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欧州の人権・環境デュー・デリジェンスの法制化への備え

2022年2月、欧州委員会よりCSDDD(Corporate Sustainability Due Diligence Directive)の指令案が公表され、企業に人権・環境DD(デュー・デリジェンス)を求める動きが加速しています。この法案は本年1月に施行されたCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)とも相関関係にあり、CSRDの開示要求では主にDDプロセスの説明など概要が求められる一方で、CSDDDではより内容面にフォーカスした事項が求められます。

CSDDDの概要

対象範囲については、欧州企業と非欧州企業に分かれており、売上規模や従業員規模に応じてそれぞれ第1、第2グループに分かれています。なお、CSRDの対象企業にあわせ対象範囲を拡大していくという議論も進められており、今後範囲が拡大される可能性があります。

【非欧州企業のグループ】

  • 第1グループ:EU域内での純売上高1.5億ユーロを超える企業
  • 第2グループ:EU域内での純売上高0.4億ユーロを超える企業で、全世界純売上高の50%以上が高リスクセクター(生地、衣類、皮革、履物、農業、森林、漁業、食品、飲料、鉱物資源、鉄鋼等)で発生している企業

すべての対象企業は、以下のようなバリューチェーンにおける人権・環境に関するDDの履行が求められることになります。

  • DDの企業方針への統合
  • 人権及び環境に関する顕在的/潜在的な負の影響の特定
  • 潜在的な負の影響に対する軽減・是正、顕在化している負の影響の停止・最小化措置
  • 苦情処理手続きの策定及び実行
  • 方針及び各措置の有効性についてのモニタリング(定性・定量的な指標に基づき少なくとも年に一度実施)
  • DDの取り組みについての開示

加えて、欧州企業および第一グループに該当する非欧州企業は、パリ協定に基づいた「1.5度目標」を達成するための計画と実施が義務となります。またDDの取締役による監督や、変動報酬との連動も求められます。

DDを企業方針に統合していくために

指令案の6条では、DDを既存のあらゆる企業方針に統合し、以下の要素を含むDDに関する企業としての方針を明確にし、毎年更新していくことを求めています。

  1. 長期的なものも含むDDに対する企業アプローチの説明
  2. 自社及び子会社が従うべき行動規範
  3. DDを実施するために導入されたプロセスの説明(行動規範の遵守の確認、適用を拡大するために取られた措置を含む

例えばユニリーバは、取引先に対するResponsible Partner Policyにおいて、自社のDDに対するアプローチやプロセス、また取引先に要請するDDについて具体的に記載されています。

特に日本企業においては「デュー・デリジェンス」という概念自体になじみがない中で、どのように従業員や取引先にとって分かりやすい形で方針に明記し、業務プロセスや日々の行動に落としこんでいくが課題になりそうです。

CSDDDに対する外部評価機関や国際機関の反応

CSDDDの草案を受け、関連機関からも様々なコメントが出されています。例えばCDPではパリ協定の1.5度目標の達成のためにCSDDDは画期的なアプローチとなると評価しつつも、企業の生物多様性への対応への遅れを指摘すると共に、欧州生物多様性戦略2030や生物多様性枠組の目標の達成に向け生物多様性の観点の盛り込みの必要性を指摘しています。

また、UNICEFでもCSDDDの人権と子どもの権利の尊重の確立への貢献を評価する一方で、子どもだけでなくより広い範囲から捉えた脆弱な状況にある全ての人々への配慮の必要性やDDの義務範囲を全産業へと拡大するための段階的なロードマップの作成などを提案しています。

今後の備え

現在は法案を修正している段階であり、実際に法律が適応されるまでには未だ時間の猶予はありますが、最終的にはより多岐にわたる対応が求められる可能性があります。また直接の適用対象ではない場合でも、適用対象となる取引先や海外投資家からの要請が増加することも想定されます。

日本企業でもDDの取り組みを目にするようになりましたが、人権・環境の両面でDDを実施している企業、DDに関する方針を明確に定め十分な実践に落としこめている企業はほとんどありません。

DDは強固なサステナブル経営を構築する上で、欠かせない要素です。多くの時間と労力を要するDDの構築に、一歩ずつでも取り組んでいくことが重要です。

(船原志保/アナリスト)

エコネットワークス

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