Global CSR Topics

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「循環経済ビジョン2020」から紐解く、日本のサーキュラーエコノミーのこれから。経済産業省インタビュー

経済産業省は2020年5月、サーキュラーエコノミーへの移行に際して今後日本が進むべき方向性についてまとめた「循環経済ビジョン2020」を公表した。同ビジョンには、海外の最新のサーキュラーエコノミー動向を踏まえたうえで、約20年前に同省が策定した循環経済ビジョンとの違いや、循環経済の実現に向けて今後日本が重点的に取り組むべきテーマなどについてまとめられている。

2050年脱炭素社会の実現に向けて循環経済への移行は欠かせないテーマの一つであり、その意味でも循環経済ビジョンの実現に向けた現状の課題や今後の政策的な方向性を正しく理解しておくことには価値がある。今回、同ビジョンをとりまとめた経済産業省の産業技術環境局資源循環経済課長の横手広樹氏に、ビジョン策定の背景や詳細、今後の展開について詳しくお話を伺った。

循環経済ビジョン2020とは?

循環経済ビジョン2020とは、経済産業省(以下、経産省)が取りまとめた、今後の日本の循環経済への移行に向けたビジョンだ。「環境活動としての3R」から、「経済活動としての循環経済」への転換を図るための方向性を示したものとして位置づけられている。同ビジョン策定に向け、2018年7月から「循環経済ビジョン研究会」で議論が重ねられ、2020年5月22日に発表された。

政府内でも循環経済は重要な政策の柱として位置づけられ始めている。経済産業省が毎年公表している重点政策「経済産業政策の重点」の令和3年度版には、「デジタル」「グリーン」「健康・医療」「レジリエンス」の4つが重点取組として挙げられているが、そのうちの「グリーン」には、脱炭素と資源循環政策が入っている。横手氏は、「循環経済が重点政策に位置づけられるようになったのは大きな第一歩」と話す。今後、同ビジョンは大きな方向性を示すものとして機能し、例えば資源戦略などの各個別戦略に「埋め込まれる」ことになるだろう。

循環経済ビジョン策定をめぐる背景

循環経済ビジョンは、1999年に「1999年循環経済ビジョン」として制定され、今回21年ぶりに「循環経済ビジョン2020」として新たに策定された。1999年当時と今回のビジョン策定をめぐる背景について、ビジョンに記載されている事項から下記に整理しておきたい。

1999年循環経済ビジョン策定前後の状況

この21年で国内外の環境・経済・社会の状況は大きく変化した。1999年当時は、最終処分場の残余年数(一般廃棄物8.5年、産業廃棄物3.0年)の逼迫や地球規模化する環境問題、大量消費社会の資源枯渇問題等の課題から対策が迫られていた。その結果、1R(リサイクル)に頼っていた当時の局所的政策を、3R(リデュース・リユース・リサイクル)という総合的な政策への転換を示したことが、1999年循環経済ビジョンの大きな特徴である。

その後に制定された各リサイクル法を通じて3Rに取り組んできた結果、廃棄物量の削減や回収・リサイクル率が大きく前進。当時の喫緊の課題であった最終処分場残余年数の問題も改善した。現在、循環利用率一つとってみても、欧州の11.7%(2017年/Eurostat(2019) Circular material use rateより)に対して日本は15.4%(2016年/環境省(2019)令和元年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書より)となっており、欧州よりも高いことが分かる。さらに日本では回収・リサイクル率においても高い実績を誇る。例えば、PETボトルの回収率は93%、欧州では57.5%(PETボトルリサイクル推進協議会「日米欧のリサイクル状況比較」より)と欧州よりも突出して高い。サーキュラーエコノミーは日本よりも欧州のほうが進んでいるという認識を持つ人も多いが、数値を客観的に見てみると必ずしもそうではない。

横手氏は、このような数字を客観的に捉えて政策立案をするべきだと考える。例えば、サーキュラーエコノミーの議論のなかで、欧州を中心に導入が進むDRS(デポジット・リターン・スキーム)の国内導入を訴える議論もあるが、このような回収率などの数字を客観視して、導入の必要性の有無を冷静に判断する必要があると訴える。

循環経済ビジョン2020策定をめぐる背景

現在の状況は、上述した1999年循環経済ビジョン時と大きく異なる。2050年の世界人口は97億人に到達する見込み(現在77億人)であること、世界の資源採掘量が2015年の880億トンから2060年には2倍以上(1900億トン)へ増加すること、各国の資源循環規制の強化など、多数のネガティブ要因が存在感を増してきた。「あらゆる資源が今後足りなくなってくる」と横手氏が懸念するように、従来のリニア型経済モデルはすでに限界に達している。

他方、ポジティブ要因として挙げられるのは、後述するデジタル技術の発展やESG投資の拡大、消費者や投資家の環境配慮要請の高まりだ。横手氏も、「企業に対してコミットメントを求める民間主導の動きが影響力を持ってきています。これらは、一部の企業にとどまらない大きな動きに拡大しているのではないでしょうか。情報化社会の現在、これらの民間主導の動きは無視できなくなっています」と話す。環境配慮意識の高まりは、これからの社会の構造を変えていく力を持っているということだろう。

また、ビジョンには直接書かれていないが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う社会構造の変化も機会やリスクになる。

このように、ポジティブ・ネガティブ双方の要因から、1999年当時よりも持続可能な社会を構築するために方向性が新たに必要となっていた。このような背景のなかで循環経済ビジョン2020は策定された。横手氏は、「循環経済は、地球温暖化に次ぐ新しい環境課題と位置づけられ、さらに日本の強みのある分野でもある」と述べる。これまで3Rのトップランナーとして走ってきた日本の環境技術をサーキュラーエコノミーの土台に載せることで、世界経済において日本の中長期的な競争力の強化につなげたいという意図を持つ。

循環経済ビジョン2020の3つの大きな軸

同ビジョンの3つの大きな軸に触れておきたい。

1. 経済活動としての循環経済への転換(3Rから循環経済へ)

ビジョン本文でも横手氏もしきりに強調するのが、「『環境活動としての3R』から『経済活動としての循環経済』への転換」という言葉だ。3Rの延長線上ではなく、設計や仕組みづくりにアプローチし、廃棄物が出ないようにするサーキュラーエコノミー。これを国全体として推し進めていくことが同ビジョンの主な目的だ。


政府が示した循環経済概念図(循環経済ジョン2020(概要)経済産業省より)

「リニアモデル+リサイクルがこれまでのモデルだったことに対して、あらゆる経済活動において資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、機能やサービス化を通じて、付加価値の最大化を図るというモデルに転換しなければなりません。すなわち、モノの消費を抑え、サービス化にシフトしていくということです」と横手氏は話す。さらに、「サービス化を、一つのビジネスチャンス・稼ぐ手段として位置づける」ことで、競争力強化を図るとしている。

企業においては、「CSR部門や環境関連部署だけで捉えるのではなく、企業全体の問題意識として認識されることが重要です。結果的に、それは企業自体の持続可能性につながるものです」と横手氏は指摘する。

2.ソフトローによる企業の自主的取組の促進

「規制的手法ではなく、企業の取り組みを後押しする政策に取り組んでいきます」と話す横手氏。気候変動へのアプローチと同様に、循環経済を実現するためには様々な分野に取り組む必要があり、個別分野の規制を強化することは非現実的だ。世界に目を転じると、各国の規制や固有の市場動向が存在し、国内のみの規制を独自に強化することは、市場が縮小あるいはガラパゴス化することにもなりかねないと横手氏は考える。そのため、「規制的手法は最小限に、ソフトローを活用する」(同ビジョンより)方針だ。例えば、環境配慮設計を促進するガイダンスやサーキュラーエコノミー移行に向けた投資ガイダンス(後述)、ナッジの活用など、ソフトローを活用していくとしている。

このときに大切な考えは、「社会の目に頼る」ということだという。「一つひとつの取り組みが十分か不十分かを政府が判断するのではなく、社会の目を機能させて、企業がベストな道を進んでいくことを国が後押していきます。その際に、企業のベストエフォートが対外的に説明されやすい環境をわれわれが整備していくことが大事だと考えます」と横手氏は述べる。

3.レジリエントな循環システムの構築(出口=市場をつくる)

「レジリエンス」が必要となる背景について、同ビジョンでは、2つの大きなポイントを示している。

1つ目は、世界人口増や資源需要の増大により、従来から存在している資源枯渇問題がより深刻になること。2つ目は、アジア各国の廃棄物輸入規制による古紙やプラスチックの余剰は、今後の日本の廃棄物処理に対する考え方を大きく変えるものになるということである。

この2つの問題が示すのは、最適な形で域内の資源循環度を高めなければならないということだ。同ビジョンでは、それを「稼ぐ」手段として位置づけている。国土が限られている日本で、これらの廃棄物をいかに有効な資源として捉えられるかが問われている。つまり、国内および地域内で循環する仕組みがレジリエンス向上の鍵を握る。

そこで国としては、今後循環に向けた製品規格等のアップデート、個別分野(プラスチック・繊維・CFRP・バッテリー・太陽光パネル)の循環システム構築支援、需要が見込まれる素材の再生材市場の創出などを進めていく。

特に再生材市場の構築について、横手氏はこう強調する。「再生材の品質要求についての、動脈・静脈双方のコミュニケーションを円滑化していくことが重要です。再生材はどうしても品質面や供給面でのブレが生じる側面がありますが、どこまでなら許容できるのか、品質要求のどの項目が必須要件なのかが事前に共有されていれば、それを踏まえた対応も可能になります。流動性のある再生材市場を構築していく上で、品質要求に対する共通言語作り等を進めていきます」

同ビジョン本文にも、「『廃棄物処理・資源有効利用』分野の市場は約26%の拡大にとどまり、付加価値を生み出す産業となりきれていない。環境活動として3Rを実施していくことの限界を示しており、我が国の取組を、資源の高度な循環利用を基軸とした環境活動を取り込んだ経済活動、すなわち循環経済へと転換していくべき時が来ている」と示されている。環境政策によって生み出された二次資源を経済活動のなかで位置づけられなければ、踊り場からの脱出は難しいとの認識である。

再生材市場の創出は、結果として域内での循環度を高めることになる。それがレジリエンス性を向上させることにつながるだろう。

循環経済に向けた重要な4つのテーマ

ここでは、同ビジョン内の今後重要となるテーマのうち、特筆すべきものを4つ挙げたい。

1.サーキュラーエコノミー移行に向けた投資ガイダンスの策定

2017年には1件もなかったサーキュラーエコノミー特化型ファンドが、2020年中頃には10ものファンドが登場している。世界の多くの3R関連企業が投資対象として選定されているが、情報開示不足によって日本企業は選ばれていないとの指摘があることを同ビジョンでは課題に挙げている。横手氏も、「日本企業が投資対象として選ばれてもいいのでは」と考える。

そこで中長期的な投資を呼び込むため、サーキュラーエコノミーに特化した投資家・経営者向け情報開示のガイダンス「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を2021年1月19日に公表した。企業の経営理念や価値観およびビジネスモデルそのものが、中長期的な視点で循環型の概念が組み込まれているかどうかを示すガイダンスとなっている。

同ガイダンスは、「リスクと機会」「戦略」「指標と目標」「ガバナンス」「価値観」「ビジネスモデル」の6項目で構成されている。企業に対しては循環経済への取り組みと見える化を推奨し、投資家に対しては対話やエンゲージメントを通して適切な評価・資金供給を促す役割を果たす。「世界初」の政府によるサーキュラーエコノミーに特化した情報開示ガイダンスとして、政府は国内外に発信・普及させていきたい考えだ。

このガイダンス作成の背景には、サーキュラーエコノミーの進捗度合いが定量化されにくいことが挙げられる。横手氏も、「サーキュラーエコノミーは明確に測定されづらいのは事実です。そのため、ある一部分が針小棒大に捉えられることがあります」と話す。そして、「サーキュラーエコノミーはコストではなく、中長期的には機会に転換して、キャッシュフローに変わっていく。そういうストーリーを作ったうえで、指標やリスクを次に示していきたいと考えています」と話す。

2.動脈産業へのメッセージ。それを支えるステークホルダー(静脈産業・投資家・消費者)の役割


循環経済に向けた対応の方向性(循環経済ジョン2020(概要)経済産業省より)

同ビジョンの中心的対象は動脈産業である。横手氏も「同ビジョンは、動脈産業に対するメッセージです」と言い切る。上図のように、動脈産業の循環型モデルへの移行に際して、静脈産業・投資家・消費者がそれを支える構図といっても良いだろう。

動脈産業は、循環型設計・循環型ビジネスモデルを構築していくことが重要となるという。加えて、自主回収の重要性も強調されている。PaaS(製品のサービス化)によるモノの所有権の移行(消費者から事業者へ)や、静脈産業とより密接に連携したリサイクルルート確保のために、自主回収がますます重要になるということだ。「事業者が自主回収をして、資源を再生することを政府は促していかなければなりません」と横手氏は述べる。

静脈産業においては、「リサイクル産業」から資源を再生・供給する「リソーシング産業」に転換していくことが求められているとした。

投資家と消費者は、「社会の目」としての役割がある。即効性のある投資による循環経済への移行や環境配慮型製品の購入において、今後の市場形成の鍵となる投資家や消費者が果たす役割は大きい。

3. 促進剤としてのデジタル化の行き着く先は?

「デジタル化の行き着く先はサーキュラーエコノミーです」と横手氏は話す。デジタル化はサーキュラーエコノミー移行に向けた最大の促進剤となる。

現在進行形のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、「効率性」の観点で語られることが多い。一方、そもそもサーキュラーエコノミーの発展は、「所有から機能」への移行を促進するデジタル化の貢献によるところが大きい。今後、「デジタル」を「循環経済を促進する役割」として積極的に位置づけていくことが重要だ。今後、経産省としても、循環経済への移行に伴うデジタルの役割を整備していくとしている。政策としても、両者の関連付けが期待されるところだ。

4. 脱炭素と循環経済は両輪

脱炭素化と循環経済への移行は、両輪として機能させなければならない。Circular Economy Hubでも度々取り上げてきたが、エレン・マッカーサー財団は、「再生可能エネルギーとエネルギー利用効率化は、全ての温室効果ガス排出のうち55%に対しての取り組みであり、仮にこの55%が解決されたとしても、残りの45%にはアプローチされない」と主張するレポートを2019年9月に発表。同レポートでは、セメント・アルミニウム・鉄・プラスチック・食の5つの分野の循環化に取り組むだけでも上記45%の半分程度にアプローチでき、運輸部門からの排出値に相当する93億トン(CO2換算)の温室効果ガス排出(世界全体の排出量の21%)を削減できるとされている。

この観点から横手氏も「CO2削減に対応する技術の循環も考えておくことが重要です」と指摘。同ビジョンの「循環システムの検討が急がれる分野」において、CFRPやバッテリー、太陽光パネルが入っているのは上記の横手氏のメッセージが込められているのだ。

循環経済ビジョンが意図するもの

循環経済ビジョンは、今後の日本の循環経済に向けた方向性を示す大きなビジョンである。欧州のサーキュラーエコノミーの動きや世界動向を踏まえて、日本としてどの方向に進んでいくかを今一度打ち出し、世界共通の土俵に乗った格好だ。そのうえで、3Rや素材産業・「すり合わせ」によるサプライチェーンとの協働型ビジネスなど、日本の強みを発信し競争力を高めていく意図がある。

2020年3月に発表されたEUの新循環型経済行動計画と異なる点は、規制的手法は最小限にし、ガイダンス等のソフトローを重要視するとしている点である。一方で両者の共通点は、サーキュラーエコノミーを経済として位置づけていることだ。そのため、横手氏も指摘するように、サーキュラーエコノミーを機会として認識する企業が増えていくか否かがポイントとなる。

おわりに

同ビジョン発表後、経産省は各方面からの反応に手応えを感じているそうだ。3Rから一歩進んだ考え方という点も理解を得られつつあるという。今後、同ビジョンの考えのもと、個別政策が打ち出される見込みだ。「すべてを包含する循環経済の概念」(横手氏)を各政策がどのように組み込んでいくか、今後の政策動向に注目したい。

【参照】

【参照資料】資源循環政策の現状と課題

2021/2/1 Circular Economy Hub
[原文はこちら]

    Circular Economy Hub

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