アラベスク:火の目
※本記事は、ESG評価機関アラベスクによる寄稿を、和訳しご提供しています。
2021年7月2日、海は燃えていました。 正確に状況を記しますと、メキシコの国営石油会社ぺメックス(Pemex)の石油掘削パイプラインにおけるガス漏れにより、メキシコ湾で火が燃え上がり、消火に5時間以上かかりました。 この災害による環境への影響は甚大にもかかわらず、メディア報道はかなり限定的でした。ニュースは主にインターネットのもの、ミーム(画像や動画の拡散)、ソーシャルメディアを通じてのみでした。
英BP社の2010年のディープウォーター・ホライズンのメキシコ湾原油流出事故を覚えていますか? では、今回とは何が違うのでしょうか?
確かに、英BP社、米エクソン社、または英蘭シェル社が今回の事故に関与していたならば、様々なニュースの見出しが考えられます。株主は独立した調査委員会の設置を要求し、ESGスコアは低下し、経営陣はメディアの取材攻勢に直面します。
しかし、今回は異なる様子を見せています。ぺメックスは国営企業で、そのニュースはかなり異なったものでした。 メキシコの石油安全規制当局「ASEA」は、火災は「石油の流出を引き起こさなかった」と主張したのです。これは、海水が燃えている映像から考えると奇妙な説明です…。
ぺメックス社は、他の多くの国営企業と同様に、法に問われることの無いカードを手にしたようです。しかし、国営というカードがあることで、国営企業は事故の説明責任やステークホルダーからの説明要求から逃れることができるのでしょうか?
国営企業の事業が世界的なサステナビリティの活動に大きな影響を与えることを考えると、同社が責任を回避することは難しそうです。
データは何を語っているのでしょう?
国営企業の経営は政治的動機や汚職が絡み、しばしばガバナンスが弱いという考えがありますが、入手可能なデータから分析すると異なる実態がみえてきます。
アラベスクS-Rayのデータによると、国による関与の高い企業は、ESGスコアとGCスコアともに高いスコアを獲得しています。たとえば、ロシアのエネルギー会社であるガスプロムは、マテリアリティ(重要な課題)を重視したESGスコア(2021年7月7日付)で上位20パーセント 以内に位置しています。ブラジルのエネルギー会社ペトロブラスは同スコアの最上位10パーセント (同)以内に位置し、業界トップです。両社はそれぞれの業種内に留まらず世界全体でみても最上位10%に含まれています。
データに偏りがないとは言えないため(ESG関連のデータの開示は大企業に偏っています)、上記は信じがたい事かもしれません。世界のリーディング企業に国営企業が含まれていると既に認識しているアラベスクS-Rayのリサーチャーでさえも、信じがたい気持ちです。しかし、様々なESG評価機関の評価とスコアを集計した国連責任投資原則(UNPRI)による最近の調査でも、同様の結論が示されました。政府は、政治的な手段として、環境保護に積極的なグリーン企業を選別・支援するとともに、環境汚染につながる企業を売却するようなこともしてきませんでした。その結果、歴史的に重視されてきた国営企業は、環境課題に関して非常に優れた実績を出してきました。
その一方で、サステナビリティの評価やスコアをより詳細に分析していくと、そのような高い評価を得ている国営企業であっても、実は十分ではありません。アラベスクS-Rayの気温スコアを使用して温室効果ガスの排出量を分析すると、排出量データを開示している国営企業は少数であり、さらに、その中の2社、ガスプロムとサウジアラムコはパリ協定で定められた2°C目標から大きく逸脱しています。
私達は何ができるのでしょう?
上場企業では、公表された各企業のサステナビリティの評価やスコアに、疑問が投げかけられています。ガスプロムやサウジアラムコといった大気汚染を起こしている企業を、サステナビリティ企業というイメージのカラーで分類することは、誰にメリットがあるのでしょうか?企業行動に透明性が求められている中、基礎データを複雑な計算方法を使って算出し直された総合的なサステナビリティのスコアは妥当なのでしょうか?
現在、新たな傾向として、サステナビリティの各課題に特化したスコアが、投資戦略と組み合わされてきています。これにより、ESGの評価やスコアは表面的なものから詳細な分析に進化していくでしょう。
一方で、未上場企業の場合はどうでしょうか。例えば、ぺメックスは、合計1,050億米ドル(約11兆5千億円)の負債を抱えており、同社は新興国市場の最大の債券発行者の1つとなっています。このこと自体は珍しい現象ではなく、多くの国営企業が世界の債券市場で大きな発行体として役割を果たしています。しかし、これは同時に、投資家からの懸念や圧力が上場企業のものとそれほど変わらない「準規制」企業の状況に、国営企業を置くことになります。つまり、ぺメックスも参加しているクライメイト・アクション100 +等の取り組みに参加することでサステナビリティの状況を明らかにする必要があり、未上場企業でもエンゲージメントを行うことが可能となります。このことから国営企業を監督する国の説明責任も促進されることになります。
未上場企業の分析するアナリストの方々の意見はいかがでしょうか?
2021/8/5
Arabesque S-Ray
Arabesque S-Ray
アラベスクは2013年に創業し、資産運用事業を中核にサステナビリティ金融事業を推進してきました。2018年にESGリサーチの社内ツールであったS-Ray(R)を独立したESG評価事業としてアラベスクS-Rayをスタート。2019年には資産運用事業にAIを取り入れたAIエンジンを開発し、アラベスクAIを設立。金融、サステナビリティ、AIの融合を目指すことで、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
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