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日本に「修理する権利」の波は来る?アップル、サムスンなど大手テック企業で今、起こっていること

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日々の生活で欠かせない存在となっているスマートフォン。破損や故障をしてしまい、メーカーや専門業者に修理の依頼をしたり、もしくはスマートフォンを新しく買い替えたりしたことのある人も多いだろう。「スマートフォンの構造は複雑でデリケート」「修理は専門業者に頼るべきだ」、そう考える人もいるのではないだろうか。

しかし近年、アメリカでは、購入した機器を自分で修理する権利が認められつつある。2012年、アメリカのマサチューセッツ州で「自動車所有者が修理する権利法」が制定されたのを皮切りに、電子機器業界にも「修理する権利」の波が徐々に広がっていった。2021年7月には、アメリカ連邦取引委員会が、「修理する権利を制限するメーカーの慣行に対する法的措置を強化する」との声明を発表。そして2022年6月、電子機器を対象にした「修理する権利」を定めるアメリカ初の法案が、ニューヨーク州議会で可決されたのだ。

こうした流れを受けて、大手スマートフォンメーカー各社は、スマートフォン購入者が自分で修理をする「セルフリペアサービス」をアメリカで提供し始めている。購入者が、修理に必要な部品とツールを受け取り、修理マニュアルに沿って自分でスマートフォンを修理することができるサービスだ。

・サムスン社(Samsung):2022年8月、修理マニュアルを提供するアイフィックスイット社(iFixit)と提携し、一部のGalaxy製品向けにアメリカでセルフリペアサービスを開始。

・アップル社(Apple):2022年4月、iPhone 12、iPhone 13、iPhone SE(第三世代)向けにアメリカでセルフリペアサービスを開始。2022年8月には、MacBook Air、MacBook Proもサービスの対象となった。今後、ヨーロッパ諸国でもiPhone向けのサービスを開始予定。

・グーグル社(Google):2022年4月、アイフィックスイット社と提携し、グーグル純正スマートフォンPixel製品のセルフリペアサービスを開始することを発表。2022年後半に、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国で開始予定。Chromebookについても、セルフリペアのプログラムを開始している。

なぜ、「修理する権利」が注目を集めているのだろうか。一つは、同じものを長く使いたいという消費者のニーズの高まりがある。アメリカで行われた調査によると、2年以内にスマートフォンを買い替えると回答した消費者は2016年時点では60%程であったが、2020年時点では47%に下落。スマートフォンの買い替えサイクルが長期化傾向にある(※1)。

スマートフォンは、OS(オペレーティングシステム)やセキュリティをアップデートすることで、旧機種であっても最新機能とセキュリティを搭載できる。グーグル社など大手メーカーの中には、OSやセキュリティアップデートに一定の保証期間(3年〜5年など)を設けているケースもある。購入から一定期間は最新機能・セキュリティのアップデートが実施されるため、安心して長くスマートフォンを使えるようになったのだ。

また、サステナビリティへの関心の高まりも、「修理する権利」が注目されるきっかけとなっている。従来スマートフォンの修理は、メーカーやメーカーが指定する一部の修理業者によって行われていた。競争相手が少ないことから高い修理価格が設定され、修理するより新しい製品に買い替えた方が安いという状況が起きていたのだ。

しかし、故障をしたら新しい製品を買うというサイクルは、廃棄物の増加につながり環境負荷も高くなってしまう。2019年には世界で53.6メガトンの電子廃棄物が生じ、そのうちリサイクル率は17%に留まったという。電子廃棄物は、2030年には74.7メガトン、2050年には110メガトンに増加すると見込まれている(※2)。サステナブルへの関心が高まる中、同じ製品を長く使うために「自分で修理する」という選択肢が広く認知されるようになったのだ。

一方で、「自分で修理する」ことには課題もある。その一つが、修理しやすい製品かどうかという点だ。修理マニュアルやツールが手元に届いても、複雑な構造の製品の場合、購入者が修理することは容易ではない。実際にアップル社のセルフリペアサービスを体験したユーザーからは、「製品構造が複雑なため修理が難しい」「マニュアルが難しい」といった声も上がっている。前述のアイフィックスイット社は、「修理しやすさ(Repairability)」の観点から各製品レビューを公開しており、今後は修理のしやすさが製品選びの基準の一つとなるかもしれない。

二つ目は、万が一修理に伴う事故や不具合が起きた場合は、購入者自身が責任を負うことになる可能性がある点だ。修理マニュアルには、注意を伴う作業についての注意喚起があるものの、修理作業に慣れていない人にとってはハードルが高く感じられるだろう。そのため、メーカー側には、修理しやすい製品作りを進めるとともに、「自分で修理をするのは難しい」と感じる人のために、提携する修理業者を増やす、修理価格を下げる等、修理に出しやすい環境づくりが求められる。

このように、アメリカでは「修理する権利」は認められつつあるものの、実際に購入者が修理をするにはハードルが残っているのが現状だ。一方、日本はどうだろうか。日本でも、スマートフォンの買い替えサイクルは、従来2年前後であったのに対し、近年は3年~4年と長期化傾向にあると言われている。

ただ、購入者自身が修理するためのハードルは依然として高い状況だ。現在、国内で電波を発する機器を利用するには「技術基準適合証明(以下、技適)」を受ける必要がある。技適マークの付いた機器を、資格を持たない個人が修理をしてしまうと電波法違反に問われる可能性があるのだ。このため、修理する権利が認められるようになるには、関連した法律の見直しを検討する必要がある。

また、購入者自身が安心して修理をできるよう、修理に関連したナレッジの蓄積やコミュニティづくりも必要だろう。前述のアイフィックスイット社は、修理マニュアルや修理キットの提供、「修理しやすさ」の観点での製品レビューに加え、修理に関するナレッジ共有と助け合いのためのコミュニティづくりや、「修理する権利」のアドボカシー活動も行っている。「自分の持ち物は自分で自由に修理する権利が誰にでもある」「そのために必要な情報やツールには誰もがアクセス可能であるべきだ」とし、メーカーや議会への働きかけも行っているのだ。

「修理する権利」が認められ、購入者の手によって修理がされるようになるには、幾つものハードルがある。しかし、一つのものを長く使いたいという消費者のニーズや、環境面での効果を考えると、「自分で修理する」ことは新たな選択肢として今後注目されていくだろう。そのために、「修理しやすい」モノづくり、修理するための環境づくりが、日本を含む多くの国で始まっていくのではないだろうか

※1 What Is the Average Replacement Cycle and Lifespan of A Smartphone?(Refurb Me)
※2 Global Transboundary E-waste Flows Monitor 2022 (United Nations Institute for Training and Research)

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2022/10/6
IDEAS FOR GOOD
[原文はこちら]

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