生物多様性がESG投資のメインストリームに TNFDに先駆けた対応を
Responsible Investor(RI)とCredit Suisse社の連携による、生物多様性に対する投資家の考えをとりまとめた報告書Unearthing investor action on biodiversityが公表されました。IUCN、ZSL、The Nature Conservancyのサポートも受けています。
RIは世界の機関投資家に向けたESG関連情報を配信しているメディアであり、機関投資家を中心に9000名以上が登録しています。今回の報告書は、投資家による生物多様性についての関心の高まりを受け、そうした関心を行動に移してもらうため、RIが行った実態調査をとりまとめたものです。
35カ国の327の回答者(うち、53%がアセットオーナー、47%がアセットマネジャー)からの回答をとりまとめたこの報告書では、以下の結果が示されています。
- 84%の回答者は、生物多様性の損失についてとても懸念している
- 55%の回答者は、2年以内に生物多様性損失に取り組まなければならないと感じている
一方で、
- 91%の回答者は、生物多様性に関連する評価指標を持っていない
- 27%の回答者は、生物多様性に全く取組めていない
と回答しています。その障壁として、自然資本に関連するデータや評価指標の不足、内部の専門性の不足、などが挙げられています。
ただし回答者の半数以上は、2030年までに投資家コミュニティにとって、生物多様性は最も重要なトピックの一つになる、と回答していることからも、今後ESG投資のメインストリームになっていくことは間違いないでしょう。
障壁を克服する一つの方法として設立が検討されているのが、自然関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Nature-related Financial Disclosures: TNFD)です。2019 年 1 月の世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)が発端となり、2020 年 1 月のダボス会議でも TNFD 設立に向けたハイレベル・ラウンドテーブルが開催されました。
さらに、新型コロナウイルスの影響を受け、生物多様性の破壊が気候変動だけでなく、こうした人獣共通感染症の引き金になりうる 、といった危機感も強まり、2020年7月には、WWF、UNDP、UNEP FI、森林保護に取り組む英国のシンクタンクGlobal CanopyがTNFDの構想を発表し、英国、スイス、および10の金融機関が、TNFD発足に向けた非公式会合への参加の意思を表明しました。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の事務局もそうした動きを支援しています。TNFDは2021年5月に正式に発足予定であり、今後2年間で詳細をつくりあげていくことになります。
このTNFDはTCFDの構想をもとにしている部分もあり、その自然版として捉えられつつありますが、TCFDが”気候変動がもたらす企業への財務的な影響”についての開示(投資家視点の開示)を主としていたのに対し、TNFDにはさらに”企業による事業活動がもたらす自然への影響、ひいては社会全体にもたらす影響”についても開示(マルチステークホルダー視点の開示)するダブルマテリアリティの視点を取り入れるべき、といった意見も少なからず見受けられます。
TCFDについては、欧州委員会によるガイドラインでも、”財務的な視点からのみ検討されたもの”と記されており、その点については、クライアントのTCFD開示をご支援するなかで、私自身も違和感を持っていた点です。
冒頭の報告書の序文にもあるように、生物多様性は農業や漁業、気候変動の緩和に貢献しており、生物多様性の損失は多くのSDGsの実現を遅らせる可能性があります。つまり、生物多様性は、サステナブルな社会を実現するための大前提となるものです。
生物多様性が破壊されれば、異常気象やパンデミックなどの引き金になる可能性があり、事業の持続性だけでなく、食や健康など、マルチステークホルダーにネガティブなインパクトが及びます。そのため生物多様性については、TCFDに沿った開示でよく見られる“調達先の変更”などの投資家向けの視点だけでは事業の持続性は保障できず、マルチステークホルダーの視点からも事業による影響を示す必要があるのです。生物多様性と気候変動は表裏一体であることを鑑みると、TNFDはTCFDに不足していた視点を補完し、自然環境を、より大きな視点で捉えていく指標になりそうです。
しかしながら、自然破壊に由来するさまざまな危機が差し迫り、投資家の関心も急速に高まりつつあるなか、TNFDが完成する2年後を待ってから行動するのでは遅すぎます。企業は今、TNFDに先駆け、サステナビリティの大前提である生物多様性に向き合い、次世代にも価値を提供し続けることができるよう、自社の存在意義やマテリアリティを見直すタイミングに来ています。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)
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Sustainability Frontline [原文はこちら]
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