海外BtoC企業に学ぶ、ステークホルダーから共感される開示
ここ数年ESG評価がこれまで以上に重視されるようになり、国内でも非財務情報の開示に力を入れる企業がますます増えてきています。投資家や評価機関の要請やGRIなどのスタンダードを踏まえ、多岐に亘る項目について詳細な情報を取りまとめるのは多大な労力が必要ですが、そうすることにより評価が向上するのであれば取り組まざるを得ない、といった企業が多いのではないかと思います。
一方で、ESG評価を意識するあまり、すべての要素をとにかく開示するようになり、評価は向上しても、果たしてその開示が他のステークホルダーのニーズも満たせているのか、ステークホルダー別の開示が必要なのか…など試行錯誤されている担当者の方も多いのではないでしょうか。
今回は、専門家以外のステークホルダー、特に、消費者との距離が近い消費財、食品の分野における海外のBtoC企業の開示から、専門家以外のステークホルダーからのニーズを踏まえた開示について見てみたいと思います。
パーム油の事例
消費財、食品の分野で消費者からの関心が高い項目としてまず挙げられるのが、原材料。その中でも、パーム油は森林破壊や生物多様性とのつながりから、消費者の意識が向けられやすい項目です。そうした項目について、海外のBtoC企業は、どの商品に、どの程度含まれているのか、そもそもどのような目的から使われているのか、あくまで消費者目線で日々の暮らしや消費活動と結び付けられるよう開示を工夫しています。
ユニリーバでは、パーム油産業を取り巻くさまざまな背景について、なぜパーム油がこれまでさまざまな用途に使用されてきたのか、また、環境への悪影響を認識していながら、なぜ使用をやめないのか、といった消費者の疑問に応える形で、自社の考え方を丁寧に解説しています。
用途:
-食品の風味や食感をよくするための食用油として
-美容製品や洗剤の安定剤、起泡剤として
特徴:
-パーム油は他の植物性油脂に比べ、ヘクタール当たりの生産効率が高い
-比較的少ないエネルギー、農薬で生産することができるため、インドネシア、マレーシアなどの生産国では多くの小規模農家がパーム油生産で生計を立てている
ユニリーバがパーム油を使用する理由:
パーム油は他の植物性油脂を作り出す農作物よりも生産効率が高く、仮にヒマワリ油や大豆油など他の植物性油脂を同じ量だけ生産しようとすると、より多くの土地が必要になり、結果的に、より深刻な環境負荷をもたらすことになってしまう。
以上の理由から、ユニリーバではさまざまな商品にパーム油を使用しており、今後も長期的に使用していくためにはパーム油産業を持続可能なものに変革していく必要がある、という自社の考え方を示しています。
ロレアルでも同様に、どういった目的から自社の製品にパーム油を使用しているか、また何が問題となっているかを明記しています。
その上で、商品包装の原材料表示ではどのような名称で表示されているのかを開示し、消費者自身が判断できるようにしています。
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「商品にパーム油が使用されているか確認するためには、包装に記載されている原材料に “Elaeis Guineensis Oil”(ギニアアブラヤシ)が含まれているかご確認ください。」
プラスチックの事例
続いて、原材料と同様に消費財、食品分野で急速に関心が高まっているプラスチックについての開示を見ていきたいと思います。
2025年までに包装材に使用するバージンプラスチックの使用を3分の1に減らし、持続可能な代替素材に切り替えるという目標を打ち出しているネスレでは、”そもそもなぜ包装材にプラスチックを使用しているのか”といった消費者の質問に回答する形式で説明をしています。食品ロス削減にも役立っているなど、プラスチックが持つさまざまな側面を解説した上で、それでもサステナビリティを追求するためにはプラスチック削減が必要であるという認識や、削減のアプローチについて説明しています。
また、2030年までに包装材で使用するバージンプラスチックの使用半減を打ち出したP&Gでは、商品カテゴリーごとに現在の使用量に対する削減効果(パーセンテージ)を示しています。また、視覚的に見せることで、専門家以外のステークホルダーにとっても取り組み全体における進捗状況や、具体的なイメージを把握しやすいよう工夫しています。消費者は商品を選択する際の判断基準として活用することができます。
P&Gでは消費者向けのアニメーションも作成していますが、ここでも”洗剤を1回使用するごとに何%削減”など消費者が実感しやすい削減効果を示すことで、消費者は現状を踏まえた上で、自身が選択した消費活動により環境負荷低減に貢献することができる、といった意識を改めて持つことができるでしょう。そこには、包み隠すことなく、消費者と一体となってプラスチック削減に真正面から向き合おうとしている姿勢が見られます。

上記で紹介した企業はいずれも消費者から近い業界といった共通点がありますが、各企業の開示は、型にはまったものではなく、項目も、見せ方も企業によってさまざまです。それにもかかわらず、どの開示も自社よがりになっておらず、あくまでステークホルダー目線を貫いているため、”共感される開示”になっています。
自社にとって重要なステークホルダーを特定し、そうした人々が必要としている情報を的確にキャッチした上で、さまざまな社会課題が持つ複合的な側面を丁寧に説明する。消費者を含む多様なステークホルダーが事実や全体像を正確に把握できるような開示を目指す姿勢が、信頼性を高めています。
こうした開示は、必ずしもESG専門家向けの開示と媒体が区別されているわけではありません。しかしながら、自社や業界にとって求められていることに誠実に応えていく開示は、結果として、評価機関からトップクラスの評価を受けています。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)
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Sustainability Frontline [原文はこちら]
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