レポート事例集

新型コロナウィルス感染症流行後の世界:グリーンリカバリー

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新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により、2008年に起こったリーマンショックを越える経済的ダメージが予測されている中、各国でさまざまな経済復興のためのプランが立てられ、実行に向けて進められつつあります。

その中で、昨今、世界的に話題となっているのが、単なる「過去の姿を取りもどす復興プラン」ではなく、気候変動への対応などサスティナブルな社会づくりを目指した復興プラン“グリーンリカバリー”です。

アル・ゴア元副大統領が率いるGeneration Investment Managementが7月9日に発表した2020年のSustainability Management Reportにおいても、その冒頭でグリーンリカバリーについて言及しています。

下のグラフは、各国が発表している経済復興プランの中で、環境破壊に結び付くセクターに流入する金額と、脱炭素社会や環境対策に結び付くセクターに流入する金額とを分類し、それらをインデックス化したものです。

巨額予算の経済刺激策を打つ中国、アメリカ、オーストラリア、そして日本は、ほとんど環境対策に結び付かない、いわゆるブラウンリカバリーといわれる復興プランとなっています。 一方で、カナダ、イギリス、フランス、特に欧州委員会が提案している復興プランは、大きく環境対策にも貢献するグリーンリカバリープランとなっており、同レポートもそれを高く評価しています。

Sustainability Management Report 2020 / Generation Investment Managementより

グリーンリカバリーに向けた世界の動き

では、各国のグリーンリカバリープランの状況を見ていきましょう。

欧州委員会が提案している復興プラン「Next Generation EU」では、豊かさとレジリアンスをもった次世代の社会づくりのために、7500億ユーロという巨額を以下のような対象に投資していく計画となっています。

投資対象例
  • 水素、太陽光、風力などの再生可能エネルギーのプロジェクト
  • 電気自動車の充電ポイントの拡充などの交通分野
  • グリーン建築
  • デジタル経済に向けた取り組み
  • 教育  など…

サスティナブルな社会づくりに向けて先陣を切る国が多い欧州ですが、このグリーンリカバリープランを各国が受けいれて実施されれば、さらに他国を引き離し、一段上のサスティナブルな社会の実現となる可能性が高いと言えます。


Europesn Commissionのサイトに掲載されている動画はこちらから

カナダでは「Building Back Better Canada Plan」が発表されました。気候変動の緩和や低炭素社会の実現に結びつく産業に対し、積極的な支援を行う計画です。特に重視している分野は以下です。

  • 家や職場などの建築分野
  • 電気自動車、アクティブモビリティー(徒歩や自転車)
  • 再生可能な電力
  • 製造業での脱炭素化
  • 森林や農地の改良
  • 電気自動車やゼロ炭素の天然資源 など…

カナダ政府は2021年から2030年にかけて、GDPの0.5%に相当する110億ドルを毎年拠出し、さらに民間の投資を引き出すことにより10年間で7900億ドルの投資を行う予定です。 カナダはこのグリーンリカバリープランによって、一気にゼロカーボン経済へ移行し、合わせてゼロカーボン経済における世界のサプライヤーになることを目指しています

グリーンリカバリープランを世界的に見ると、電気自動車への移行を後押しするものが多く見受けられました。前述の欧州連合、カナダをはじめ、例えばフランスでも、電気自動車購入のためのインセンティブプランを掲げ80億ユーロを拠出する予定です。またドイツでも、電気自動車の充電ステーションの拡充を行うプランが発表されています。

その他、イギリス、デンマークでは建築物のグリーンビルディング化に助成金を拠出するプランを発表しています。なお、イギリス国内では、政府が発表したプランはグリーンリカバリーへの足掛かりに過ぎず、十分ではないといった意見が多方面から出され、さらに拡充したグリーンリカバリープランを政府に要請している状況です。

また政府だけでなく、さまざまな国際的な団体でもグリーンリカバリーの推進に向けた動きが活発化しています。持続可能な開発のための世界経済人会議(WBSCD)では、NGO、シンクタンク、ヨーロッパ労働組合連合とともに、前述の欧州連合のグリーンリカバリープラン「Next Generation EU」に対し、欧州各国が実際に行動を起こすように求めるGreen Recovery Allianceに署名しました。SBT(The Science Based Targets Initiative)と国連グリーバルコンパクト、We Mean Businessの3団体は連名で、世界各国の政府に対して経済復興プランをゼロカーボン経済の実現に向けた内容にするよう求めています。

なぜ、これほどまでにグリーンリカバリーが必要なのか?

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の発表では、地球の気温が1.5度上昇するだけでも大きな気候変動が生じ、生態系はもちろん、私たちの健康、経済にも大きく影響があることが懸念されています。

冒頭に紹介したSustainability Management Reportでも、改めてこの点が言及されていました。下記グラフはレポートからの紹介ですが、気温上昇を1.5度に抑えるためには、緑の線のようにドラスティックに温室効果ガスの排出を抑えていかなければならないとしています。これだけの急速な転換には、政府の強力な財政的後押しがないと実現が困難だと言えます。

Sustainability Management Report 2020 / Generation Investment Managementより

OECDが各国政府に勧めるグリーンリカバリー

OECD(経済協力開発機構)では、グリーンリカバリーは決して不可能なことではなく、新型コロナウィルス感染症の流行によるダメージからの復興こそが、まさにその機会であるとして、各国政府に対してグリーンリカバリーの実施を推奨しています

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OECDサイト

OECDがまず勧めているのは、主要な温室効果ガスの排出源であり、改善により抑制が高く期待できると考えらえる農業、建築、電力、製造、交通の5つのセクターに焦点を絞ること。そして、投資、規制、税と助成金、リーダーシップ、情報と教育の5つの側面における施策を行っていくことです。

この5×5の25のアクションを行っていくことで、全体の90%の温室効果ガスの排出を抑制できるとしています。すでに技術もノウハウも蓄積されており、インフラ整備のための財源も、これまで持続可能性を損ねていた分野への投資を引き上げることで十分に供給が可能と指摘しています。

日本のグリーンリカバリーはどこへ?企業としての対応は?

日本政府が出した、新型コロナウィルス感染症による経済低下の復興のためのプランには、残念ながら気候変動への対応についての施策は入っていません(2020年7月時点)。

今後欧州では、前述のようにゼロエミッション経済に向けた巨額の投資が行われ、さらにEUタクソノミーといった厳しい基準が導入されてくる予定となっており、ドラスティックに ゼロエミッション経済に向けてシフトしていくことが予想されます。また、それにつれられるような形で、他の国も追従する機運が高まってくるはずです。

そのため企業側は、日本政府の動きに関わらず、世界のこれからの大きな変化を見据えて、自社を迅速に適応させていくことが必要だと考えられます。特にグローバル基準で報告書を出している企業にとっては、その基準自体がEUなどの先を行く国に合わせて変更がされていくため、世界の先駆的な国や企業の動きを鑑みながら対応していく必要があるでしょう。

30年以上前から、「気候変動に対応した社会・経済の転換=Transition」が言われてきました。そして、このようにグリーンリカバリープランが各国から出てきていることから、新型コロナウィルス感染症流行に伴う社会の変化は、このTransitionにつながる大きな転換点となると言えます。企業はこれまで以上に、気候変動への対応を重要テーマとして捉え、全社戦略として取り組むことが求められることになるでしょう。


【参考サイト】

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