メニュー 閉じる

TNFD v0.3の4つのポイントと企業が今からできる準備

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は2022年11月、情報開示フレームワークのv0.3版を公表しました。開示提言の内容やLEAPアプローチがおおよそ固まったほか、科学的根拠に基づく自然に関する目標の設定やシナリオ分析の方法が提案されるなど、重要な変更がありました。

■v0.3の4つのポイント

  1. 開示提言がより自然の文脈に沿った内容に整理された
  2. LEAPアプローチが部分的に変更された
  3. 自然SBTsの設定に関するガイダンスがリリースされた
  4. シナリオ分析の方法が提案された

1. 開示提言がより自然の文脈に沿った内容に整理された

v0.3では、自然の文脈に沿ったものにするため、さらなる更新と新規項目の追加がありました。TNFDは今回のアップデートによって、気候変動と自然関連のリスク開示を組み合わせた統合的な報告(TCFD+TNFD)をさらに推進することを意図しています。

○更新された項目
① 自然関連の影響と依存関係に関する開示項目を組み込むため、3本目の柱が「リスク管理」から「リスクと影響の管理」に変更されました。
② 一貫性と整合性を持たせるため、他の多くの開示提言案において「リスクと機会」とともに「依存関係と影響」が追加されました。
③ 指標と目標Bが変更され、自然に対する依存関係と影響の管理の対象範囲が明確になりました。

○新たに追加された項目
① トレーサビリティ( リスクと影響の管理D
自然関連の依存関係、影響、リスク、機会を生み出す可能性のある、価値創造に使用されるインプットの出所を特定するための組織のアプローチを説明することが求められます。
トレーサビリティとは、自然関連の依存関係、影響、リスク、機会を追跡・管理するのに必要な、バリューチェーン上の重要な調達先を組織が理解するための透明で正確かつ完全なデータを持つことを指します。
② 権利保有者を含むステークホルダーとのエンゲージメントの質(リスクと影響の管理E)
TNFDで検討すべき事項は組織の自然に対する影響と依存関係場所によって異なります。自社の事業活動が先住民や地域社会(IPLCs)と密接に関係していることを認識し、自然関連リスク管理と開示の社会的側面も考慮するよう示されています。
今回の更新によって、自然関連の依存関係、影響、リスク、機会に対する評価と対応において、権利保有者を含むステークホルダーが組織にどのように関与しているかを説明することが求められます。
③ 気候と自然の目標の整合性(指標と目標D
自然と気候に関する目標がどのように整合され、互いに貢献し合っているか、またトレードオフがあるかどうかを説明することが求められます。
これはレポート利用者が、世界のネットゼロとネイチャー・ポジティブの両方の目標に沿った、組織の統合的な移行経路と計画の堅牢性を理解するのに役立ちます。

2. LEAPアプローチが部分的に変更された

主な変更点は下記。
① 金融機関向けのLEAPアプローチFIで設けられていた「評価のスコーピング質問」が、企業向けLEAPアプローチにも適用されます。
E(診断)フェーズにおいて、自然に対するマイナスの影響だけでなく、プラスの影響についても考慮することが推奨されました。
A(評価)フェーズにおいて、 A5(機会の特定と評価)が廃止され、自然関連の機会がA1~A4に統合されました。この変更によって、リスクの評価と同様のステップで機会の評価を行うことが推奨されます。
④ ステークホルダーエンゲージメントに関して、他のタイプのステークホルダーとは異なる権利保有者との間で必要になり得るエンゲージメントアプローチや要件を反映するため、「権利保有者を含むステークホルダーとのエンゲージメント」に文言が変更されました。

3. 自然SBTsの設定に関するガイダンスがリリースされた

TNFDは企業が科学的根拠に基づく自然に関する目標(自然SBTs)を設定する際、SBTNが現在開発中のガイダンスに沿うことを推奨しています。v0.3と同時にリリースされた「科学的根拠に基づく自然に関する目標の企業向け追加ガイダンス」は、SBTNによって開発された自然SBTsを設定するための5つのステップを取り入れています。

TNFDとSBTNは、現在カバーされていない自然関連の依存関係、リスク、機会に関する目標設定についてもガイダンスを開発する予定です。

4. シナリオ分析の方法が提案された

TCFD と同様に、TNFDも様々な不確実性を乗り越えるためにシナリオ分析が有用であることを認識しています。 これまで将来の自然関連のリスクや機会を推測するためのシナリオはありませんでしたが、v0.3とともに公開されたディスカッションペーパーにおいてシナリオ分析の方法が提案されました。

自然関連の依存関係、影響、リスク、機会が場所によって異なることを考慮し、企業が自らの特徴や置かれる状況に合わせて使用できるような設計になっています。「自然喪失度と企業の適応力(横軸)」と「市場原理と市場以外の原理の整合性(縦軸)」の2つの重要な不確実性が軸に設定され、4つの将来のシナリオが示されました。

v0.4では、市場からのフィードバックを踏まえたより詳細なガイダンスが公表される予定です。

■企業が今からできる準備とは?
TNFDの最終版が公開されるのは9月ですが、企業は今のうちからLEAPアプローチを使ってみるとよいでしょう。v0.3では開示提言やLEAPアプローチに関していくつかの重要な変更がありましたが、自然関連の依存関係、影響、リスク、機会を検討する上で「場所」が重要であることはv0.1から変わっていません。LEAPアプローチを活用して、自社がどのような場所でどのような自然資本に依存、影響しているかを検討しておくことが、今後TNFDの開示提言に沿った情報開示をする際に大いに役立ちます。

【参考リンク】