アラベスク:自傷ピクルス
※本記事は、ESG評価機関アラベスクによる寄稿を、和訳しご提供しています。
天然ガスと電力の価格上昇はヨーロッパ大陸に打撃を与えました。(英国の短期スポット価格は史上最高水準であり、ドイツの卸売電力の価格は2021年初めから2倍に上昇、通常ではあまりみられませんが、天然ガス価格は原油価格よりも高く取引されています。)さらに、ヨーロッパの天然ガスの貯蓄量は、昨冬が長引いた影響とロシアとの地政学的緊張の高まりで、平均水準を下回っています。
これは良い兆候ではありません。この価格上昇の影響は、いくつかの商品取引会社の財務に影響を及ぼすだけではなく、最終的にはエネルギー料金に反映されます。 シティグループは、ヨーロッパでガスと電力を利用する消費者の平均的な光熱費は20%増加すると見積もっています。 多くの消費者が新型コロナウイルスのパンデミックによる経済的困難からの回復途上にある中、なぜエネルギー価格はこの水準までたどり着いてしまったのか、どのようにこの現象が起こるのか疑問を投げかけます。
※ピクルスは漬物の便の中に何本も窮屈に入っていることから、「In a pickle」(窮地に陥っている)という意味で使用されています。
なぜ起こっているのでしょうか?
この問いへの答えは、複雑な状況に置かれている実態に気付かせてくれます。予測できる季節的な価格変動とは別に、価格上昇の背後には複数の要因があります。
- 予想よりも風力発電の発電量が少なかった(単に…まあ…風が吹かなかった)ため、短期的に風力発電に代わるエネルギーが必要となりました。その結果、すぐに利用が可能な石油とガスに対する需要が高まりました。
- 多くの企業がカーボン価格の「副作用」を感じました。これまで、エネルギー会社は価格を一定の水準に保つためにガスと石炭を切り替えていましたが、カーボン価格の高騰と段階的な石炭の廃止により、もはや価格を一定水準に保つ選択肢が無くなってしまいました。
これらの2つの要因は、再生可能エネルギー時代における問題を示唆しています。多くの人々は、前例の無い気象パターンや増加する自然災害における再生可能エネルギーの信頼性に疑問を投げかけています。
- 地政学的緊張の高まり、ノルドストリーム 2のように物議を醸すロシアとドイツの天然ガス・パイプラインプロジェクト、および中国の天然ガス需要の増加。
- 最後に、とても重要な要因は、原子力に関する非効率的な政策対応です。原子力は、短期的な需給の変動を緩和するためには、はるかに「クリーン」で安定したエネルギー源を提供します…しかし、科学的根拠ではなく感情的な対話によって導かれてきた長年に亘る原子力の段階的廃止運動は、原子力発電の代替に関して1つの解決策しか生み出してきていません。それは、新しい石炭発電所の建設です。このような選択に至るロジックも感情的で、私達は目を逸らしてしまいます。
伝えたい事は?
つまり、私達は現在、少し自傷行為をしているようなものです。私達はより高いカーボン価格と再生可能エネルギーの供給を求めていますが、それらが現在の国全体のエネルギー需要を満たすことができないことに気づいていないのです。 その一方で、「危険な」原子力の段階的廃止は進んでいるため、エネルギー会社は石油とガスに戻るしかなく、その結果、自然災害のサイクルを止めることが出来ず、そしてエネルギー価格の高騰につながっているのです。
多くの異なる見解、意見、イデオロギーがぶつかり合うこの不安定な議論の中で、私達は再び科学的証拠に基づく領域に対話の機会を見出します。私達は急速な技術進歩の時代を迎えていますが、最新のエネルギー使用量とエネルギーに関する研究開発の数は、再生可能エネルギーと原子力が世界のエネルギー需要を満たすために連携して機能する時代が来ることを示唆しています。太陽の核融合プロセスを再現してエネルギーを生成することを目指す熱核技術の進展は、核廃棄物を生み出さずに発電を可能とするより安全な方法として期待されています。
私達は、再生可能エネルギーと原子力または石油とガスのどちらかを選択するという究極の選択に直面していますが、どちらかを選択するということは現実的なのでしょうか?
2021/10/14
Arabesque S-Ray
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アラベスクは2013年に創業し、資産運用事業を中核にサステナビリティ金融事業を推進してきました。2018年にESGリサーチの社内ツールであったS-Ray(R)を独立したESG評価事業としてアラベスクS-Rayをスタート。2019年には資産運用事業にAIを取り入れたAIエンジンを開発し、アラベスクAIを設立。金融、サステナビリティ、AIの融合を目指すことで、サステナブルな社会の実現に貢献していきます。
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