メキシコの先人の知恵に学ぶ「災害に強い駅」の作り方
ある地域が過去数十年の間に経験したことのない温度や降水量などの気象条件を経験することを「異常気象」と呼ぶ。近年では世界のさまざまな地域で連日のように記録的な暑さや暴風雨などが報道されており、気候変動の進行は、その結果として私たちの暮らしにあらゆる面で変化を迫っている。その変化の一つとして「災害耐性のある建築」がますます求められている。
メキシコ・トゥルムはマヤ文明末期に栄えた城壁都市の遺跡であり、美しい海岸が近隣にあることからも国内有数の観光地として栄えてきた。そんなトゥルムでも近年、熱帯性暴風雨やハリケーンの発生が増加しており、街のすべての交通機関が停止することもあるという。建物の倒壊なども実際に起きており、災害に備えたインフラ整備が喫緊の課題だ。
そんな中、メキシコシティに拠点を置く建築事務所Aidia Studioは、トゥルムの鉄道駅を改修する計画を発表した。2021年1月に着工し、2023年6月まで1年半をかけて建設が行われる予定だ。同事務所の創設者、ローランド・ロドリゲス・レアル氏が「私たちは、強風に耐え得る駅を設計すると同時に、環境への影響を最小限に抑えるデザインを行う必要がありました」と振り返る建築構造は、古代文明の知恵を取り入れている。
マヤの伝統的な幾何学模様を彷彿とさせる同駅の形状は、ホームを通過する風や空気の流れをできるだけ多くすることを目指して設計され、雨を避けるために必要と判断された部分だけがガラス張りになっている。屋根が風を吸い込み、メインホールに風を通すように空気が循環することで、駅構内は機械を用いた送換気を必要とせず、有機的な冷却ができるようになるのだ。
空気力学的に優れたこのデザインは、ハリケーンに対しても高い耐性を発揮する。滑らかなカーブを描いた建築デザインは、強風に対する抵抗が非常に少なく、駅舎へのダメージは最小限に抑えられる。駅の長さは200mあるものの、中2階にあるレストランやショップなどは中央に集中しており、上から見ると特徴的な楕円形をしている。
また、マヤ文明以前のヒスパニックデザインの要素は、駅を利用する人々の体験にも大きな付加価値を与えている。利用客は駅構内にいても、その解放的なデザインにより、外部からの太陽光や風、あるいは周囲の美しい自然環境を連続的に感じ取ることができる。
太陽光が屋根から差し込むと、駅の壁や床に映し出される幾何学模様は圧巻の美しさだ。ロドリゲス・レアル氏は「ユカタン半島に位置するメリダやバジャドリッドのようなヒスパニック以前の都市や植民地時代の都市では、石灰岩を用いて光を操り、親しみ深さや暖かさを演出するという伝統技術がありました」と説明している。空間全体を巡る光と影は、駅の利用客に独特の感覚を呼び起こさせるだろう。
さらに、建築素材においても環境負荷を抑えるこだわりがある。壁、床、天井の塗装には、結合剤としてチュクムの木の樹脂を使用しており、この樹脂と石灰岩の細かい砂を混ぜることで、防水性のある塗装が可能になるのだ。また、再生可能な資源から作られたトロピカルウッドの使用が、空間に暖かさと質感を加えてもいる。
日本でも昔から、北海道や東北では「高気密高断熱」を基本とした家づくり、沖縄では台風対策として平屋でコンクリートの家が多いなど、地域の気候条件は建築にあらわれてきた。気候変動が進行することで、新たな自然災害により良く備えた建築は世界各地でいっそう求められている。トゥルム駅のプロジェクトは、その中でさらに土地固有の文化や景観を保存し、古の英知を活かした好例だ。2023年の完成を楽しみに待ちたい。
【参照サイト】AIDIA STUDIO : Tulum Train Station
2021/10/22
IDEAS FOR GOOD
[原文はこちら]
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