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リモートワークと新たなジェンダー格差の可能性

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2021年に「コロナ後もリモートワークはジェンダー平等を遠ざけるのか」と題した記事を書きました。1年が経った今、リモートワークとジェンダーやダイバーシティに関する記事がいくつかありましたので、ご紹介します。



リモートワークを望む人に機会が与えられていない?

FORTUNEは、2022年6月、リモートワークの機会においてジェンダーギャップが生まれたとする記事を掲載しています。(“The gender gap has come for remote work”

記事では、北米、欧州、オーストラリアを対象にマッキンゼーが2021年に行った調査結果を紹介。リモートワークの機会を得ている労働者の割合は、男性は61%、女性は52%、トランスジェンダーやノンバイナリーの方々は32%で、機会に差が生まれていることを示しています。

一方で、リモートワークを選択できる場合、男性は1週間のうち2.9日をリモートで働くのに対し、女性は3.1日と、男性に比べてやや多い数値です。FORTUNEは、女性は男性よりリモートワークを望んでいるがそのオプションを与えられていないと指摘しています。

以上の調査結果を掲載するマッキンゼーのWebサイトを見ると、以下の情報もありました。

障がいのある従業員がハイブリッドワーク(※1)を好む割合は、障がいのない従業員よりも11%高い

男女とも70%以上が、ハイブリッドワークを強く望んでいる。ノンバイナリーの従業員はその傾向がさらに強い。

LGBQ+(※2)の従業員がハイブリッドワークを望む割合は、ヘテロセクシャルの従業員と比べ13%高い

マッキンゼーは、従来、不利な立場に置かれてきた属性の人々は、よりハイブリッドワークを好む傾向があると指摘しています。

※1:リモートワークの選択肢がある、あるいはすべてリモートの働き方を「ハイブリッドワーク」と称している
※2:トランスジェンダーは男女の区分に含まれている

CEOクラスの41%が「リモートワーカーは昇進の対象になりにくい」

BBCは、2022年7月、リモートワークの昇進格差を埋めるのは従業員の責任なのか?と問題を提起する記事を掲載。(“Is it up to employees to fix the remote-work promotion gap?”)

米国の企業が2022年に行った調査を紹介しています。それは、CEOクラスの人の41%が「リモートワークの従業員が昇進の対象になる可能性は低い」と考えているというもの。

記事は、女性やいわゆるマイノリティと呼ばれてきた人々にリモートワークを好む傾向があることを踏まえ、多く出社し昇進する層とリモートワーク中心で昇進できない層の2つが生じて、新たな格差を生む可能性に警鐘を鳴らしています。

ある専門家はこの課題に対し、社内の注目を集めるふるまいはリモートワーカーの義務だと指摘。しかし記事は、昇進格差をリモートワーカーの責任にするのではなく、企業側が公平な環境を整備することが欠かせないと主張しています。

「今、働いています」と示すムダ デジタルプレゼンティズム

前項のBBCの記事からは、「会社にいること」「見えること」に価値が置かれている様子がうかがえます。一方、「リモートでも『いる』と示すこと」はすでにリモートワーカーのストレスになっているようです。

FORTUNEが2022年7月に掲載した記事は、QatalagとGitLabによる調査結果を紹介。一日のうちの決められた労働時間に「今、オンラインで働いています」と示すため、毎日67分を無駄に過ごしていると言います。

調査では半数以上(54%)が、メールやSlackへの返信、Googleドキュメントへのコメント、プロジェクト管理ツールの更新など「オンラインです」と示すことに、プレッシャーを感じていると判明。

オンラインステータスを示すためという効率的でない仕事の様子を、調査では「デジタルプレゼンティズム」と呼んでいます。健康経営の文脈でおなじみの「プレゼンティズム」は、心身の不調を抱えながらも会社に行き生産性が上がらない状態のこと。「いること」に価値を置くという点で重なります。

なお、特定の時間にオンラインになる必要がなければ生産性が上がるのに…と答える人は81%に上っています。

リモートワークの副作用を個人の努力不足に結び付けない

この記事では日本以外で行われた調査をご紹介しましたが、日本の状況と照らし合わせるとどうでしょうか。丸ごと当てはまるかはわからないものの、大切なのは、新たなジェンダー格差が生じたり生産性低下が起きたりするかもしれないと目を向けることです。

「いること」に価値が置かれてきた現代の会社のありようは、今、大きく変化する途上にあります。前述のBBCの記事が指摘するように、変化が生む副作用を個人の努力不足に結びつけるのではなく、職場の仕組みを整える努力をすることが期待されているのではないでしょうか。

(近藤圭子/ライター)

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Sustainability Frontline [原文はこちら]


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