Global CSR Topics

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ポストコロナのまちづくりを小さく実験。バルセロナの「タクティカル・アーバニズム」

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コロナウイルスの感染拡大により、多くの国と地域で外出規制が敷かれてきた。感染者の増加ペースが落ち着き始めたヨーロッパをはじめとする地域では、規制が緩和され始め、感染拡大を防ぎながら市民の移動と経済活動を再開する新たな段階に入りつつある。

アメリカ、ロシアに次ぐ世界で3番目に感染者数の多い(※1)スペインでは、3月中旬から外出規制が敷かれていたが、5月に入り段階的に規制緩和が始まった。自治体ごとに感染状況を確認しながら、「フェーズ0」から「フェーズ3」の4段階で緩和を行う計画だ。例えば、フェーズ0では飲食店はテイクアウトとデリバリーのみ認められるが、フェーズ1ではテラス席全体の50%まで集客が認められる。「テーブル間隔を2メートル以上空ける」「メニュー表は使いまわさない」「テーブルは都度消毒する」といった衛生管理が求められ、事業者達が営業再開に向け準備を進めている。

新たな日常に向けた取り組みは、街レベルでも始まった。筆者の住むバルセロナでは、「タクティカル・アーバニズム(urbanismo táctico)」と呼ばれる方法で都市環境を見直そうとしている。タクティカル・アーバニズムとは、大規模な都市開発の前に行われる、小規模・低予算・短期的な街づくりのアプローチだ。計画・実行・検証のサイクルを短期間で繰り返し(”learning by doing”)、長期的な都市課題の解決に活かす、実験的なプロジェクトとして位置づけられている。都市環境が理由で感染が拡大するようなことがないように、現在バルセロナ市が取り組んでいる事例を今回はご紹介したい。

ペイントとブロックで歩道と自転車専用レーンを増設

4月下旬、バルセロナ市は、外出規制緩和後に人々がソーシャルディスタンスを保ちながら移動できるよう、車道の一部を歩行者と自転車の専用レーンに切り替える計画を発表した。この計画により、公共バスの17路線が見直され、街全体で約12キロメートルが車道から歩道に、約21キロメートルが自転車専用レーンに変わり、面積としては合計で約3万平方メートルが、歩行者と自転車のための新しい道路として生まれ変わる。

主な対象は、ディアゴナル通り(Avenida Diagonal)、グランビア通り(Gran Via)といった中心部の主要な通りに加え、繁華街のアシャンプラ地区(Eixample)や商店の並ぶライエタナ通り(Via Laietana)など、人が多く集まり、2車線以上の車道があるエリアだ。
新たに歩道を設置することで、歩道は約4メートルの幅が確保され、スペイン政府が推奨する2メートル以上のソーシャルディスタンスを保ちやすい設計だ。また、車線が1車線に変更された通りでは自動車の制限速度が時速30キロに見直され、歩行者の安全にも配慮されている。

車道から歩道への切り替えは、ペイントの塗装やブロックやフェンスの設置で対応している。大々的な工事を行わず簡易的な手法を取ることにより、感染状況と人の動き、プロジェクトの効果を見ながら、柔軟に道路の切り替えを行うためだ。プロジェクトへの投資は440万ユーロ(約5億円)とされている。

自転車シェアリングの推進

自転車専用レーンの拡張とあわせて取り組まれているのが、公共の自転車シェアリングのサイクルポート増設だ。バルセロナ市は新たにサイクルポートを57か所設置し、合計で市内のポートは97か所となった。

利用時は、「マスクと使い捨て手袋を着用する」「感染者、もしくは感染の疑いがある場合は利用を控える」といった注意事項を守るよう求められる。また、市の清掃スタッフにより定期的にサイクルポートと自転車の殺菌消毒処理が行われ、清掃スタッフにはマスクや手袋といった保護具が支給される。

自転車シェアリングが推奨される背景には、感染予防と大気汚染改善の二点がある。外出規制緩和後、移動中の感染予防の観点から、人が密集しやすいバスや電車などの公共交通機関ではなく自家用乗用車での移動を望む声も上がっている。しかし自動車の交通量が増えると、市が現在取り組んでいる歩行者・自転車向けの新しい専用レーンの維持が難しくなる恐れがある。また、外出規制中に改善された都市環境の維持を望む声も多い。

スペインの環境団体の発表によると、外出規制下では自動車の交通量が減少し、スペイン都市部では大気中の二酸化窒素量が55%減少、バルセロナ市内の低排出ゾーン(排出ガス基準を満たさない車両の乗入禁止区間、La zona de bajas emisiones (ZBE))では77%減少したという。公共の自転車シェアリングは、個人スペースを確保できるうえ、環境にも優しい移動手段だ。「自動車の交通量を増やさない」ことで、市民の感染予防と歩行者の安全、そして温室効果ガス排出量の削減にも繋がると期待されている。

市民団体からの声

外出規制の緩和に先立ち、環境団体や飲食店組合らは、歩道の拡張や飲食店による公共スペースの利用許可を市に要請していた。こういった声を反映しながら市は街づくりを進めており、既に一部のエリアで歩道の拡張が始まっている。その一方で、市の取り組みは「十分でない」と指摘する声も環境団体からあがっている。

「車道を歩道に切り替える取り組みは、都市の感染拡大を防ぐために必要だ。しかし、対象が一部の道路に限定されており、市全体での効果は限定的だ」
「人の多い交差点で密集を回避するよう信号システムを見直すなど新しい取り組みも必要だ」
「市内の少し離れたエリアへも自転車で移動できるよう、自転車専用レーンをさらに充実させる必要がある」

などの指摘だ。こういった声を聞きながら今後も街づくりを進めると期待される。

まとめ

筆者の住むエリアでも歩道拡張プロジェクトが行われている。実際に歩いてみると、従来の歩道と比べてソーシャルディスタンスを保ちながら安心して歩くことができる。大規模な工事ではなくペイントやブロックで対応する点も、見栄えは華やかではないが、感染状況を見ながら柔軟に街づくりを行う上では必要だ。一方で、プロジェクト対象外のエリアでは歩行者の密度は上がりやすく、また飲食店もテラス席を再開しにくいのではないかと感じた。今後はより広いエリアにプロジェクトを展開することも求められるだろう。

小さく始めて大きく発展させる「タクティカル・アーバニズム」のアプローチ。移動の安全、経済活動の支援、都市環境の改善など様々な課題の解決を目指す、新たな日常のための街づくりが始まった。

※1 2020年5月20日時点

【参照サイト】タクティカル・アーバニズム(urbanismo táctico)

2020/5/21
IDEAS FOR GOOD
[原文はこちら]

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