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ESRSの第一弾採択でダブルマテリアリティが法制度化へ

欧州委員会は7月31日、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)のもとで策定されるサステナビリティに関する開示基準である「欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)」の第1弾を採択しました。ESRSに沿った情報開示の対象範囲はEU企業だけでなく一定の条件を満たす非EU企業にも及びます。対象になる日本企業は今後、ダブルマテリアリティに基づく詳細なサステナビリティ情報開示が要求されることになります。

■一定の条件を満たす場合、日本企業も対象に

ESRSに沿った情報開示の対象となる企業はCSRDで定められており、下記に当てはまる場合は日本企業も対象となります。

EU域内で1億5000万ユーロ以上の売上高を過去2年連続で上げ、かつ、EU域内に以下のいずれかに該当する子会社または支店を持つ企業

  1. EUが定義する大規模企業の要件(従業員が250名以上 / 売上高5000万ユーロ以上 / 総資産2500万ユーロ以上※)を満たす
  2. EU域内の証券市場に上場している子会社(零細企業を除く)
  3. 上記1. 2. に該当する子会社を持たない日本企業の支店の売上が4000万ユーロを超える場合

※2023年10月17日、インフレを考慮し対象企業の閾値が調整されました。(調整前:従業員250名以上 / 売上高4000万ユーロ以上 / 総資産2000万ユーロ以上)

■ESRSではダブルマテリアリティに基づく開示が要求される

ESRS第1弾(全セクター共通基準)は、横断的基準(cross-cutting基準)と環境・社会・ガバナンスに関するトピック別基準に分かれています。

横断的基準にはESRS1(全般的原則)とESRS2(全般的開示事項)があります。ESRS1はESRSに基づいた報告をする際に企業に適用される一般原則を規定しており、それ自体は特定の開示要件を設定するものではありません。ESRS2は、ガバナンス、戦略、影響、リスクと機会の管理、指標と目標を含む必須の開示事項を規定しています。

また、ESRSはCSRDと同様にダブルマテリアリティの原則を採用しています。ダブルマテリアリティとは、「自社が社会・環境に与える影響」と「財務への影響」の両方の観点に基づくマテリアリティを指します。対象企業はESRS2以外の全ての基準に関して、ダブルマテリアリティの原則に基づくマテリアリティ評価をおこない、マテリアルと判断した事項について開示することが要求されます。

■ESRS策定に関する今後の流れ

ESRSの基準作成を担当する欧州財務報告諮問グループ(European Financial Reporting Advisory Group:EFRAG)がESRS第2弾(セクター別基準、中小企業向けの基準、非EU企業向けの基準)のドラフトを現在開発中で、2024年6月までに策定される予定です。
そのほか、ダブルマテリアリティ評価の実効ガイダンスとバリューチェーン関連の報告に関するガイダンスも今後公表される予定です。

■企業が今からできる準備とは?

ESRSのもとになっているCSRDはEU法における「指令」にあたり、加盟国政府に対して法的な拘束力を持ちます。企業や個人に直接適用されるものではありませんが、自主的に利用するガイドラインであるGRIスタンダードなどとは異なる特徴を持ちます。

日本企業はまず、自社やEU域内の子会社が、CSRDの対象企業かどうかを確認する必要があります。対象企業である場合は、ESRSに沿った詳細なサステナビリティ報告をしてサステナビリティ報告に対する第三者保証を取得しなければなりません。

事前にできる対応としては、ESRSで求められるダブルマテリアリティや戦略、ガバナンスの検討、ポリシー、目標、行動計画、リソースの分配などについて検討することや、EUタクソノミーにおいて自社の製品やサービスがどのように評価されるかを把握することなどが挙げられます。

【参考】