づく情報の開示、情報開示の必須要件(Requirements)の明示、さらに推奨事項である勧告(Recommendations)とガイダンス(Guidance)の区分を図り、より明確なパート別構成による報告フレームワークが導入されることになる。
GRIはサステナビリティ報告および非財務情報開示に活用できる、世界的に共通な用語の提供も目指している。現在GRIのG4ガイドラインを活用している企業は世界で4,000社を超えている。このためGRIは、地域ごとに規制当局や証券取引所などが課すサステナビリティ報告要件に抵触しない国際的基準の設定を手がけるには適任である。
G4ガイドランからの変更点とは
新たなGRIスタンダードには多くの変更点が盛り込まれているが、これはG4からG5への移行を意図して訳ではないとGRIは明言している。新たなスタンダードは報告内容をはっきり区分し、違った報告形式を取るが、その原則はG4と同じものである。
報告書作成にあたる実務者の多くは、GRIスタンダードがモジュール化という新たな体裁で構成されていることに気づくだろう。まずは全報告機関に適用される一般基準100シリーズの3冊である。GRI報告原則は1冊目のGRI 101 “Foundation”の中に含まれている。G4ガイドラインのGeneral Standard Disclosuresは、新たにGRI 102 の中に”General Disclosures”という名称で盛り込まれている。さらにG4ガイドラインでは特定基準であったDisclosures of Management Approach(DMAs)は、GRIスタンダードでは一般基準に移され、GRI 103 “Management Approach”となっている。
G4ガイドライン同様、報告機関はそれぞれがマテリアルである(重要性が高い)と特定したトピックについても報告を行う。G4ガイドラインではSpecific Standard Disclosuresとして参照されていたが、新たなスタンダードでは3つのシリーズに分類される33のトピック別基準が設定されている。
- 経済的(200)シリーズ – G4の経済カテゴリーの側面に加え、腐敗防止と反競争的行為を含む。
- 環境(300)シリーズ – G4の環境カテゴリーの側面をほとんど含む。
- 社会的(400)シリーズ – G4の社会カテゴリーの側面をほとんど含む。G4のサブカテゴリーは除外され、経済的シリーズを簡略化し、ここに網羅している。
変更点は報告の体裁や方式にとどまらず、以下のように多岐にわたる。
■用語の変更 :例えば”Indicator(指標)”は”Disclosure(開示情報)”に取って代わられた。他にも”Aspect(側面)”は使われず”Topic(トピック)”への変更など複数にわたる。
■定義づけの更新 :定義づけの更新の最も明確な例として”Employees”と”Workers”が挙げられる。国際労働機関(ILO)が採用する定義など、国際条約との統一を図るべく修正された。GRIスタンダード全般を通し使われているこの2語は、変更を経て明確に区分されている。
■参照システムの変更 :GRIスタンダードのモジュール型シリーズに適合するよう、開示情報の番号を全てつけ替えた。これによりスタンダードからのスケールアップを図り、新規の情報を付け加え、必要に応じて特定の情報を修正することが可能となる。つまり、報告書自体の再発行を免れつつ、内容を最新のものに更新し、ベストプラクティスを反映することができるのだ。この新たな参照システムは、デジタル報告の進歩にも大きな意味を持つ。
■開示情報の表現の変更 :G4ガイドラインのindicatorsの半数近くが、GRIスタンダードの中では何らかの形で修正されている。変更のうち、「開示情報特性の明確化」を含む23点は「Minor clarification(マイナーな明確化)」と分類されているが、大部分の変更(計42点)は、報告要件に影響を与える規模の改訂が行われたことを意味する「Revised disclosure(改訂版開示情報)」とされている。
■編集 :G4ガイドラインの見直し作業では、より良い構成と重複を避けるため、G4のindicatorsのいくつかが入れ替えや、統合、中止された。特筆すべき変更点として、苦情対応に関連するG4のindicatorsすべてがガイドラインではGRI 103 “Management Approach”基準に盛り込まれている。さらにG4ガイドラインでは社会的サブカテゴリーに含まれていた腐敗防止および反競争的行為がGRIスタンダードでは経済的シリーズのGRI 205とGRI 206になり、G4の環境カテゴリーにあった2つのindicators(輸送・移動の中のEN27および環境全般の中の EN30)が重複を避けるために中止された。
最後に注記すべき変更点として、GRIスタンダードに基づく報告では、10業種の 「セクター別開示項目」はもはや必須要件ではない が、ガイダンスとして引き続き活用することが望まれている。
GRIスタンダードでの新たな取組み
全く新たな取組みではないが、G4ガイドラインの中で誤った解釈が散見された言葉について、GRIスタンダードではより明確な解釈を示している。中でもインパクトの意味およびGRIスタンダードの適用外となるマテリアルな課題に関する報告方法について明確化している。
- インパクトとは、組織が経済・環境・社会にどのように影響を及ぼすかであり、組織への影響には着目しない。
- すべてのマテリアルな課題を報告する必要がある。GRIスタンダードに基づく開示に適さない場合、報告機関は他の国際的基準を適用して報告すべきである。
GRIスタンダードに移行することで、報告機関には新たな参照オプションが増えることになる。G4ガイドラインでは中核(Core)もしくは包括(Comprehensive)の「準拠方法」を選ぶことができたが、GRIスタンダードでは特定の基準のみが適用される場合には「GRI参照」という新たな選択肢が加わった。ステークホルダーからは、オプションを増やすことで、サステナビリティ報告の内容が曖昧になるとの懸念も寄せられたが、GRIの意図するところは教育的演習として活用することである。現在、GRI報告機関の三分の一がG4ガイドラインを正しく適用していないため、「GRI参照」の選択肢を導入することで企業の情報開示の精度を高め、中核の開示への働きかけを目指している。
最後に追加事項として、GRIスタンダードを活用した場合、GRIへの通知を求めている。報告書の中で、GRIスタンダードの参照を明記している場合には、GRI側に報告書のコピーを提出するか、GRI 101-3.4に準じて報告書を登録し、通知する必要がある。
ガイドラインからスタンダードへの移行により認定や監査対象となるのか
GRIスタンダードは認定基準となることを目指していない。GRIはスタンダードにISO(国際標準化機構)型モデルを適用していないが、国際的な優良事例には監査を勧めている。状況に応じて今後GRIが監査基準を承認することはあるが、GRIは自ら監査基準を設定したり、報告書を検証したりする機関ではないとしている。
GRIスタンダードへのスムーズな移行を手助けするリソースとは
GRIスタンダードはGRIのサイトから無料でダウンロードできる(ここにアクセス here)。
GRIスタンダードへの移行をスムーズにするため、GRIサイトには複数の資料が掲載されている。これにはG4からの変更点を詳述した資料やウェビナーなどが含まれている(ダウンロードはここにアクセスhere)。
さらに2016年10月から2017年5月にかけて、GRIスタンダードの発表イベントが世界中で企画されている。アジアではGRIがパートナーである富士ゼロックスと協働し、2016年11月21日にシンガポールで、さらに11月24日には香港でイベントを開催した。香港でのイベントにはCSRアジアのシニア・プロジェクト・マネージャーであるサマンサ・ウッズがパネリストとして登壇し、インパクト測定およびサステナビリティ報告を通して持続可能な開発目標(SDGs)を推し進めていくことについて協議した。詳細やSDGsに関するご質問、サステナビリティ戦略や報告とリンクさせる方法についてはサマンサ・ウッズ(swoods@csr-asia.com)までお問合せ下さい。
CSRアジアは、サステナビリティにフォーカスした、アジアで最も経験の長いシンクタンクの一つである。さまざまな専門性を持つスタッフがGRIや各国証券取引所、業界団体、さらに戦略的ビジネス価値につながる報告プロセスの策定を目指す企業との協働を図っている。サステナビリティ報告のコンサルティング業務と同時に、アジア全域で今後数か月にわたりレポーティングに関するイベントを展開する予定である。
本記事の内容へのご質問や詳細はアンジェラ・フルシャム angela.foulsham@csr-asia.com まで。
【GRI関連調査報告】
執筆:アンジェラ・フルシャム
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
CSRアジア
CSRアジアは、国内外でCSR、サステナビリティ戦略の普及・推進事業を行っている企業、組織と連携し、持続可能な社会の実現を目指しています。企業の社会的責任(CSR)における各種コンサルティング、リサーチ、研修等を通じ、持続可能なビジネスを実現できるよう支援しています。
CSRアジアのホームページはこちら
- ガイドライン解説 [CSRレポートトレンド]
- アワード・ランキング紹介 [CSRレポートトレンド]
- CSR調査データ [CSRレポートトレンド]
- 調査用サイト紹介 [CSRレポートベンチマーク]
- 物価上昇への対応 大企業から波及させていくために [Global CSR Topics]
- CO2
- CSR
- CSRレポート
- CSR革新室
- ESG
- EU
- GRI
- IIRC
- SDGs
- YUIDEAセミナー
- アメリカ
- カーボンニュートラル
- サステナビリティ
- サステナビリティレポート
- サプライチェーン
- サーキュラーエコノミー
- セミナー
- セミナー開催
- ダイバーシティ
- プラスチック
- プレスリリース
- マテリアリティ
- リサイクル
- 中国
- 人権
- 再生可能エネルギー
- 取材記事
- 太陽光発電
- 情報開示
- 投資家
- 新型コロナウイルス
- 日本
- 東日本大震災
- 株式会社YUIDEA(旧:株式会社シータス&ゼネラルプレス)
- 気候変動
- 海外CSR
- 温室効果ガス
- 環境省
- 生物多様性
- 社会貢献活動
- 経済産業省
- 統合報告
- 統合報告書
- 自然エネルギー
- 電気自動車