脱炭素と生物多様性、統合に向けた動きは金融界にも
G7サミットの直前の6月4日に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が正式に発足し、ここ数か月でESGにおける生物多様性に関する動きが加速化しています。
TCFDの次はTNFD?気候変動の次は生物多様性?と日本の企業からは戸惑いの声も聞こえてきますが、この二つの関係性については、グローバルでの議論をしっかり把握しておく必要があると感じています。
今年10月に中国・昆明で開催されるCBD-COP15(生物多様性条約締約国会議)および11月に英国・グラスゴーで開催されるCOP26(国連気候変動枠組条約締約国会議)に先立ち、さまざまな国際会議が開催されています。
特に注目したいのが、最近よく目にする”自然ポジティブ(Nature Positive)”という言葉。Nature positive economy、Nature positive businessのように使われ、これまでは自然とは関連性があまりないように思われていた経済やビジネスを、自然にポジティブな影響をもたらすものに変えていこう、という意味合いで使われます。WBCSDのブログでも、ビジネスとの関わりとともに解説がされています。そして、このNature Positive、最近、頻繁に脱炭素・気候変動などと組み合わせて使われるのを、皆さんも目にされているかと思います。上記のG7気候・環境大臣会合のコミュニケでも、”We will help set the world on a nature positive and climate-resilient pathway…”と、Nature PositiveがClimate-resirient(気候変動による影響から回復力のある)と一緒に使われています。
感染症の急拡大は、人間の活動による生物多様性の破壊と関連があるという見解が強まる中、気候変動だけでなく生物多様性についても配慮していかなければならない、という認識がグローバルで高まっているのです。2020年12月には、これまでで初めて気候変動と生物多様性の二つの政府間科学-政策プラットフォームが合同でワークショップを実施しています。こうした脱炭素・気候変動と生物多様性・自然をセットで検討する流れは世界の金融界にも及びつつあります。
G7気候・環境大臣会合後の5月27日に、金融機関による生物多様性のためのファイナンス協定(Finance for Business:F4B)が発行したレポートThe Climate-Nature Nexus: Implications for the Financial Sectorでは、気候変動と生物多様性両立の必要性が強調されており、投資先企業のリスクと機会を気候変動と自然を統合した視点から検討するよう金融機関に促しています。
つまり、いくらネットゼロを目指して電気自動車の開発にいそしんでいても、そこに自然ネガティブなプロセスがあるのであれば、金融機関はその投資先企業をスクリーニングする必要があるし、関連する情報を開示するよう企業に要求するべき、ということです。
また、このレポートの提言では、TNFDが脱炭素と自然に関する動きの統合を加速化する可能性についても触れています。TCFDの枠組み作りに関わったさまざまなアクターがTNFDの枠組み、指標づくりをサポートしているところを見ると、近い将来、TCFDとTNFDが統合される可能性も視野に入れておいた方がよいかもしれません。
6月16日には世界銀行も、機関投資家による気候変動に関するイニシアチブClimate Action 100+に生物多様性の視点を補うイニシアチブとして、Nature Action 100の発足を検討していることを発表しています。
こうした動きを見ていると、脱炭素と生物多様性は表裏一体であるにも関わらず、見落とされがちであった生物多様性の視点が、いよいよ世界の資金の流れに取り込まれていくところにまで来たのだ、と感じます。これから、投資家の間でも脱炭素・気候変動と自然統合に向けた理解が急速に広まっていくでしょう。
日本企業のなかには、どうしても生物多様性とビジネスの相関についてイメージしづらい、という方も多いかと思います。しかし、こうした国際的な流れをしっかり理解できるかどうかで、数年後に大きな差が出てくるでしょう。これまで進めてきた脱炭素に向けた取り組みを、自然ネガティブになっていないか、もう一度見直す必要性も出てくるかもしれません。
世界の資金の流れが今後どのような方向に向かおうとしているのかイメージする力、そしてその流れに上手く乗りながら、ビジネスを創造していく力が、日本企業にも求められています。
(岡山奈央/調査分析プロジェクトマネジャー)
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Sustainability Frontline [原文はこちら]
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