第16回 ダノンウォーターズオブジャパン
5年目を迎えた消費者参加型の社会貢献活動 認知向上から、さらなる次のステップへ
『ボルヴィック』を買うことで、劣悪な水環境のもとで生活しているアフリカの子どもたちが清潔で安全な水を飲めるようになる、という商品と社会貢献を結びつけた「1ℓ for 10ℓ(ワンリッター フォー テンリッター)」プログラム。2007年にスタートしたこのプログラムは、近年急速に関心が高まっているCRM(※)の先行例であり、成功例としても取り上げられることが多い。
2011年で5年目を迎えた「1ℓ for 10ℓ」のこれまでと今、そして今後を、プロジェクトリーダーを務めるダノンウォーターズオブジャパンの大塚竜太氏にお聞きした。
※ Cause Related Marketing(コーズ・リレーテッド・マーケティング)の略。ここでいうCauseとは社会的課題やテーマのこと。CRMとは、そうした課題の解決と売上拡大の実利との両立(社会性と収益性の両立)を目指すマーケティング手法です。
関心はあるがやり方がわからない人たちに、社会貢献参加のきっかけを作る
「ダノングループでは、社会貢献活動は企業文化の1つになっていて、『1ℓ for 10ℓ』プログラムも、そのような企業文化の中から自然に生まれたものでした」
世界的な大手食品企業だけに、CRMの手法を先進的に取り入れて始めたものだろうと予想して尋ねたところ、大塚氏から返ってきた答えはこのようなものだった。「1ℓ for 10ℓ」がCRMの好例だと社外からは言われるが、ご当人たちにそのような意識はないようだ。
「1ℓ for 10ℓ」プログラムは2005年、ドイツで社員の発案により始まり、2006年にフランスでも展開。こうした海外での動きを知った日本法人(ダノンウォーターズオブジャパン)のメンバーが、「日本でも実施しよう」と提案し、2007年から始まった。
改めて日本で展開しているプログラムの内容を整理すると、かねてから途上国の水と衛生問題に取り組んできたユニセフとの共同プロジェクトで、ボルヴィックの売上総量に応じてダノングループが売上の一部をユニセフに寄付。ユニセフが現地で進めている井戸の整備などを行うことにより、ボルヴィック出荷量1リットルにつき10リットル分の清潔で安全な水が生まれるというもの。ドイツがエチオピア連邦民主共和国、フランスがニジェール共和国を対象としており、日本ではマリ共和国を支援している。
Volvic 「1ℓ for 10ℓ」プログラム
プロジェクトリーダー
大塚竜太氏
「私は2010年からこのプロジェクトに加わりましたが、計画時には商品の売上と寄付を結びつけることへの疑問もあったようです」
社会貢献が社会に広く浸透しているヨーロッパに比べ、日本ではまだそれほど身近なものではなく、「関心はあるが参加の機会がない」というのが実情だった。しかし、日常生活に密接な“水”を買うだけで社会貢献ができる「1ℓ for 10ℓ」なら、そうした人たちが一歩踏み出すきっかけになるのでは、と考え実施を決めたのである。
こうしてスタートした2007年は、約4,200万円を寄付。2010年まで4年間の総額は約1億8,460万円(協賛企業分を含む)に達し、この支援で新設・修復された井戸によって、マリの約19万5,000人を劣悪な水環境から救うことができたという。
“認知”から“理解”へと軸足を移した頃、普及し始めたツイッター
2011年で5年目を迎えた「1ℓ for 10ℓ」プログラム。基本的な内容は変わらないにしろ、この間に展開方法の変化はあったはずだ。その点を大塚氏に尋ねてみた。
「1年目は、まず『1ℓ for 10ℓ』の存在を広く知っていただく必要があり、テレビCMもこのプログラムの告知に絞って打ちました。2年目、3年目もプログラムの認知拡大、そして支援の結果報告に努めましたが、中田英寿さん(元日本代表サッカー選手)、MISIAさん(歌手)に現地視察に行っていただく機会を得たことで大変大きな反響をいただきました。そして4年目、この年から私がプロジェクトリーダーになったのですが、“広く知ってもらう”ことから“深く理解してもらう”ことに重点を移しました。しかしこれが、なかなかの難題で・・・」
2010年からはツイッター(アカウント @1Lfor10L )を活用したコミュニケーションを展開。2011年からはフェイスブックの運用も開始している。
これまでの支援で現地がどう変わったのかを知らせ、「1ℓ for 10ℓ」に参加した人たちに具体的にどんな貢献ができたかを伝え、新たな参加者も増やす。次のステップとして、そうした深い理解の必要性を感じたものの、15秒のテレビCMなどでできるものでもなく、説明・対話の場を作るなど草の根的な活動にならざるを得ない。
そんな折にちょうど普及し始めたのが、ツイッターだった。効果や弊害など未知数な部分は多かったものの、大塚氏は2010年6月~8月のキャンペーンでツイッターの活用を試みる。
「2010年はプログラムのテレビCMも打たず、従来行ってきた店頭での告知や学校への出張授業に加え、ツイッターも取り入れて、草の根的なコミュニケーション活動を中心に展開しました。ツイッターに関しては普及し始めたばかりで不安もありましたが、間違った書き込みがあれば他の方がフォローしてくれるなど問題はほとんどなく、自分たちの活動に理解を深めていただく上で有効だったと感じています」
支援先からの、思いもかけない支援
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、多くの日本人が改めて社会貢献を考え、実行に移すきっかけにもなった。それは「1ℓ for 10ℓ」プログラムに、何か影響を及ぼすことはなかったのだろうか。
「当初は関係者の間でも、今年は『1ℓ for 10ℓ』のキャンペーンは中止すべきではないか、という議論もありました。しかしよく考えれば、マリの水問題と震災の問題は別のものなんですよね。会社として被災地の支援は行っているし、今年だけ『1ℓ for 10ℓ』をやめるのは少し違うのかな、という結論に達しました」
「1ℓ for 10ℓ」プログラムの具体的な支援方法としてはユニセフへの寄付という形になるが、ダノンウォーターズオブジャパンでも毎年、プロジェクトチームのメンバーやその他の社員が、現地へ足を運び状況を視察している。今年は5年目を迎えることもあり、これまでの成果の確認を目的に、「1ℓ for 10ℓ」で井戸が整備されたゴロンボ村などを大塚氏自身が訪問。生活環境が大きく改善された様子には驚きも多かったが、実はそれ以上の驚きが待っていた。
「東日本大震災のことはこの村にも伝わっていて、応援のメッセージや義援金を託されたんです。これには本当に驚かされましたし、支援というのはお互い様なのだと改めて気付かされました」
飲み水にも困っていた村の人たちが、遠い国の災害を気遣い義援金まで集めてくれていたのだから驚くのも当然だろう。「重いものを預かった」と感じた大塚氏は帰国後、この贈り物をより多くの日本人に見てもらう展示会の開催にも奔走している。
ダノンウォーターズオブジャパンは「1ℓ for 10ℓ」プログラムについて、特に長期的な実施期限を示してはいない。しかしダノングループには「サスティナブル・ディベロップメント」という考え方があり、「継続」は重要なキーワードになっているそうだ。
これまでの支援で着実に成果をあげてはいるものの、それでも寄与できたのはマリの人口の1.5%ほど。まだまだ先は長い。「売上は、結果としてついてくるものだと思っています」。そうしたスタンスで、ツイッターやフェイスブックなど新たなコミュニケーション手段も取り入れながら、大塚氏たちは「1ℓ for 10ℓ」プログラムを活性化させる努力をこれからも続けていく。
マリの子どもたちからの贈り物
マリを視察で訪れた際に、現地の方から預かった、日本を思うメッセージが込められたタペストリー。
「1ℓ for 10ℓ」プログラムのプロジェクトリーダー大塚竜太氏は、支援先のマリへ視察した際、東日本大震災の被害を心配した現地の方たちから預かった支援の品々の展示に努めている。2011年7月20日~8月12日には、ユニセフハウス(東京都港区)で「マリの子どもたちからの贈り物 僕たちのこころは日本のみんなとともに」と題した展示会を開催。復興支援への気持ちを込めたタペストリーや、子供たちが描いた絵、一人ひとりの思いがうかがわれる義援金のコインや紙幣を展示した。その後も被災地の方たちを含めより多くの人たちに見てもらえるよう、各方面へと調整を進めている。
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