グリーンファイナンスを通して持続可能な開発目標に貢献する
国連は17の持続可能な開発目標(SDGs)を策定し、国際的な協調態勢のもと2030年までに持続可能な開発と貧困撲滅、気候変動への取組みの推進を目指している。気候変動ファイナンスおよびグリーンファイナンスは、低炭素で気候変動に強靭なインフラへの融資において大きな役割を担っている。加えて金融市場は企業によるイノベーションを支援することで、SDGsの達成により大きな貢献を果たすことが求められている。
グリーンボンド運用の追跡
グリーンボンド(グリーン債)市場は対前年比で約90%の急成長を遂げている(下図参照)。この急成長と投資家の関心に後押しされ、グリーンボンドの運用実績を追跡するツールを求める声が高まっている。

特に機関投資家を中心に関心が高まる一方、グリーンボンドの種類について知識格差が生まれ、リスクと運用について明確なデータが揃わない状況となった。このためグリーンボンド市場を正確にベンチマークするインデックスが必要とされ、資産クラス別のリスクとリターンを明確に評価することも求められた。これに応え、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスは、グリーンボンド全般を網羅する指数を策定した。S&Pグリーンボンド・インデックスにはトムソン・ロイターもしくは気候債券イニシアチブ(CBI)がグリーンであると選定した債券が含まれている。
グリーンボンドはさまざまな手法による指数を勘案している。特記すべきは、国際機関が持続可能な企業の株式市場の実績にリンクした債券を発行し始めた点である。
世界銀行が開発の優先分野推進に向け債権を発行
今週、世界銀行2は国連のSDGsが掲げる開発の優先分野を推進する企業の実績にリターンを直結させた初の債券を発行した。
フランスとイタリアでは機関投資家がこの株価指数連動型債券に総額1.63億ユーロを投じた。世銀は調達した資金を活用し、極度の貧困撲滅と繁栄の共有に向けたプロジェクトを支援し、SDGsが掲げる目標と足並みを揃えていく。
債券の投資利益率は、ドイツの指数提供会社SolactiveによるSDGsワールド・インデックス(Solactive Sustainable Development Goals World Index.)にリストアップされている企業の株価実績と連動している。Solactiveが提供するこの新たな株価指数を活用することで、投資家はSDGsの推進に大きく寄与している企業を把握することができる3。このインデックスには、事業の少なくとも20%を持続可能な製品に割いているか、もしくは業界内で率先して社会・環境問題に取り組んでいると認識されている50社が名を連ねている。
50社の中には香港最大の鉄道事業者である香港鉄路公司(MTR)がある。同社も2016年に6億米ドル規模のグリーンボンド(10年債券)の発行を始めた。調達した資金は、地下鉄の線路や省エネ型照明、水・廃棄物の管理、グリーンな駅ビルなど、多岐にわたる持続可能なプロジェクトに充てられた。
グリーンファイナンスによるチャンス拡大を狙う香港
世銀のグリーンボンド発行は香港政府にとり検討材料となるだろう。香港証券取引所は、上場企業のうちCSRで実績をあげている企業から成るハンセン・サステナビリティ指数を導入している。S&P500グリーンボンド・インデックスと同様、2016年のハンセン・サステナビリティ指数の運用成績は総合指数を下回り(アンダーパフォーム)振るわなかったが、2017年に入り、リターンは上向いている。
香港政府は世銀の例に倣い、香港政府として、特定の環境プロジェクトとリンクしたグリーンボンドを発行する可能性もある。ブラックロックやステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、アリアンツ・グローバル・インベスターズなど、主要な機関投資家が債券発行を上回る資金を揃えグリーンボンドの発行に乗り出していることを考えと、香港政府がリターンでハンセン・サステナビリティ指数にリンクしたグリーンボンドを発行する可能性がある。
これにより公的資金に頼らず、環境プロジェクトの策定とSDGs達成のための資金を比較的安く確保することができる。実際に2017年度予算を発表した際、香港政府は資本市場の競争力を高め、金融業界に対してグリーンファイナンスで広がるチャンスを検討するよう働きかけて行くとした。
G20サミットも自発的な選択肢の展開を提唱
さらにハンセン・サステナビリティ指数を構成している企業の関心を高めることもできる。同指数の役割が増すにつれ、より多くの投資家がフォローすると同時に、環境面での取組みを強化してサステナビリティ指数への参画を目指す企業が増えることになる。さらに香港政府がグリーンボンドを発行することで、これまでMTRやリンク・リートを例外として、香港にある民間企業には新たな取組みであるグリーンボンドの発行を促進することができる。
昨年、杭州で開催されたG20サミットで、各国首脳は気候変動問題の解決と持続可能な開発にはグリーンファイナンスが非常に重要であるとの認識を共有した。サミットではグリーンファイナン事業の促進に向け、明確な戦略的政策のシグナルおよび枠組みの提供を含む自発的な選択肢の展開を提唱した。ハンセン・サステナビリティ指数の活用を皮切りに、香港政府がグリーンファイナンスを推進していく土俵は整っているのだ。
1. https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-01-20/green-bond-giant-awakened-by-countries-spending-to-save-climate
2. http://treasury.worldbank.org/cmd/htm/World-Bank-Launches-Financial-Instrument-to-Expand-Funding-for-Sustainable-Development.html
3. http://www.bnpparibas.jp/en/2016/10/07/new-sustainable-development-goals-index/
執筆:ユギータ・バレイサイテ
CSRアジア週刊ニュース日本語翻訳版
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